概要
骨髄増殖性腫瘍とは、造血幹細胞(血液細胞の元となる細胞)に異常が起こることで、赤血球や白血球、血小板などの血液細胞が異常に増殖してしまう病気です。主な骨髄増殖性腫瘍として慢性骨髄性白血病、原発性骨髄線維症、本態性血小板血症、真性赤血球増加症があります。
初期には症状が乏しいことが多いですが、進行すると急性白血病に移行することもあります。
原因
造血幹細胞の異常には遺伝子変異が関与しているとされており、大きくフィラデルフィア染色体という異常な染色体が陽性のものと陰性のものに分かれます。
慢性骨髄性白血病はフィラデルフィア染色体が陽性であることが特徴です。フィラデルフィア染色体上のBCR-ABL1融合遺伝子により、チロシンキナーゼが恒常的に活性化することで血液細胞が異常増殖します。
原発性骨髄線維症、本態性血小板血症、真性赤血球増加症ではフィラデルフィア遺伝子が陰性であり、JAK2 V617F変異を共通の特徴としています。また、本態性血小板血症および真性赤血球増加症ではCALR遺伝子変異とMPL遺伝子変異が見られます。
症状
骨髄増殖性腫瘍では初期は自覚症状に乏しいことが多いですが、病期が進行するにしたがって全身に症状が現れ、悪化していきます。
慢性骨髄性白血病
進行はゆっくりで慢性期にはほぼ無症状ですが、無治療のままだと急性期に移行し、予後は不良となります。進行すると息切れ、動悸、鼻血や歯肉からの出血、全身倦怠感、体重減少、脾臓の肥大に伴う腹部膨満感などが現れます。
原発性骨髄線維症
原発性骨髄線維症では骨髄での正常造血が行われなくなり、代わりに脾臓や肝臓で造血が行われます(髄外造血)。それにより脾臓・肝臓が肥大化することがあり、腹部膨満感などの症状が出現します。また、全身の倦怠感や皮膚掻痒感(皮膚のかゆみ)、体重減少がみられることもあります。本態性血小板血症や真性赤血球増加症よりも、命にかかわる危険の高い病気です。
本態性血小板血症
本態性血小板血症では血小板が異常に増加します。自覚できる症状が生じないこともありますが、血栓症(血管内で血の塊が詰まること)を引き起こす危険が高くなります。筋力低下や鼻血などの出血をきたすこともあります。
真性赤血球増加症
真性赤血球増加症では赤血球が異常に増加します。本態性血小板血症と同じく自覚症状は現れないことも多いですが、血栓症が生じやすくなります。進行すると筋力低下や疲労感などが生じるほか、皮膚掻痒感などの症状がみられることもあります。皮膚掻痒感は入浴後に特に生じます。また、脾臓が腫れて大きくなることもあります。
検査・診断
検査
骨髄増殖性腫瘍の検査では主に血液、染色体・遺伝子、骨髄に異常がないかどうか確認することを目的とします。採血を行い、血液検査にて血球細胞の数やその割合を調べます。また末梢血液像検査と呼ばれる、血液を顕微鏡で直接見る検査を行うことで、血球細胞の大きさや形態、異常細胞の有無などを調べることができます。さらに採血した血を用いて遺伝子検査を行い、染色体異常や遺伝子異常がないかどうかを調べます。
骨髄の異常を調べる検査としては、骨髄穿刺・骨髄生検があります。共に腰にある腸骨に針を刺して、骨の中に存在している骨髄を採取します。骨髄穿刺では骨髄液を吸引してその中の細胞を見る一方、骨髄生検ではより太い針を刺し組織ごと採取します。
確定診断
慢性骨髄性白血病は、細胞遺伝学的または分子遺伝学的に検査した検体で、フィラデルフィア染色体を確認することにより確定診断されます。また、原発性骨髄線維症は、JAK2・CALR・MPL遺伝子異常を認めることで確定診断されます。
一方、本態性血小板血症や真性赤血球増加症はほかの骨髄増殖性腫瘍と同じ遺伝子異常や検査結果を呈するため、さまざまな検査結果を統合して診断する必要があります。
治療
慢性骨髄性白血病
慢性骨髄性白血病に対しては分子標的療法(BCR-ABL1チロシンキナーゼ阻害療法)を行います。チロシンキナーゼ阻害薬にはイマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブなどがあり、それぞれ特徴や副作用が異なるため、患者に合わせた処方が行われます。
薬剤の効果が乏しい場合、ほかのチロシンキナーゼ阻害薬への変更や同種造血細胞移植が検討されます。
原発性骨髄線維症
原発性骨髄線維症の治療は低リスクかつ症状がない場合には経過観察の治療方針となります。一方、症状がある場合には基本的にそれに対する対症療法となります。具体的には、タンパク同化ステロイド、JAK阻害薬などを用います。根治療法は同種造血幹細胞移植のみです。
本態性血小板血症
本態性血小板血症に対する治療方針はリスクに応じて選択されます。低リスクの場合には経過観察となる一方、高リスクの場合は血栓症予防のため、低用量アスピリンの投与および細胞減少療法の併用療法を行います。
真性赤血球増加症
真性赤血球増加症に対する治療方針も本態性血小板血症と同様にリスクに応じて決定されます。低リスクの場合には低用量アスピリンの投与および瀉血(血を抜くこと)を行い、高リスクの場合にはそれに加えて細胞減少療法を併用します。
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