概要
那須・ハコラ病とは、骨と脳の異常を特徴とする遺伝性の病気です。1970年代に日本の那須 毅博士とフィンランドのPanu Hakola博士によりほぼ同時に発見され、このような名称が付けられました。一般的に、成人期以降に発症するといわれています。
この病気では、大脳の“白質”と呼ばれる部位が変性し、脳の正常な機能が阻害されます。また、骨には“嚢胞”という空洞がいくつも生じます。これらの結果、てんかん発作が起こったり骨が脆く骨折しやすくなったりします。進行すると認知症を発症し、次第に寝たきりの状態となります。
現在のところ、那須・ハコラ病の根本的な治療法はありません。骨折やてんかんなど、出現する症状や合併症に対する対症療法が行われます。
2009年度に行われた調査によると、この病気の患者数は国内で約200人と推定されています。患者は日本と北欧に集中しているものの、世界中で発症が確認されています。
原因
那須・ハコラ病は、骨や脳のはたらきに関与する“TREM2遺伝子”や“DAP12(TYROBP)遺伝子”の変異によって発症することが分かっています。ただし、発症の詳しいメカニズムについてはいまだ明らかになっていません。
なお、この病気は常染色体潜性(劣性)遺伝という遺伝形式を取るため、患者の親や子どもでの発症は通常みられないものの、きょうだい間で発症を認めることがあります。
症状
那須・ハコラ病では、骨や脳の変性によってさまざまな症状が現れます。骨の症状では、骨折や骨の痛みが頻発するのが一般的です。特に手足の骨を骨折しやすく、些細なけがで容易に骨が折れることがあります。脳の症状としては、パーソナリティ(いわゆる人格や性格)の変化やてんかん発作を認め、若年で認知症を発症することがあります。
症状は進行性に経過します。発症初期には症状がみられないものの、20歳代になると骨に嚢胞がみられ、骨折を繰り返すようになります。30歳代になると、言語障害やパーソナリティの変化、てんかん発作、感情や衝動を抑えられなくなる“脱抑制”などの精神神経症状がみられます。40歳代頃からは認知症を発症するようになり、次第に進行して寝たきり状態になります。
検査・診断
那須・ハコラ病が疑われる場合には、身体診察のほかX線検査や骨生検、CT、MRI検査、遺伝学的検査などが行われます。
身体診察では、骨症状や精神神経症状の有無を確認するのが一般的です。加えてさまざまな検査が行われます。まずX線検査では、骨に発生する嚢胞や骨折の有無などを確認します。骨生検では、骨を一部採取して顕微鏡で詳しく調べます。CTやMRI検査では、脳の萎縮や白質の変化の有無などを調べます。さらに遺伝学的検査では、那須・ハコラ病の原因となるTREM2遺伝子やDAP12(TYROBP)遺伝子の変異について確認します。
これらの検査の結果、骨や脳の変性を認め、繰り返す骨折や精神神経症状、TREM2遺伝子やDAP12(TYROBP)遺伝子の変異が確認された場合には、那須・ハコラ病と診断されます。
治療
那須・ハコラ病の根本的な治療法はなく、治療としては、出現する症状や合併症に対する対症療法が中心に行われます。精神神経症状に対して抗精神病薬を使用したり、てんかん発作に対して抗てんかん薬を使用したりします。また、骨折に対して外科的治療が行われることもあります。
また、那須・ハコラ病は徐々に進行するため、日常生活での配慮も必要です。骨が脆くなり骨折しやすくなるため、転倒や打撲には十分に注意する必要があるでしょう。また、病状が進行し精神神経症状が出現すると判断力が低下することもあるため、介護者のサポートが必要なケースもあります。
さらに、寝たきり状態になった場合には、床ずれの予防として適切なタイミングでの体位変換や皮膚のケアなどを入念に行うことが重要です。
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