概要
マルファン症候群は、遺伝子の異常によって細胞と細胞をつなげる結合組織と呼ばれる部分が脆くなり、全身の各種臓器にさまざまな合併症をきたす病気です。
結合組織は、骨や血管、肺、目、皮膚などに存在しており、こうした部位に症状が現れます。
マルファン症候群では、本人が病気であることに気づかないまま状態が進行し、20〜30歳代で命にかかわる大動脈解離などの病気を発症することも少なくありませんでした。しかし、現在は早期に適切な治療介入を行うことで、他の方と比べ遜色ない寿命を全うすることも可能です。
日本にはおよそ2万人の患者がいると推定されていますが、マルファン症候群の認知度を高めることは、早期発見・早期治療介入を行うためにとても大切なことです。
原因
染色体の15q21に存在するFBN1という遺伝子の異常が代表的な原因です。FBN1遺伝子に異常があると、結合組織中の微細線維の1つであるフィブリリン1と呼ばれるたんぱく質に異常が生じます。
フィブリリン1は、身体に強固さと柔軟性を与えるために重要な役割を果たしています。さらにフィブリリン1は、身体の成長や修復を調節するためにも大切なたんぱく質です。
フィブリリン1に異常があるマルファン症候群では、身体の骨格に異常をきたし、身体の成長過程が制御できなくなってしまいます。
ご両親どちらかがマルファン症候群である場合、お子さんが同様に発症する可能性は約50%です。こうした遺伝形式を常染色体優性遺伝と呼びますが、マルファン症候群患者のうち、およそ8割弱が常染色体優性遺伝形式で発症していると考えられています。残り2割強は、FBN1遺伝子などに突然異常が生じることから発生しています。
症状
マルファン症候群の症状は、全身各種臓器に見られます。特に、骨、心血管、目、肺、皮膚などに症状が生じます。
各種臓器の症状はフィブリリン1の異常により説明することが可能であり、強固さと柔軟性が障害されること、また成長に対しての調整が効かなくなることが鍵となります。
骨・関節・皮膚
骨の成長が正常に制御できなくなり、年齢を重ねるとともに背骨が曲がってきます(側弯症)。
さらに骨が過剰に成長することから、手足や指が長くなり、か細くとても高い身長になります。そのほかに、胸も通常の形を保てなくなります(漏斗胸や鳩胸)。
皮膚には、妊娠線のような裂け目が目立つことがあります。こうした症状は、マルファン症候群を疑うきっかけとなる重要なものです。
心血管
マルファン症候群では、血管が脆いために大動脈が瘤のようにふくらみ(大動脈瘤)、命にかかわる大動脈解離という危険な合併症を生じます。
大動脈に対する影響は、心臓にも二次的な影響を及ぼし、大動脈瘤の形成から大動脈弁逆流症といった合併症も生じます。僧帽弁逸脱症のために僧帽弁逆流症といった合併症も生じます。
目
目の中には水晶体と呼ばれるレンズが存在します。マルファン症候群では、水晶体を正常な位置にとどめておくことができなくなり、水晶体亜脱臼を生じます。また、目の症状に関連して、視力低下や近視を生じます。
肺
肺の表面にブラとよばれる風船のようなふくらみができやすく、これが破れることで気胸を生じます。気胸が生じると、突然の胸の痛みが起こり、呼吸困難を伴うようになります。
検査・診断
マルファン症候群は、家族歴や水晶体亜脱臼、大動脈瘤、そのほかの症状を総合的に判断して診断します。FBN1をはじめとしたいくつかの原因遺伝子が知られており、遺伝子検査が有効な場合もあります。
ただし、遺伝子の異常が見つからない場合や、小児期には症状が軽いために判定が難しい場合もあるため、臓器障害の程度を定期的に経過観察していくことが大切です。
治療
マルファン症候群に対しての、根治的な治療方法はありません。各種合併症に対してのアプローチが必要になります。
ただし、症状がなくても適切な時期に適切な処置をすることで、将来の障害に伴うQOL(生活の質)の低下を減らしていくことができます。定期的なフォローを受けることで、そうした疾病管理ができるようになってきた病気だと考えられます。
心血管
血圧や心拍数のコントロールのための内服薬(β遮断薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬など)が適応になることがあります。また大動脈瘤が進行した場合には、人工血管置換術を行います。
特に、大動脈解離は命にかかわる重大な合併症です。定期的に大動脈瘤の程度を把握しながら、大きくなって大動脈解離を発症する前に、予防的な治療介入を行うことが大切です。
視力障害
水晶体亜脱臼は幼少時に起こりやすく弱視の原因となる可能性があります。コンタクトレンズや眼鏡等で対応できる場合もありますが、手術的な介入を行う場合もあります。
側弯・漏斗胸
思春期に大きく進行する場合があり、予防的処置を行うことがあります。
予防
日常生活で注意すること
マルファン症候群では、日常生活に注意を払うことも大切です。過剰な運動は合併症(大動脈解離や水晶体亜脱臼など)の進行を促すことがあるため、可能な限り避けることが大切です。
身長が高い患者が多いですが、バレーボールやバスケットボールなどは、運動強度が高いうえにボールや他人との強い接触を避けにくいため控えたほうがよいです。また柔道などの格闘技、長距離走、息があがるようなハードな筋トレも控えましょう。
そのほかにも、喫煙は心臓や肺に負荷をかけるため控えることが必要です。
妊娠・出産に関しては、事前に大動脈瘤の状況を把握したうえでの慎重な対応が必要です。また、前述のとおり2分の1の確率で遺伝します。
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