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顔が痛い、ピクピクする、けいれんする症状は手術で治るケースも――三叉神経痛・顔面けいれん手術について

顔が痛い、ピクピクする、けいれんする症状は手術で治るケースも――三叉神経痛・顔面けいれん手術について
廣田 暢夫 先生

横須賀市立うわまち病院 第一脳神経外科 部長

廣田 暢夫 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年02月15日です。

顔に痛みを感じる、またはピクピクする、けいれんするなどの症状は、脳の神経が圧迫されることで起きる「三叉神経痛」や「顔面けいれん」の可能性があります。これらは手術によって治る確率が高い病気であるにもかかわらず、「三叉神経痛」や「顔面けいれん」と気付いていない、手術という治療選択肢を知らないという患者さんも多くいらっしゃいます。これらはどういった病気で、どのような治療選択肢があるのでしょうか。横須賀市立うわまち病院 第一脳神経外科部長 第一脳血管外科部長の廣田 暢夫先生にご解説いただきます。

顔が痛いという症状は「三叉神経痛」の可能性があります。三叉神経痛とは、顔の機能を司る神経(三叉神経)に、脳の血管が触れることで、神経が刺激を受け、顔に痛みを感じる病気です。三叉神経痛は激しく痛むケースが多く、患者さんは大きな苦痛を感じます。症状が深刻になると、食事が取れない、話すこともできない場合があり、著しい体重の減少や、うつ病の発症につながることもあります。

 

三叉神経痛

また、顔がピクピクする、けいれんするなどの症状が現れる場合には「顔面けいれん」の可能性があります。顔面けいれんでは、脳の中にある顔の筋肉の動きを司る神経(顔面神経)に血管が触れ、その刺激によって意図していない動き(けいれん)が引き起こされています。顔面けいれんは、症状が気にならなければ治療の必要はありません。しかし、容姿の変化に敏感な若い女性や、営業職など人と対面する仕事に就く方は、顔が引きつることで生活に大きな支障が生じるため、治療を希望される方が多いです。

 

顔面けいれん

頬をおさえる患者さん

三叉神経痛は「虫歯」と間違われることが多々あります。そのため、初めに歯科を受診し、歯を抜いたものの痛みが治まらず、別の病院を受診して三叉神経痛と判断され、当院へ紹介される患者さんも多いです。当院で治療をした三叉神経痛患者さんのうち、約半数はすでに歯を抜いて治療をした方でした。三叉神経痛はそれほど虫歯と間違われやすい病気だといえます。

顔面けいれんは、ストレスや筋肉の疲労で起こる「眼瞼痙攣(がんけんけいれん)」と症状が似ています。また、脳の神経の過剰興奮で起こる「てんかん」でも、顔のけいれんが見られることがあります。しかし、てんかんの場合、顔のみにけいれんが現れるのはまれで、多くの場合は体の半身にわたってけいれんが現れます。そのほかにも顔面けいれんは、眼瞼ミオキミア、チック、顔面麻痺に伴う顔面の病的共同運動(pathological synkinesis)などと症状が似ているため、鑑別に注意が必要です*

* 日本神経治療学会編 標準的神経治療:片側顔面痙攣(2008)より

顔の神経は、血管だけでなく腫瘍や動脈瘤*によっても圧迫されることがあります。そのため脳腫瘍脳動脈瘤でも同様の顔の痛み・けいれんが起こります。これらは同じ症状であっても、圧迫している原因がそれぞれ異なるため、治療法も異なります。

* 血管の一部がコブのようにふくれあがったもの

患者と向き合う医師

まずは問診によって、患者さんの症状をよくヒアリングします。

三叉神経痛顔面けいれんが疑われる場合には、MRIやCTによる画像検査が必須です。脳腫瘍脳動脈瘤がないかを調べます。高精度のMRIでは、神経に血管が触れている様子を画像から判断することもできます。このステップによって病気の診断がつきます。

三叉神経痛・顔面けいれんの診断がついたら、治療方針を決めていきます。症状の程度や、患者さんの希望によっては、治療を行わないという選択肢もあります。治療を行う場合には、いくつかある治療方法の中から、もっとも患者さんに合ったものを検討します。それぞれのメリットやデメリットを丁寧に説明しながら、患者さんの希望を尊重して治療方針を考えていきます。

三叉神経痛は手術で治療が可能です。三叉神経痛症*に対する手術の効果について、手術直後の疼痛(とうつう)**消失率は約80~95%、部分的な改善は2~20%、まったく効果が得られなかった方は0~5%と報告されています***

* 典型的三叉神経痛についてのデータを示す
** 疼痛……ズキズキと痛むこと
***日本神経治療学会編 標準的神経治療:三叉神経痛(2009)より

顔面けいれんも手術によって治療することができます。手術療法の寛解率*は80~90%と報告されています**

* 寛解率……病気の症状が一時的もしくは持続的に治癒した患者の割合
** 日本神経治療学会編 標準的神経治療:片側顔面痙攣(2008)より

どちらの病気も「微小血管神経減圧術」という手術が行われます。微小血管神経減圧術とは、頭部の一部を切開し、痛みやけいれんを起こしている神経に触れている血管を移動させる手術です。三叉神経、顔面神経のどちらを手術するかによって開頭する位置が異なります。手術時間は3時間程度、全身麻酔で行います。通常、手術直後から痛みやけいれんが消失しますが、術後徐々に症状が改善していくケースもあります。

三叉神経痛も顔面けいれんの手術法 「微小血管神経減圧術」

 

三叉神経痛も顔面けいれんの手術法 「微小血管神経減圧術」

三叉神経痛顔面けいれんの根本治療となるのは、いまのところ手術療法のみです。手術以外には、下記のような治療法(対症療法)が挙げられます。

神経ブロックとは、薬剤や熱によって神経を遮断することで、痛みやけいれんを抑える治療法です。神経ブロックにはいくつかの種類があります。

三叉神経痛に対する神経ブロックには、神経を麻痺させる方法と、神経を破壊する方法の2つがあります。これらの方法によって神経のはたらきを抑えて、痛みを感じないようにします。

一方、顔面けいれんに対する神経ブロックは「ボツリヌス毒素療法(ボトックス注射)」が一般的です。この方法は、けいれんを止めるのではなく、顔の筋肉を麻痺させてけいれんがないように見せる方法です。患者さん自身はけいれんの動きを感じていますが、他者から見るとけいれんしていることは分かりません。

これらの方法は顔の感覚を麻痺・消失させているため、口の中を噛んでしまう、感覚が戻らなくなるなどのリスクがあります。また、対症療法であるため、症状が戻ったときには再度治療を行わなくてはいけないというデメリットもあります。

薬剤によって神経の興奮を抑えることで、三叉神経痛や顔面けいれんを治す方法です。

三叉神経痛では、ほかの治療法に比べて侵襲(体への負担)の少ない薬物療法が第一選択となります。

一方、顔面けいれんでは、第一選択としてボツリヌス毒素療法が行われ、さらに手術療法でも良好な成績が得られているため、一般的に薬物療法は最後の治療選択肢となります。ボツリヌス毒素療法や手術療法が禁忌である、希望していない、無効であったなどの場合に薬物療法が適応となります。

この方法は、三叉神経痛の治療方法です。

ガンマナイフ治療とは、高線量の放射線を病変部にピンポイントで照射することで、脳内の病変を治療・コントロールする方法です。この方法は、高線量を病変に集中的に照射できるため、周囲正常脳組織を傷つけることがない治療法です。

いままで薬物療法が効かない場合には、頭部を切開する「手術療法」のみが選択肢でしたが、このガンマナイフ治療ができたことで、より患者さんの体への負担が少ない治療ができるようになりました。

手術

三叉神経痛顔面けいれんの手術に限らず、脳外科手術には常に後遺症や合併症のリスクがあります。一般的に、三叉神経痛・顔面けいれんの手術は成功率が高いとされており、当院で行った手術でも幸いこれまで合併症は起こっていません。しかし、脳外科手術では常にリスクがありますので慎重に検討を進めるようにしています。患者さんには脳外科手術のリスクをきちんと説明して話し合ったうえで、患者さんのご希望に沿った治療を進めるのが基本方針です。

周囲からの理解を得られず落ち込む高齢者

世の中にはまだ「三叉神経痛顔面けいれんは手術で治療ができる」ということを知らない方がいらっしゃいます。病気を抱える方が症状に苦しむ時間を少しでも減らせるよう、手術療法の存在をより世間に広め、患者さんの治療の選択肢の1つになるようにしていきたいと思っています。

顔の痛みやけいれんの苦しみは、患者さん本人以外には理解しにくく、顔の痛みでしかめた表情や、顔がピクピクしている状態は、病気のことを知らない人から見ると、不快な表情と誤解されることがあります。また三叉神経痛は「顔を取りたい」「死んだほうが楽だ」と症状を訴える方もいらっしゃいますが、目に見える症状ではないことから、そのつらさを周囲に分かってもらえないことがあります。そのため患者さんの中には症状の不快さに加え、精神的につらい思いを抱える方も多いです。

顔の痛みやけいれんに苦しむ方は、一度、三叉神経痛・顔面けいれんを疑い、医療機関を受診することで、症状に悩まされる日々から抜け出せる可能性があります。この病気に詳しい医師へ相談し、一緒に解決法を考えていきましょう。

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