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心房細動治療の新しい選択肢――経皮的左心耳閉鎖術とWOLF-OHTSUKA法

心房細動治療の新しい選択肢――経皮的左心耳閉鎖術とWOLF-OHTSUKA法
八戸 大輔 先生

医療法人 札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック 循環器内科 部長/ストラクチャーセンター長

八戸 大輔 先生

橋本 誠 先生

医療法人 札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック 心臓血管外科 低侵襲心臓手術センター長

橋本 誠 先生

目次
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人体でもっとも大事な臓器の1つである心臓は、リズムよく拍動することで全身に血液を送り届けています。このリズムが狂ってしまう病気をまとめて不整脈といい、中でも臨床の現場でよくみられるのが心房細動です。心房細動では心房が小刻みに震えてしまい、動悸や息切れなどの症状、脳梗塞(のうこうそく)などの合併症を引き起こします。これらを防ぐためにいくつかの治療法があります。その中から今回はカテーテルを使う経皮的左心耳(さしんじ)閉鎖術と、内視鏡を使う手術であるWOLF-OHTSUKA法の2つについて、札幌心臓血管クリニック 循環器内科 部長/ストラクチャーセンター長の八戸 大輔(はちのへ だいすけ)先生と、同じく心臓血管外科 低侵襲(ていしんしゅう)心臓手術センター長 橋本 誠(はしもと まこと)先生にお話しいただきました。

八戸先生:心房細動の治療を行ううえで重要なことが2つあります。1つは動悸や息切れなどの症状や心不全を改善すること、もう1つは合併症としての脳梗塞を予防することです。

心房細動では、心房がけいれんのように細かく動くことで十分に収縮することができず、動悸や息切れ、倦怠感などの症状が出現します。このため心房の動きを適切に整え、症状を緩和することが1つ目の目標となります。また、心房細動により心臓のポンプ機能が落ちてしまい全身に必要な血流を送れなくなる、もしくは全身に送った血液を吸い上げることができなる、すなわち心不全となる方がいます。この治療法としては抗不整脈薬の内服やカテーテルを用いたアブレーション(不整脈の原因となる心筋組織の一部をカテーテルによって焼灼(しょうしゃく)し異常な電気信号を抑える治療)があります(詳細はこちら)。

2つ目の目標は脳梗塞の予防です。心房細動では心臓の中で血液がよどむことで血栓ができ、何かの拍子で流れてしまった血栓が血管を詰まらせてしまうことがあります。とくに脳の血管が詰まった場合には心原性脳塞栓症となり、一度発症すると、半分くらいの方が死亡ないしは寝たきりになるため、いかに脳梗塞を予防するかが重要となります。

心房細動治療でははじめに抗不整脈薬の内服を行いますが、効果が不十分な場合や、薬を続けられない事情がある場合にはカテーテル治療や手術が選択肢となります。中でも脳梗塞予防を意識した治療法として、内科的にはカテーテルを用いた経皮的左心耳閉鎖術が、外科的にはWOLF-OHTSUKA法があります。

橋本先生:治療選択肢が増え、治療方針も複雑化しているなかで、これからの心房細動治療に携わる医師は“患者教育”という役目も担っていると思っています。患者さんの中には心房細動やその治療についてよく勉強していらっしゃり、「手術をしてほしい」「カテーテルをしてほしい」と先に希望を伝えてくる方もいます。一方で、治療選択肢をご説明して「こんな治療があるなんて知らなかった」というまったくなにも知らない方もいらっしゃいます。また、経皮的左心耳閉鎖術やWOLF-OHTSUKA法をはじめとした心原性脳塞栓症の予防法があること自体、心房細動や心原性脳塞栓症を診る医師の中でも知られていないところがあり、その普及が今後の課題となっています。そのため、病気や新しい治療法についてかかりつけの先生方をはじめとした医療関係者に広く知ってもらうこと、そして患者さんにはできるだけ分かりやすく説明したうえで、ご自身に治療方針を選択してもらうことを私たちは大切にしています。

八戸先生:心房細動では心房内に血栓ができて脳梗塞を起こしやすいことが知られており、その血栓はとくに左心耳(心臓の一部分の名称で、生まれる前の構造物の遺残といわれている)にできるといわれています。そのため、血栓ができやすい左心耳をあらかじめ閉じておくことで血栓ができるのを防ぐ、これがカテーテルによる経皮的左心耳閉鎖術のねらいです。

カテーテルを用いた不整脈の治療というとカテーテルアブレーションのほうが聞きなじみがあるかもしれませんが、アブレーションは心房細動による不整脈を治すことで動悸や息切れなどを改善させる治療であり、脳梗塞予防を目的とした経皮的左心耳閉鎖術とは別物の治療です。

経皮的左心耳閉鎖術が適応になる患者さんは、脳梗塞のリスクが高いことに加えて、過去に大きな出血を起こしたことがある、抗凝固薬を服用しているなど出血リスクが高く、抗凝固薬を長期間飲むことが難しい方です。心房細動の治療では複数の抗凝固薬を内服する必要がありますが、同時に抗凝固薬の副作用として出血のリスクが問題となります。しかし、この経皮的左心耳閉鎖術の術後は抗凝固薬を中止することが可能であるため、脳梗塞を予防しながら、副作用としての出血リスクを減らすことができるのです。逆に出血のリスクがそこまで高くない方では、基本的に経皮的左心耳閉鎖術は適応となりません。

また、左心耳を閉じてしまうことに不安を抱く方もいると思いますが、左心耳は胎児期の構造物の遺残であり、とくに問題は起こらないといわれています。

経皮的左心耳閉鎖術のメリットとして抗凝固薬の服用を終了できるということがあります。当院では術後45日を目安に入院検査を行い、問題がなければ抗凝固薬の内服を終了し、さらに半年後にもう一度、問題がないか確認します。ただし、術後約45日間は抗凝固薬や抗血小板薬の内服を続けるため、その間に出血症状がある場合には速やかに病院を受診してください。

橋本先生:WOLF-OHTSUKA法は、血栓ができやすい左心耳の切除と、不整脈に対するアブレーションを同時に行う外科手術です。心臓の手術というと胸を大きく開けて行う大手術のイメージがありますが、このWOLF-OHTSUKA法は内視鏡手術であり胸にポートと呼ばれる穴をいくつか開けて行う方法です。傷が小さくなる分、目立たず、体へのダメージをより抑えることが期待できます。

WOLF-OHTSUKA法は基本的に全ての心房細動の患者さんが適応となり得る治療法であり、脳梗塞のリスクが高い方や出血のリスクが高く、手術自体のリスクを上回る効果が見込める場合に選択されます。メリットとしては傷が小さく体への負担が少ないことのほかにも、術後早期に抗凝固薬を終了できることや、不整脈治療と脳梗塞予防を同時に行えることが挙げられます。

切除した胸膜や心膜といった部分に起こる炎症による胸膜炎や心膜炎、それに伴う胸水などの合併症に注意が必要です。胸水がたまってくると息切れなどの症状が出てきます。そのため、退院後も術後早期に外来で状態の確認を行います。

また、不整脈をできるだけ起こさないためにも、日常的に減量や運動、禁煙などを意識しましょう。

今回紹介した2つの治療法である経皮的左心耳閉鎖術とWOLF-OHTSUKA法には、それぞれにメリット・デメリットがあります。当院では循環器内科と心臓血管外科でしっかりと連携し、全体カンファレンスを行ったうえで治療法を決定することで、一人ひとりの患者さんに適切な治療を選択できるよう心がけています。出血のリスクや抗血栓薬の内服に不安がある方は、一度相談に来てください。

心房細動の治療は日々進歩しており、かつての常識が現在では常識ではなくなっていることも多くあります。とくに心臓の手術は不可逆的なもので、一度手術した心臓を元の状態に戻すことはできません。そのため、患者さん自身のライフスタイルに合った治療法を選ぶためには、まずは自分で勉強し、心房細動を専門とする医師から丁寧な説明を受けることがとても大切です。

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