概要
鳩胸は、ほぼ前胸部の中央が前方に突出する先天性の病気です。生まれたばかりの時は胸の変形は目立たず、成長するにつれて突出が目立つようになります。3~10歳頃に気付くことが多いとされていますが、それ以降で目立ってくることもあります。
鳩胸は大きく3つのタイプに分けられ、約7割は胸の最下部が左右対称に引き出されたように突出するタイプです。ほかに胸の上部が突出し下部はくぼんでいるタイプ、胸の片側のみが左右非対称に突出するタイプもあります。
鳩胸は衣類を着用しても目立ちやすいため、整容面で心理的な負担が大きくなることがあります。また、高齢になると肺気腫を合併する場合があります。僧帽弁逸脱症から僧帽弁閉鎖不全症をきたす場合や大動脈弁輪拡張症を合併する場合もあるため、心臓超音波検査による経過観察が必要です。
原因
鳩胸の原因は明確に解明されていませんが、同じ家系内で発症するケースが多いと報告されており、発症に遺伝的な要因が関与していると考えられています。また、女性よりも男性のほうが発症しやすいとされています。
また、鳩胸はマルファン症候群、骨形成不全症など骨や軟骨の形成に異常が生じる病気や、脊椎側弯症病変など脊椎の異常に合併するケースも少なくありません。
症状
鳩胸は胸郭が前方に突出する病気で、主に3つのタイプに分類されます。
1つ目は胸骨の最下部にある剣状突起*の辺りが鳥のくちばしのように飛び出した変形です。肋骨や肋軟骨が顕著に見え、船底の形に似ているケースが多いことから船底タイプ(Keeled pigeon breast)と呼ばれています。
2つ目は、上胸部は前方に突出してみぞおち付近にある剣状突起の部分がくぼんでおり、胸骨を横から見るとZ字状になっているタイプです。ふくれっつらの鳩胸(Pouter pigeon breast)と呼ばれるタイプで、漏斗胸と診断・治療されることも多くあります。
3つ目は主に右側(左側のこともある)にくぼみがあり、反対側の胸郭が突出しているタイプです。
いずれのタイプも変形による自覚症状は稀ですが、高齢になると肺気腫を合併しやすいといわれています。
*剣状突起:胸骨の下部に位置する突起
検査・診断
鳩胸は身体の診察で診断できる病気ですが、肋骨や肋軟骨の状態、心臓や肺の機能を調べるために次のような検査が必要となります。
画像診断
肋骨や肋軟骨の変形の程度や肺への影響を調べるために、胸部X線、胸部CTなどの画像検査を行います。診断のためだけではなく、治療方針を決めるうえでも重要な検査です。
また、僧帽弁逸脱症や大動脈弁輪拡張症など、心臓の合併症を調べるために心臓超音波検査を行います。
肺機能検査
胸の変形による肺の機能への影響を評価するため、肺活量などを調べる肺機能検査を行います。
治療
鳩胸は、症状がなく軽度で見た目も目立たない場合、特別な治療をしないことも少なくありません。しかし、症状はなくても胸の突出が目立つ場合は心理的な負担が大きくなることもあるため、手術を行うことがあります。
標準的な手術では肋骨の前方にある過長肋軟骨切除を行いますが、近年では胸腔鏡下胸骨挙上術(Nuss法)を参考に、金属製のバーを用いて突出した胸骨・肋軟骨を押さえ込んで鳩胸の外科治療を行う方法(Abramson法)も広まっています。Abramson法はNuss法とほぼ同じくわき腹の皮膚切開で行うため、開胸手術を行う必要はありません。術後の胸の形も良好です。なお、バーの挿入と抜去のため手術は2回行う必要があります。
就学前に変形を矯正する手術を行うことが多いものの、成長してから次第に目立ってくることもあるため、手術はそれぞれの患者の状態に応じて検討します。胸の形態を考慮して必要であれば手術を行いますが、胸郭前後の厚みが少ない鳩胸の人の場合は一般の鳩胸と同様の治療を行うと心臓を圧迫するため注意が必要です。
予防
鳩胸の明確な予防方法は確立していません。しかし鳩胸が疑われる場合は、できるだけ早く小児外科や胸部外科などを専門とする医師の診察を受け、適切な治療や経過観察をしていくことが大切です。ただし、頻度の低さから発見は困難とされています。
マルファン症候群など何らかの病気が背景にあるケースもあるため、成長とともに胸の突出が目立つようになった場合は、早めに循環器科や胸部外科などを専門とする医師のいる医療機関に相談しましょう。
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