顔面けいれんとは、顔の片側が、自分の意志とは関係なく勝手に動いてしまう病気です。顔面けいれんの治療は、主に症状と患者さんの希望によって決定されます。
顔面けいれんの治療の選択肢には、症状を和らげる治療と根治的治療がありますが、それぞれどのような治療法があるのでしょうか。今回は、昭和大学病院の清水 克悦先生に、顔面けいれんの治療の選択肢についてお話をお伺いしました。
顔面けいれんの患者さんの病院の受診については記事2『顔面けいれんは何科を受診すべき?』をご覧ください。
顔面けいれんの治療には、主に内服薬、ボツリヌス毒素療法、手術があります。治療は、症状や患者さんの希望を考慮し、決定されます。
これらのなかで、顔面けいれんの症状を和らげる治療は、ボツリヌス毒素療法と内服薬による治療です。
ボツリヌス毒素療法とは、けいれんが起こっている筋肉にボツリヌス毒素製剤を注射することにより筋肉をある程度麻痺させて、けいれんの症状を和らげる治療法です。
ボツリヌス毒素療法では、3か月〜半年に一度、病院でけいれんが起こっている顔面に注射を受ける必要があります。
一方、顔面けいれんに対する薬ですが、顔面神経の異常な興奮を選択的に抑制する薬剤治療は、今のところありません。興奮を抑える目的で、精神安定剤や抗てんかん薬を使用することもあるようですが、効果はあまり期待できないと考えられます。
顔面けいれんの治療法のうち、根治療法となるのは、手術治療です。手術によって、神経から圧迫する血管をはずすことができれば、多くの場合、けいれんの症状が治まるからです。
お話ししたボツリヌス毒素療法による症状を和らげる治療は、定期的に治療を受け続けなければなりません。一方、根治的治療である手術は、一度治療を受ければ症状が治まるケースがほとんどです。
もちろん脳幹部の神経を扱うデリケートな手術ですからリスクは伴います。そのため、リスクについて十分お話してご理解をいただいたうえで、一度の治療で症状をなくしたいという患者さんに対し、手術を実施することが多いです。
顔面けいれんの手術は、全身麻酔でおこないます。そのため、心臓の状態が悪いなど全身麻酔を受けることができない方は、手術することができないケースもあります。
また、事前の画像診断で神経を圧迫している血管が明確でない場合は、手術をしても治る見込みが低いため、ボツリヌス毒素療法など他の治療法をすすめるケースもあります。
しかし、原因の血管がはっきりとわかっており、麻酔などの制限がない患者さんであれば手術が根治的治療になる場合が多いといえるでしょう。
顔面けいれんの手術では、微小血管減圧術と呼ばれる手術方法を適応します。これは、顔面神経を圧迫する血管をみつけ、神経に接触しないよう移動させる手術方法です。
一般的な微小血管減圧術は、患者さんを横向きで寝かせ、脳ベラという手術器具で脳を引っ張り神経や血管を操作します。この場合、聴力を司る神経もともに引っ張られるため、術後に聴力障害が現れる危険性が高くなるといわれています。
近年では、上向きに寝てもらい脳ベラを使わない手術も登場しています。この手術法は、聴力障害の危険性が少なく、より患者さんにとって負担の少ない手術であるといわれています[注1]。
注1:Shimizu K, Matsumoto M, Wada A, Sugiyama T, Tanioka D, Okumura H, Fujishima H, Nakajo T, Nakayama S, Yabuzaki H, Mizutani T. Supine No-Retractor Method in Microvascular Decompression for Hemifacial Spasm: Results of 100 Consecutive Operations. J Neurol Surg B Skull Base 76(3): 202-207, 2015
顔面けいれんの手術は、当院では10〜14日程度の入院が必要となります。
顔面けいれんの手術は、保険適用されています。入院期間や入院する部屋にもよりますが、手術費用は10万円前後と考えていただければよいと思います(2018年時点)。
顔面けいれんの手術を受けると、退院後すぐに日常生活に復帰できます。また、けいれんの症状は、術後3か月〜半年程でなくなることが多い傾向にあります。このため、術後3か月を目処に病院を受診してもらい、けいれんの症状がないことを確認できれば治療は終了になります。
もちろん、けいれんが残っている場合や心配なことがあればその後も受診を続けてもらうケースもあります。
しかし、現実には、患者さん安心のため年1回程度のフォローアップを数年続けることが多いです。このことは、手術の長期成績の判定にも役立っています。
顔面けいれんで手術を受けた患者さんのうち、再発したり後遺症が残ったりするケースは少ないと考えられています。しかし、手術を受けた方のうち数%は、再発や治らないケースもあるといわれています。
顔面神経の周囲には無数の血管があります。そのため、術後に新たに別の血管が神経を圧迫する場合や、原因となる圧迫血管が一つだけでないケースもあります。このような方は再手術で治癒が期待できます。
一方、神経に何もあたっていないように見える状態であっても、けいれんの症状がなくならない方がまれにいます。このようなケースでは、再手術とともに、症状を和らげるボツリヌス毒素療法など他の治療も考慮します。
記事1『顔面けいれんの原因や症状』でお話ししましたが、顔面けいれんは顔の片側半分に起こることがポイントです。さらに、まぶた・頰・口が同時に動くことも大きな特徴です。この2つの状態がみられるようなら、顔面けいれんの可能性を考えていただいてよいと思います。
また、顔面けいれんは、生活習慣とは関係なく突然起こります。けいれんが発生し、しだいにけいれんが起こる場所が広がるようであれば、なるべく早く病院を受診していただきたいと思います。正確な診断をうけることで余計な不安がなくなり、正しい治療につながる可能性があるからです。
また、不治、再発の方に対しては、信頼できる医師による再手術という選択肢もあります。あきらめずに、医師に相談することも検討していただきたいと思います。
顔面けいれんは軽症であってもご本人にしかわからない苦しみとなり、人生のクオリティーを低下させてしまいます。今後も、正確な診断と手術を心がけ、少しでも患者さんのお役に立てればと考えています。
昭和大学医学部脳神経外科 准教授
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