経膣分娩での出産を希望する方や、帝王切開分娩のリスクを避けたい方にとって、高い確率で逆子を治すことができる「外回転術」は非常に魅力的です。しかしながら、外回転術にも母児にかかる負担や、手技を受けられないケースが存在します。これらを知ったうえで、お母さんご自身が生み方を選択できることが望ましいと、国立成育医療研究センターの周産期・母性診療センター骨盤位外来の小川浩平先生はおっしゃいます。
外回転術には、頻度は低いものの合併症のリスクが存在します。具体的には、一過性の胎児心音異常、破水、性器出血、そして常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)などが挙げられます。この中でも私たちが最も懸念しているのは、子宮に外力が加わると一定頻度で起こると言われている常位胎盤早期剥離のリスクです。常位胎盤早期剥離の難しいところは、胎盤が剥がれているかどうか、超音波検査を使用してもその場で正確には判断できないということです。そのため、状況判断で対応を決定するしかなく、赤ちゃんの心音異常が続いたり、外回転術施行中に多量の性器出血がみられる場合は、常位胎盤早期剥離の「疑い」として緊急帝王切開を選択することがあります。
一過性の胎児心音異常は、当科のデータでは40%と比較的高頻度で起こります。これは、外回転術で胎児の頭部に力が加わることによる「反射」で起こるもので、基本的には胎児にリスクはないと考えています。ただし、心音が正常に戻るまでにかかる時間には個人差があり、反射による一時的なものなのか、胎盤の剥離が原因で真に胎児に危機が迫っているのかが分からないこともあります。しかし、もしも胎盤が剥がれているにも関わらず、一過性の心音異常と考えて経過を観察していては、赤ちゃんの命をおびやかす重大事にもなりかねません。このような間違いは決して許されることではありませんから、当センターでは疑わしいと判断した時点で緊急帝王切開を選んでいます。海外などに比べて緊急帝王切開の頻度が上がってしまうのは、このような理由によるものと考えています。
どのタイミングで帝王切開に切り替えるのかという基準は施設ごとに異なるため、全国的なデータは把握できません。当センターのデータでは、外回転術を行った全件数のうち、途中で緊急帝王切開に切り替えた例は約3%になります。もちろん、この帝王切開の頻度が減らせるよう、日々試行錯誤しておりますが、最も回避すべきリスクを防ぐためには、ある程度の緊急帝王切開は許容範囲内であるというのが、私たちの考えです。
ここまでに、外回転術のリスクをご説明しました。外回転術は、あくまで逆子と診断された場合のひとつの「選択肢」です。合併症や緊急帝王切開に強い不安を抱いている方や、もともと帝王切開に抵抗のない方は、はじめから予定通り帝王切開での分娩を選択するのが良いかもしれません。
統一見解はありませんが、たとえば当センターでは下記に該当する方には、外回転術を受けられないという基準を設けています。
このほか、程度にもよりますが、肥満の場合は成功率が低くなると考えられるため、外回転術をおすすめしないことがあります。筋腫がある方や高齢妊娠の方で「外回転術はできない」と思われている方もいますが、こちらは多くの場合施行可能です。また、頻度は少ないのですが、赤ちゃんが横位の場合も、骨盤位同様に外回転術での矯正が望めます。
外回転術の認知度は、当センターの周辺地域では徐々に上昇し始めており、年間100人以上の方が外回転術を受けに来院されるようになりました。しかし、病院にとってみると低い診療報酬や合併症のリスクなどの問題があり、日本全体で見ると普及は進んでいるとは言えず、これは改善していかねばならない課題であると感じています。なぜなら、私は「出産とは、いかにして自分が生んだかというイメージが大切である」と考えているからです。そして、外回転術は赤ちゃんが骨盤位である妊婦さんに対して、このイメージをもたらすことができる手技だと考えています。科学的な話とは離れてしまいますが、「自分で外回転術を選択して、経膣分娩で赤ちゃんをがんばって生んだ」という「あとから振り返ったときの妊娠・出産に対するイメージ」が、その人の考え方や子育てなど、将来に好影響をもたらすかもしれません。これとは逆に、「外回転術を知ってはいたが、赤ちゃんに負担をかけるよりもご自身のお腹を切って出産することを選んだ」ということも立派な判断であり、やはりその人にとって重要なお産のイメージになると思います。これが、外回転術という選択肢が存在することの最大のメリットではないでしょうか。
現在は「妊婦さんご自身が自分で生み方を選択する時代」であり、産婦人科はそのための環境を提供する必要があります。より多くの女性が、自分で分娩方法を決めてお子さんを生んだのだというイメージを持てるよう、外回転術の普及に努めていきたいと考えています。
国立成育医療研究センター 産科医員
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