概要
野兎病とは、野兎病菌による感染症を指します。野兎病菌は、主にノウサギなどの齧歯類が保菌しています。野兎病菌を保有する動物に直接噛まれることや、それらの動物を吸血したマダニに刺されることによって感染が生じます。
この病気は、北米や北アジアなど北緯30度より北の地域に多く発生し、米国やスウェーデンなどの地域でも散発的に確認されています。日本においては、戦後から1960年代まで東北地方全域と関東地方の一部地域で感染が報告されていました。現在の日本では極めてまれな感染症となっていますが、海外渡航者の感染や国内の野生齧歯類からの感染事例が確認されています。また、野兎病菌は生物テロの可能性がある病原体として近年警戒されています。
症状としては、発熱や頭痛などの風邪に似た症状が現れ、重症化すると肺炎などの合併症を引き起こす可能性があります。治療としては、主に抗菌薬による薬物療法が実施されます。
野兎病菌は強い感染力を持つため、発生地域では野生動物との接触を避けることが重要です。
原因
野兎病の原因は、野兎病菌への感染であり、この細菌は主にノウサギなどの齧歯類の体内に生息しています。日本におけるヒトへの感染は主にノウサギを介して発生しますが、ネコ、ニワトリ、リス、ムササビなどの動物との接触による感染例も報告されています。感染経路は、野兎病菌を持つ動物に触れたり噛まれたりすることや、感染した動物から血を吸ったマダニやアブなどの虫に刺されることです。特に、ノウサギの調理や剥皮作業に従事する職業の人々において発症例が多く確認されています。また、野兎病菌で汚染された水や生肉の摂取によっても感染する可能性があります。ヒトからヒトへの感染は通常起こりません。
症状
野兎病の症状は、野兎病菌に感染してから通常3日から1週間の潜伏期間を経て現れますが、ときには発症まで1か月程度かかることもあります。発症時には38度から40度の急激な発熱とともに、悪寒や震えが起こります。また、頭痛や全身の筋肉痛、関節痛なども症状として現れます。
感染部位によって症状はさまざまです。特徴的な症状として感染部位に関連したリンパ節の腫れと痛みがみられることがあります。特に皮膚から感染した場合、その部位近くのリンパ節が腫れることが多く、感染部位には皮膚のただれ(潰瘍)や赤い発疹が現れることもあります。重症化すると肺炎を引き起こす場合もあります。
検査・診断
野兎病が疑われる場合には、問診や血液検査などが行われます。問診では、患者の症状に加えて、野兎病菌が確認されている地域への訪問歴や、その地域での野生動物との接触の有無について確認します。また、血液のほか皮膚や粘膜の病変部位、咽頭、リンパ節などから検体を採取します。これらの検体を用いて細菌の培養検査や遺伝子検査を行い、野兎病菌の有無を確認します。
治療
野兎病の主な治療は抗菌薬による薬物療法です。ストレプトマイシンやゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬が第一選択として用いられ、これらは筋肉内注射と内服によって投与されます。また、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、ドキシサイクリンなどの抗菌薬が選択されることもありますが、これらの薬剤では治療後に症状が再発する可能性があり、アミノグリコシド系抗菌薬と比べて長期間の投与が必要となる場合があります。
リンパ節が腫れて膿が形成されている場合には、患部の切開により膿を排出し、症状に応じて切開部位に抗菌薬を注入する処置が行われることもあります。
予防
野兎病の予防としては、野兎病菌が確認されている地域での感染対策が重要です。該当地域では野生動物との接触を避け、マダニやアブなどの虫に刺されないように対策を行う必要があります。具体的には、虫除けスプレーの使用や、長袖・長ズボンを着用して皮膚の露出を避けることが推奨されます。また、感染予防のために生水を飲むことは控えましょう。
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