DOCTOR’S
STORIES
患者さんの体に優しい治療を追求し続け、日々診療に尽力する橋本 誠先生のストーリー
初めて医療に興味を持ったのは、子どもの頃です。中学生になったくらいの頃、いつも元気で皆のことを可愛がってくれていたおばあさんが病気で亡くなってしまいました。まだ60代でした。初めて身近な人を失ってひどく寂しい気持ちになり、周囲の人たちも皆とても悲しんでいたことを覚えています。
そのときに初めて、「こんな悲しい思いを減らしたい」と感じました。はっきりと職業を思い描いたわけではないですが、漠然と、大往生というか、人々が“生き切った”と思えるような状況をつくれる人になりたいと思ったのです。
それから時が経ち、医療に関わりたいという漠然とした気持ちを抱きながら、大学で薬学部へ。実のところ、別なことに夢中になりすぎて留年する手前までいってしまった時期がありました。そのようなとき、地元の幼馴染たちと集まった際にある友人の一言でハッとしました。幼い頃に抱いた夢があったではないかと。そこでようやくスイッチが入って、絶対に医師になろうと決心しました。医学部学士編入制度があったのでそれを利用し、薬学部を4年で卒業した後、医学部に編入したのです。
もともとはカテーテル治療*に興味があり、循環器内科医を目指していました。しかし研修医時代にある人から「心臓外科医はメスを使い心臓そのものを治療することもできるし、薬を使って内科的な治療をすることもできる」と教えられ、なるほど、心臓を根本的に治すなら外科医になるべきかと思い、心臓外科の道に進みました。
現在では、心臓病治療は多職種による“ハートチーム”で行うという考え方が浸透してきており、外科・内科の境目はそこまで大きくありません。むしろ密に連携して総合的に診療することが重要であり、私もそのチームの一員として働いている意識が強いです。多くの人が協力して一人の患者さんを治すミッションがあり、その中で私は心臓外科医という一人の職人として最高の仕事をする、という使命があるのです。
*カテーテル治療:手首や足の付け根の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を入れ、狭くなったり詰まったりしている冠動脈を広げる治療法。PCIとも呼ばれる
医学や技術が日々進展するなかで、できるだけ患者さんの体に優しい治療方法を追求することは、医師としての義務だと思います。たとえば、僧帽弁閉鎖不全症*の治療においては従来、胸の真ん中を大きく開いて行う“胸骨正中切開”が行われていますが、近年では、胸の右下を小さく切る“右小開胸アプローチ”が可能になりました。このように低侵襲な(身体的な負担の少ない)手術をMICS(低侵襲心臓手術:ミックス)と言います。MICSは傷が小さいため術後に目立たず、さらに早期回復と早期社会復帰が見込めます。術者からすると、小さい傷で治療するというのはそのぶん手術の難易度も上がりますし、新しい技術を身につけるためには当然ながら勉強し続けなければなりません。しかし、より低侵襲な治療法が存在するのならば私たちはそれを努力して会得し、患者さんに提供するべきだと思うのです。
*僧帽弁閉鎖不全症:心臓にある弁のひとつ、僧帽弁に異常が生じて逆流防止機能が破綻し、左心房や肺に高い圧がかかることで心不全を引き起こす病気
低侵襲な治療を追求することは、私のライフワークでもあります。榊原記念病院で初めてMICSを見たとき、「こんなに小さな傷で手術ができるのか」と衝撃と感銘を受けました。そこからMICSにのめり込み、多くの先輩方から知識や技術を学び今の自分がいます。
2019年には米国シカゴ大学へ留学し、MICSの極みとも言えるロボット支援下の“TECAB(完全内視鏡下冠動脈バイパス術:ティーキャブ)”を学ぶ機会を得ました。TECABはその名のとおり完全内視鏡下で行うため、非常に低侵襲な治療です。現地ではバルキー先生(Dr. Balkhy)はじめさまざまな方と出会い、論文など学術活動も進めながら勉強しました。TECABを日本で普及させるための布石を打ったような感覚です。保険診療など障壁はいろいろとあるのですが、10年を目標にTECABを提供できる環境を整えたいと考えています。
患者さんに感謝していただくときは、医師として非常に嬉しいです。「ありがとう」と言われると、医師をやっていてよかったと思います。また、心臓外科医として“患者さんの(血液)循環をよくすること”がミッションと捉えているので、治療後に「手足がポカポカする」という言葉を聞けるととても嬉しいですね。「手足がポカポカ」という患者さんの感覚は、手足の先まで血流(循環)が巡っていることの表れでもありますから。
患者さんとの思い出はたくさんありますが、研修医時代に初めて担当した患者さんは特に印象に残っています。その方は感染性心内膜炎(心臓の弁に起こる感染症)で入院されていました。最終的には残念ながら亡くなってしまい、非常に悔しい思いをしたのですが、患者さんの娘さんが「橋本先生に診てもらったことを、父はすごく喜んでいました」とおっしゃいました。悔しさとありがたさで涙が止まりませんでした。あのときの光景は今でも鮮明に思い出されます。
現在は心臓外科医の育成にも携わっています。後進たちに大切にしてほしいと伝えているのは、“昨日よりも今日、上手になっていること”です。手術を担う執刀医は、昨日よりも今日、今日よりも明日、上手な手術をしなければならない。そうでなければ、命を預けてくれている患者さんに対して失礼です。常に成長し続けることが必要なのです。
それから、“絶対に心臓外科医を辞めるな”ということ。手術を担う者は成長し続けなければいけませんが、一方で、成長の過程で手術を担当した患者さんが一定数は存在します。そのような患者さんに成長させてもらい、今がある。ですから、途中で心臓外科医を辞めることは無責任だと思うのです。私たちには、最後まで心臓外科医としての使命を全うする責任があると考えています。
後進の医師たちには厳しいことを伝えながらも、一方で、心臓外科医のワークライフバランスについても考えを巡らせています。自分が医師になったばかりの頃、月の半分は病院で寝泊まりしたり、気づいたら10日間連続で病院にいたりして、実に目まぐるしい日々でした。ちょうどその頃に娘が生まれたのですが、家に帰らない父には懐いてくれず寂しい思いをしました。このような経験から、心臓外科医がワークライフバランスを保って働ける環境をつくりたいという目標があります。そのためにも、低侵襲な治療を浸透させる価値があると思うのです。患者さんが早く回復し、術後のトラブルが少なければ、そのぶんスタッフの手もかかりませんから。長時間の労働が正義ではありません。できるだけ低侵襲な治療を行うことで、患者さんも私たち医療従事者も幸せな状態がつくれたらいいですね。それが私にとっての“最高の医療”だと思います。
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札幌心臓血管クリニック
医療法人 札幌ハートセンター 理事長 兼 CMO
藤田 勉 先生
医療法人 札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック 循環器内科 部長/ストラクチャーセンター長
八戸 大輔 先生
医療法人札幌ハートセンター札幌心臓血管クリニック 循環器内科
北井 敬之 先生
医療法人 札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック 循環器内科 末梢動脈疾患センター長
原口 拓也 先生
医療法人札幌ハートセンター札幌心臓血管クリニック 心臓血管外科 副院長、札幌医科大学 医学部 臨床教授
光島 隆二 先生
医療法人 札幌ハートセンター札幌心臓血管クリニック 心臓血管外科部長/大動脈瘤センター長
黒田 陽介 先生
札幌心臓血管クリニック 循環器内科 医師
堀田 怜 先生
札幌心臓血管クリニック 循環器内科部長/デバイスセンター長
森田 純次 先生
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