概要
ALK融合遺伝子陽性肺がんとは、がんができやすくなる“ALK融合遺伝子”を持つタイプの肺がんのことです。肺がんは組織によって腺がん・扁平上皮がん・大細胞がん(いずれも非小細胞がん)・小細胞がんの四つに分類されますが、ALK融合遺伝子陽性肺がんは非小細胞肺がんの3~5%にみられるとされており、特に腺がんでの発現率が高いことが分かっています。また、喫煙経験のない50代以下の若者に多く発症するのも特徴のひとつです。
“ALK融合遺伝子”は、“ALK遺伝子”と“EML4遺伝子”が2番染色体上で融合することによって生み出されます。“ALK遺伝子”とは、細胞の増殖などに関与する酵素“チロシンキナーゼ*”のひとつであるALKの産生に関与する遺伝子のことをいいます。一方、“EML4遺伝子”は、細胞の骨格を安定化させるたんぱく質の発現に関与します。ALK遺伝子が存在すると、チロシンキナーゼが肺内で過剰にはたらき、がん細胞が増殖することで肺がんを引き起こすと考えられています。2007年に新しく発見された遺伝子ですが、がんを誘発する力が非常に強いことから注目を集めています。
*チロシンキナーゼ:細胞の増殖・分化に関わる信号を伝達する酵素。異常に活性化すると細胞が増殖し、がんの原因となることもある。
原因
ALK融合遺伝子陽性肺がんはその名の通り、“ALK融合遺伝子”が存在することによって発症する肺がんの一種です。どのようなメカニズムでALK遺伝子とEML4遺伝子が融合するのか明確には解明されていませんが、ALK融合遺伝子によって産生されたチロシンキナーゼはがん細胞の増殖に強力に作用するため、非常に強い発がん性を有することが分かっています。
症状
ALK融合遺伝子陽性肺がんはほかのタイプの肺がんと同じく、無症状でありながら検診などで偶然発見されることもあれば、症状が現れて病院を受診することで発見されることもあります。症状はほかの肺がんと同様、頑固な乾いた咳、息切れ、息苦しさなどの呼吸器症状から始まります。進行し胸に水がたまると、呼吸困難やむくみ、胸痛などが引き起こされることもあります。また、喀痰に血液が混ざったり、体重減少や活動性の低下がみられたりすることも少なくありません。さらに進行すると、脳や肝臓、骨など他臓器に転移を生じます。また、しびれ・麻痺などの神経症状、黄疸・腹水などの肝機能低下などを引き起こし、些細な転倒などで骨折(病的骨折)しやすい状態となることもあります。
このように、基本的な症状はほかの肺がんとほぼ同じですが、ALK融合遺伝子陽性肺がんの場合進行が特に速いのが特徴です。
検査・診断
ALK融合遺伝子陽性肺がんでは次のような検査が行われます。
画像検査
肺内の病変や胸水の有無を調べるため、胸部レントゲン検査や胸部CT検査が行われます。通常は咳や息苦しさなどの呼吸器症状を訴えて病院を受診した際に行われる検査で、組織のタイプにとらわれず肺がんを発見するための検査です。
また、転移を調べるために全身CT検査やPET検査などが行われます。
血液検査
肺がんは咳や痰など一般的な風邪と似たような症状で発症することがあるため、通常は初診時に血液検査が行われます。
また、肺がんには腫瘍マーカーが存在し、非小細胞がんではCYFRA21-1、CEA、SCC、SLX、小細胞がんではNSEやproGRPの血中濃度が高値になることがあります。このため、肺がんのタイプを推測するためにこれらの腫瘍マーカーが役立つことがあります。
気管支鏡検査
内視鏡を気管支内に挿入し、肺の内部を詳しく観察する検査です。レントゲン写真やCT写真などに描出された病変の状態を詳しく評価すること、さらに病変部の組織の一部や拭ったりしたものを採取することができます。これらのものからがん組織のタイプや遺伝子変異の有無を調べることが可能です。
ALK融合遺伝子定性
気管支鏡検査で採取した病変の組織、拭い液、気管支洗浄液や胸水などを用いて、EML4-ALK遺伝子の有無を調べる検査です。
ALK融合遺伝子陽性肺がんの確定診断に必須の検査となります。
治療
ALK融合遺伝子陽性肺がんは、比較的早期であれば手術によるがんの切除も行われますが、切除不能な進行・再発の状態であればチロシンキナーゼのはたらきを阻害するクリゾニチブ、アレクニチブ、セリニチブなどの分子標的薬が非常によく効くため、現在では標準治療と考えられています。しかし、これらの“ALK阻害薬”は薬剤耐性化しやすいため、慎重な投与を要するのが現状です。
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