概要
酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)は、スフィンゴミエリンという脂質を分解する酵素である酸性スフィンゴミエリナーゼのはたらきが悪いため、スフィンゴミエリンを分解できずに肝臓や脾臓、肺、脳などにたまることによって発症する病気です。頻度は出生児10万人あたり0.5人ほどといわれる非常にまれな病気で、国の難病に指定されています。
ASMDはニーマン・ピック病A型・B型とも呼ばれています。なおニーマン・ピック病にはC型もありますが、C型の原因はASMDとは異なり、A型・B型とはまったく違う病気です。酸性スフィンゴミエリナーゼはライソゾーム酵素の1つのため、ASMDはライソゾーム病に分類されます。
種類
ASMDは発症時期、神経症状の有無と重症度により以下の3つの型に分類されます。
乳児内臓神経型(ニーマン・ピック病A型)
生後半年以内に肝臓や脾臓の腫れ、成長障害が認められます。生後半年以降には運動発達の遅れが明らかになり、急速に神経症状が進行します。多くの患者に筋肉が柔らかい、哺乳力が弱いという特徴がみられ、ほとんどが3歳までに死亡する重篤な病型です。
慢性内臓型(ニーマン・ピック病B型)
発症する年齢や重症度は幅広く、神経症状は認められず、肝臓や脾臓の腫れをきっかけに発見されることが一般的です。腫れの程度や進行具合には個人差があり、重症例では肝硬変や腹水がみられます。時に咳や息切れなどの呼吸器症状が見つかるケースもあります。血液検査では低HDL血症がみられるのが特徴的で、そのほか、肝機能異常や血小板減少などの異常を認める場合があります。
慢性内臓神経型(ニーマン・ピック病A/B型)
乳児内臓神経型と慢性内臓型の中間の症状が現れる病型で、発症時期は子どもから大人まで幅広いのが特徴です。神経症状・肝臓と脾臓の腫れの程度と進行具合は大きな個人差が見られます。
原因
酸性スフィンゴミエリナーゼは常染色体上にあるSMPD1遺伝子によりコードされています。ASMDは常染色体潜性(劣性)遺伝病のため、SMPD1遺伝子変異が遺伝子上の両方に存在すると酸性スフィンゴミエリナーゼのはたらきが悪くなり発症します。
両親がSMPD1遺伝子変異を片方だけに持っている(=保因者)場合、25%の確率でASMDの子どもが生まれ、50%の確率で子どもは保因者になります。
症状
ASMDではスフィンゴミエリンが肝臓や脾臓、肺、脳などにたまるため、以下のような症状が認められます。
- 肝臓や脾臓の腫れ
- 咳、息切れ
- 血が止まりにくい(血小板減少による)
- 貧血
- 体が柔らかい
- 発達の遅れ
- 哺乳力不良
など
検査・診断
症状からASMDを疑った場合、まず肝機能、血小板、血清脂質などの一般血液検査を行います。肝機能異常があり、血小板減少が認められ、低HDL血症があればASMDの可能性が高いと判断されます。低HDL血症は全ての病型で認められるため、さらに以下のような特殊検査を行います。
眼底検査
眼科で行う特殊検査です。特に乳児内臓神経型の患者のほぼ全例で眼底に赤い斑点が認められます。
骨髄検査
骨髄組織を採取して顕微鏡で見る検査です。ASMDではどの病型でもニーマンピック細胞と呼ばれる泡沫状の細胞が認められます。
胸部CT
スフィンゴミエリンが肺の隔壁に全体的に蓄積するため、マスクメロンの網目のような特徴的な画像を呈します。
酵素活性測定
血液や皮膚を採取して、酸性スフィンゴミエリナーゼのはたらきを調べます。この検査により、酸性スフィンゴミエリナーゼのはたらきが10%以下であることが証明されればASMDの診断が確定します。
治療
ASMDに対して以下の2つの治療法が保険適用されています。
酵素補充療法
点滴で酸性スフィンゴミエリナーゼを補充して、たまったスフィンゴミエリンを分解する治療薬“オリプダーゼアルファ”が2022年に保険適用での使用が承認され、実際の臨床現場で使うことができるようになりました。この治療により肝臓・脾臓の腫れ、呼吸機能の改善が報告されています。
骨髄移植
酵素補充療法が開発される前は、骨髄移植がASMDに対する唯一の根治療法でした。HLA(ヒト白血球抗原)が一致した兄弟、あるいは骨髄バンクの登録者をドナーとしてその骨髄液を輸血する治療法です。肝臓・脾臓の腫れを改善するとともに、神経症状の進行を停止させる効果があると報告されています。
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