概要
食道気管支瘻とは、何らかの原因で食道や気管支に小さな穴が開き、全く異なる役割をもつ食道と気管が瘻孔という通り道でつながってしまう状態です。
気管は頚部(首の部分)から胸部にかけて腹側に、食道は背側に並んで走行しています。これらはそれぞれ空気と食べ物の通り道であり、全く異なる働きをしています。
原因
食道気管支瘻には、生まれつきのものと他の病気の合併症として発生するものがあります。
先天性(生まれつきのもの)
食道の元となる器官は人が受精卵から成長するごく早い段階で形成が開始され、しばらくするとそこから新たに気管が分化します。食道と気管は全く異なる働きと構造をしていますが、元は同じところから発生しているのです。
このような分化に何らかの異変があって食道と気管の分化が完璧に行われず、つながったままである状態が先天性の食道気管支瘻です。このような分化異常の原因は明らかにされていません。
後天性(合併症などによるもの)
食道の悪性腫瘍や放射線治療後、高エネルギーな外傷や炎症によって生じます。
特に多いのは食道がんの合併症として発生するものであり、食道がんの5~15%に合併するとの報告もあります。これは食道がんが進行して食道を突き破り、気管に浸潤して瘻孔を形成するためです。
症状
先天性か後天性かによって症状は異なります。またどちらの場合でも、瘻孔の位置や大きさ、食道から気管への角度などによって症状の強さが変わります。
先天性
食道が胃までつながっていない場合とつながっている場合があります。胃がつながっていない場合には、飲み込んだ羊水や母乳が逆流して気管を通して肺に入り込み、激しい咳込みやチアノーゼ、高熱などの症状が現れます。これらのケースでは生後間もなくして診断されることが多いです。一方、食道が胃までつながっている場合には、繰り返す気管支炎や肺炎、飲み込み時の咳込みが起こります。
症状の程度はさまざまで、瘻孔が肺に近く、大きいほど重度の肺炎を起こしやすいです。また食道から胃への瘻孔の角度が急な場合も、食べ物が気管に入りやすくなることから肺炎を起こしやすくなります。この場合では、乳児や幼児の場合で発見されることもあれば、ほぼ無症状で大人になって初めて診断されることもあります。
後天性
まず食道と気管に瘻孔が形成されるときに、のどや前胸部に強い痛みを感じることが多いです。また、のどの異物感が出たり、物を飲み込みにくくなったりします。水分を飲むとむせることが多くなり、肺炎や気管支炎を繰り返すこともあります。特に食道がん末期の場合には、のどの異物感による食欲低下や肺炎などが原因となり、命にかかわることもあります。
検査・診断
基本的には先天性も後天性も同一の検査です。乳児や小児では検査への協力が難しいこともあり、検査の施行に危険があるときは全身麻酔や鎮静をしてから行うことがあります。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)・気管支鏡検査
食道や気管の内部をカメラで観察することによっって、瘻孔の位置や大きさがわかります。
食道造影検査
内視鏡検査と同時に行われることが多く、明らかな瘻孔を造影することができます。大きさや位置だけではなく、瘻孔の角度を観察することも可能です。
胸部・腹部レントゲン写真
特に先天性の重症例では、お腹の中に空気がたまって膨満することがあります。胸部・腹部レントゲン検査では、お腹の中のガスの溜まり具合を調べることができます。
胸部CT
気管支鏡で観察できないような末梢の気管支に瘻孔が形成されていると考えられる場合、胸部CTでより精密な観察を行うことができます。
治療
治療方法は先天性か後天性かによって異なります。特に後天性の場合は非常に進行したがんがあるために、根治的な治療の実施が困難なことが多いです。
先天性
基本的に手術によって治療を行います。食道と気管に形成された瘻孔を切除して、それぞれの穴を塞ぐという方法です。しかし子どもの食道気管支瘻で全身状態が悪い場合には、中心静脈カテーテルによる栄養療法を先に実施して、状態が落ち着いてから手術することもあります。
後天性
根治的な治療は手術による瘻孔の切除と閉鎖ですが、末期がんなどで手術を行えないこともあります。しかし食道気管支瘻は命にかかわることもある肺炎を繰り返す原因にもなるため、内視鏡を用いて食道にステントを入れます。これによって食道から肺へ食べ物や飲み物が入り込まず、肺炎の発生予防を狙えます。また食道が広げられたことで食べ物の飲み込みがうまくできるようになるため、QOL(生活の質)の向上にもつながります。
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