やとびょう

野兎病

別名:大原病

目次

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概要

野兎病とは、野兎病菌(Francisella tularensis)に感染することで引き起こされる感染症です。日本における発生事例を報告した医師の大原八郎の名前から、大原病とも呼ばれています。名前から推察されるように、原因となる病原菌はウサギを代表とする動物の中に潜んでいます。人には、直接的もしくはマダニなどを介して間接的に病原体が移ることから病気が発症します。こうした感染形式から野兎病は人畜共通感染症のひとつに数えられます。

野兎病は世界的にみるとほぼ北緯30度以北の北半球に広く発生していますが、日本に目を向けると、数年おきに数例の発生をみる程度のまれな病気です。日本では感染症法にて全数把握対象の4類感染症に指定されています。

野兎病を発症すると、発熱や倦怠感(けんたいかん)、筋肉痛といった感冒様症状から始まり、特徴的なリンパ節や皮膚症状など多彩な症状を呈します。ストレプトマイシンなどの抗生物質で治療を行うことになります。

野生動物との接触機会が減った日本においてはまれな病気となりました。しかし、現在も日本の野生動物は野兎病菌を有していると考えられています。また生物テロに利用される可能性も懸念されることから、今後も動向に注意することが必要です。

原因

野兎病は、野兎病菌と呼ばれる細菌に感染することを原因として発症します。野兎病菌はノウサギ、プレーリードッグ、野生げっ歯類などに感染します。その他に猫やリス、マダニ等多様な生物に潜むことができる病原体です。野兎病菌が人へ広がる伝播形式としては、病原体を有する生物との直接の接触が主であると考えられています。

具体的には、野兎病菌が感染した動物やその死骸によって汚染された水・食べ物を直接摂取する、マダニに刺される、などの経路が知られています。なお、野兎病菌の感染力は非常に強く、10個から100個というごく少数の菌に接触しただけでも感染します。患者さんの病変部位(たとえば皮膚潰瘍など)に触れるなどした人の健康な皮膚からも侵入し感染できます。

症状

野兎病は、多くは病原体に感染してから1週間以内の潜伏期間を経て発症します。初期には、発熱や筋肉痛、倦怠感などといった感冒様症状が主体であり、野兎病に特徴的な症状は必ずしもありません。

野兎病菌が侵入した部位に応じて、関連性の強いリンパ節に強い変化をもたらします。リンパ節の腫れはもちろんのこと、膿瘍(のうよう)形成から潰瘍(かいよう)を引き起こすことになります。野兎病菌の侵入経路は皮膚に限らず、扁桃(へんとう)での潰瘍形成(食べ物経由による感染)、結膜炎(目を介した感染)などの症状も呈します。また、内臓臓器にも障害を引き起こすことがあり、肺炎、髄膜刺激徴候、消化器症状もみることがあります。皮膚症状では、潰瘍以外にもじんましん、多形浸出性紅斑などの発疹を呈することも特徴的です。

検査・診断

野兎病の診断は、原因である野兎病菌の存在を証明することによってなされます。野兎病菌に対しての検査はルーチンで行うものではなく、かつ病初期にはこれといった特徴的な症状もないことから、検査を行うかどうかを決定するためにも、野生生物との接触などについて聴取することが大切です。

検査としては、特殊な培地を用いた培養検査や、野兎病菌に特徴的な遺伝子を検出するためのPCR法が有効です。その他、病変部位の検体を用いて野兎病菌の抗原を検出する検査も行われます。また、病原体に対する抗体を検出することも、間接的な感染証明になります。

治療

野兎病では抗生物質を用いた治療を行うことになります。野兎病菌は、細胞内に潜むタイプの菌であるため、こうした特徴を反映してストレプトマイシンやテトラサイクリンなどの抗生物質を用いることになります。ペニシリン系、セファ ロスポリン系抗菌薬は無効です。

野兎病では主にリンパ節に膿瘍形成を来すことがあり、抗生物質のみでは高い治癒率を期待することができません。そのため、局所治療として(うみ)を排泄することも治癒のためには重要です。

予防

野兎病はノウサギを始めとした野生動物との接触で感染します。そのため、野生動物には不用意には接触しないようにする心がけが重要です。野兎など野生動物の解体や検体を取り扱う場合には手袋などの防護具の着用が必要です。また、マダニなどによって刺されることでも感染が成立するため、流行地に赴く際には特に長袖長ズボンなどで肌の露出を少なくしましょう。また、虫除けスプレーの使用も効果的です。

野兎病菌の感染力は強いことも知られているため、汚染が疑われる水や食べ物を摂取しないように注意することも大切です。