インタビュー

マルファン症候群とはどんな病気か?

マルファン症候群とはどんな病気か?
武田 憲文 先生

東京大学医学部附属病院循環器内科学

武田 憲文 先生

この記事の最終更新は2017年10月11日です。

マルファン症候群とは、遺伝的な要因で結合組織などに障害があるために、大動脈や骨格、眼、肺を中心に全身障害が生じる遺伝性疾患です。マルファン症候群には類似の症状を示すロイス・ディーツ症候群などのさまざまなタイプがあり、原因遺伝子も複数発見されています。今回はマルファン症候群の病態と原因遺伝子、特徴的な症状について、日本でトップレベルの専門外来も開かれている東京大学医学部附属病院循環器内科の武田憲文先生にお話しいただきます。

マルファン症候群とは、遺伝子異常によって結合組織(細胞と細胞をつなぎとめる役割など持つ線維成分)などに障害があるために、全身のあらゆる臓器・系統に障害が現れる疾患の総称です。

主に心臓や血管、骨格、眼、肺、皮膚などに影響が生じますが、最も重篤な転帰をもたらす臓器は大動脈で、若くして大動脈瘤を発症し、重度の場合には大動脈解離(大動脈の壁の一部が裂けてしまい、突然死の原因にもなる)に至る場合もあり慎重な管理が求められます。

この他、目のレンズ(水晶体)をつなぎとめる靱帯部分に障害が出れば水晶体偏位(水晶体がずれること)を発症し視力が低下したり、骨格の障害として漏斗胸側弯症を発症したり、肺が破れると気胸、皮膚の場合には皮膚線条(皮膚に肉割れのような線が現れる)や鼠径ヘルニアなどが起こります。

家族歴のあるお子さんが多いので、症状がなくても医療機関を受診して診断される場合もありますが、症状が出てから見つかる場合には、幼少期に鼠径ヘルニアが見つかったり、検診で視力の悪さ(水晶体偏位)を指摘されたり、また学童期以降で高身長・長指趾や側弯症、気胸など指摘されてから診断に至る場合が多いと思います。

成人以降では、健康診断で心雑音や大動脈瘤を指摘されたり、若年で大動脈解離を発症したりしてから疑われる場合も少なくありません。

一般的には、下記の特徴的な症状が現れるといわれています。

 

マルファン症候群 

ただし、平均的な身長の患者さんもおられ、こうした特徴がすべての方に現れるわけではありません。後述する原因遺伝子の種類によっては、外見的な特徴がほとんどない場合もあります。そのため、外見のみでマルファン症候群を見分けることは困難です。

マルファン症候群患者さんの体型のイメージ※1例

マルファン症候群患者さんの体型のイメージ※1例

  1. 心臓血管の症状大動脈瘤(大動脈がこぶのように膨らむ):大きくなるまで症状はありません大動脈解離(大動脈壁の一部が避ける):突然の胸背部痛、腹痛など弁膜症僧帽弁逸脱症僧帽弁閉鎖不全症大動脈弁閉鎖不全症など):心不全不整脈の症状として、息切れやむくみ、動悸など
  2. 気胸:突然の胸痛、呼吸困難
  3. 視力障害(水晶体のずれ、近視乱視

特に大動脈瘤は、重症化するまで症状がほとんどなく、きちんと病院で定期的な検査を受けていないと、動脈瘤が破裂して突然死に至る危険性が高くなるため、注意が必要です。

マルファン症候群の主な原因遺伝子はFBN1です

FBN1遺伝子は主要な結合組織の一つであるフィブリリン1という物質を作り出します。マルファン症候群の患者さんの多くはこの遺伝子に異常がみられるため、結合組織が脆弱化していると考えられています。

また、フィブリリン1は、トランスフォーミング増殖因子b(TGFb)というサイトカイン(細胞から分泌されるホルモンに似た因子)の活性を調節(主に抑制)する役割も担っています。FBN1の遺伝子変異がある場合は、この抑制機能がはたらかず、TGFbが強く活性化された状態となります。この状態がマルファン症候群の発症や進展にも何らかの影響を及ぼしているのだろうと推察されます。最近では、FBN1遺伝子異常の内容によって、ハプロ不全型(フィブリリン1の発現が低いタイプ)と機能喪失型(フィブリリン1の機能が失われるタイプ)にわけて、動脈瘤側弯症の進行具合を比較したりする研究も進んできています。また、TGFbに関連した遺伝子(TGFBR1、TGFBR2、SMAD3、TGFB2、TGFB3)の異常でもマルファン症候群に似た症状を起こすことがわかってきていて「ロイス・ディーツ症候群」と呼ばれるようになりました。

ロイス・ディーツ症候群も広い意味ではマルファン症候群に含まれますし、マルファン症候群としての指定難病申請が可能です。典型的なマルファン症候群と比較すると、早期に大動脈瘤・解離を発症しやすいことが知られており、その発症頻度はマルファン症候群の10分の1程度です。その他の特徴として、二分口蓋垂(のどちんこが2つに割れている)、眼間開離(目が離れている)、頭頸部などの中小動脈にも動脈瘤や解離をきたしやすいこと、などが挙げられます。また、マルファン症候群と異なり水晶体変異はみられず、身長も平均的な患者さんが多いように思います。この他に、あざができやすい、月経過多などを自覚されている患者さんもおります。ロイス・ディーツ症候群の発症機序には、頭頸部の発生段階での異常も関与していると推測されていますが、詳細なメカニズムはわかっていません。

同じ遺伝子変異を引き継いでいる親子間でも異なる症状を呈する場合もありますので、遺伝子変異の中身だけで症状の内容や重症度を完全に予測することは難しいです。FBN1以外の遺伝子のはたらきや環境要因などが複雑に関係してその患者さん特有の症状が現れるのだと考えます。従来からFBN1のシステイン残基(アミノ酸のひとつ)に異常が出る変異では水晶体偏位を発症する割合が高く、エクソン24-32(FBN1遺伝子の中間部位あたりに相当)の異常では、心血管病に関して重症型が多いとう報告がありますが、その機序(メカニズム)はわかっていません。これらに該当する遺伝子異常を引き継いでいても、やはり親子間で症状の出方が異なってくる場合が少なくありません。

2017年前後の研究論文で、ハプロ不全型と機能喪失型では大動脈瘤・解離の進展速度に違いがある可能性が指摘されています。ハプロ不全型は機能不全型に比べて動脈瘤の拡大が早いとされており、当院の患者さんを対象とした調査でも同様の傾向が確認されています。

素材提供:PIXTA

マルファン症候群は常染色体顕性の遺伝性疾患ですので、マルファン症候群の親御さんからマルファン症候群のお子さんが生まれる確率は50%になります。ただし、患者さんのおよそ4人に1人はご両親のどちらもマルファン症候群ではなく、その患者さんでの突然変異による発症です。こうした患者さんでも、そのお子さんへの遺伝確率は50%です(隔世遺伝はありません)。

50%の確率で遺伝して発病することを親御さんに十分に理解していただくことは、そのお子さんの将来のQOL(生活の質)を下げないためにも非常に重要と考えており、きちんと理解できるまで繰り返しお話しすることにしています。もしもマルファン症候群の親御さんがお子さんの医療機関への通院を忘れてしまった場合、お子さんが親元を離れる段階などで定期的なフォローの機会が完全になくなってしまう可能性が高いです。医学的なフォローがなくなった場合、症状が出ないままで大きくなってしまった動脈瘤が破裂(動脈解離)するリスクが高くなります。これを避けるためにも、親御さんには、半数で遺伝することとお子さんの医療機関への定期受診を忘れないことの重要性を繰り返しお伝えしています。親御さんがしっかりとお子さんの管理(通院を続けること)をしてあげることで、さまざまな症状が重症化する前に対応できることが多くなっています。

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