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手術支援ロボットda Vinciを用いたMICS(低侵襲心臓手術)とは? ——僧帽弁閉鎖不全症に対する手術を例に解説

手術支援ロボットda Vinciを用いたMICS(低侵襲心臓手術)とは? ——僧帽弁閉鎖不全症に対する手術を例に解説
橋本 誠 先生

医療法人 札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック 心臓血管外科 低侵襲心臓手術センター長

橋本 誠 先生

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心臓弁膜症の1つである「僧帽弁閉鎖不全症」は、息切れやむくみ、倦怠感といった心不全の症状を引き起こし、放置すると命に関わる可能性のある病気です。僧帽弁閉鎖不全症の治療にはいくつかの方法がありますが、薬では根本的な治療にならないため、必要に応じて手術を検討します。近年、心臓手術はより身体的な負担の少ない方法へと進化を遂げています。その1つが、手術支援ロボットを用いたMICS低侵襲心臓手術(ていしんしゅうしんぞうしゅじゅつ))です。

僧帽弁閉鎖不全症に対する「ロボット支援下手術」とは、どのように行うのでしょうか。橋本(はしもと) (まこと)先生(札幌心臓血管クリニック 心臓血管外科 科長、MICSセンター長)にご解説いただきました。

前のページでお話ししたように、心臓手術はより低侵襲な(身体的負担の少ない)方法が世界の潮流になりつつあります。たとえば、従来の胸骨正中切開(胸の真ん中を切って心臓にアプローチする)という方法に加え、現在は、胸の右下を小さく切る「右小開胸アプローチ」という方法が行われるようになりました。

このように、胸骨を切開せずに小さな傷で手術を行う方法をMICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲心臓手術:ミックス)といいます。

このMICSを行うためのツールの1つに、手術支援ロボット(da Vinci:ダヴィンチ)があります。皮膚切開の位置は従来のMICSと同じですが、切開の傷はさらに小さくて済みます。また、ロボットアームの細やかな動きと広い可動域が、より繊細な手術を可能にします。このような点から、ロボット支援下手術は、MICSがさらに進化したものと考えていただければよいかもしれません。

da Vinci(ダヴィンチ)という手術支援ロボットを例に解説します。1990年代にアメリカで開発された手術支援ロボット ダヴィンチ(da Vinci Surgical System)は、日本で2015年に薬事承認され、2018年4月にはロボット支援下の僧帽弁形成術が保険収載されました。当院でも、2020年よりロボット支援下の僧帽弁形成術を行っています。

da Vinciには、合計4本(カメラ1本、鉗子(かんし)3本)のロボットアームがついています。カメラアームには3D内視鏡が取り付けられ、その視野は非常に鮮明です。残り3本のアームの先端にはさまざまな形の鉗子類が装着でき、たとえば、つまむ・切る・かき出す・縫合するなど、用途に応じて付け替えます。ロボットアームの可動域は人間の手の動きを凌駕しており、細やかな手術が可能になります。

ロボット支援外科手術

術者は、コンソールと呼ばれるコックピットのような場所から遠隔で操作を行います。フットスイッチで鉗子やカメラを切り替えることが可能です。このように術者は3D内視鏡で捉えた画像を見ながら、手足と視覚を駆使し、da Vinciの「司令塔」として手術を主導します。

ロボット支援外科手術

ロボット支援下手術は、人間の手よりも可動域が広い3本のアームを自由に動かして手術部位の視野を良好に保つことができます。そのため、精密な手術が可能です。また、基本的には通常のMICSより小さな切開で手術を行うことができます。このような点はロボット支援下手術のメリットといえるでしょう。

一方、ロボットアームには触覚がないため、組織や臓器にかかる負荷、糸を結ぶ際の力加減などを意識する必要があります。また、通常の手術と異なり術者は手術台と患者さんから離れた場所でロボットを操作し、ほかのスタッフ(助手、麻酔科医、看護師、臨床工学技士など)に指示を出して手術を主導しなければなりません。これらの点から、術者は画面だけでなく常に手術場を注意深く観察し、さまざまな情報を得る必要があり、そのぶん広い視野が求められます。このように、広い視野が必要であり難易度の高い手術という点は1つのデメリットといえますが、これらは、術者の経験でカバーすることが可能な部分でもあります。

ロボット支援下で行う僧帽弁形成術のカメラ画像
ロボット支援下で行う僧帽弁形成術のカメラ画像

当院の場合、ロボット支援下手術にかかる時間は通常のMICSと大きく変わりません。たとえば僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術は、どちらも2.5〜4時間ほどかかります。また、一般的な入院期間は手術前に1〜2日、手術後に4〜5日ほどです。合計でおおむね1週間以内の入院期間で済むことがほとんどです。

傷の大きさは術式にもよりますが、4〜6cmほどの切開を1か所、1〜2cmほどの切開を数か所必要とします。通常のMICSでは切開の大きさが数cm大きく、ロボット支援下手術ではより小さな傷で済むのが利点です。どちらも胸骨を切らないため身体的な負担は少なく、手術の翌日から歩行と食事ができ、同日にリハビリテーションも開始します。通常、術後2日目には点滴などの管を抜き、術後2〜3日でシャワーを浴びることが可能です。術式にもよりますが、術後4〜5日で退院できる状態になります。

当院では、僧帽弁閉鎖不全症で僧帽弁形成術が可能と考えられるケースに対して、解剖学的な問題がない限り、全てMICSの対象としています。2020年よりロボット支援下手術を始めましたので、従来MICSの適応とされていた患者さんは基本的に全例ロボット支援下手術の対象です。

先生

当院は、心臓病に対して常によりよい医療を探求し、新しい医療技術を積極的に導入してきました。2018年4月にロボット支援下の僧帽弁形成術が保険収載されたことを受け、da Vinciを導入することが決まりました。

私自身もタイミングよく、2019年に米国シカゴ大学でバルキー先生(Dr. Balkhy)率いるチームからロボット手術について勉強する機会を得ました。私は、留学中に培った知識や経験、人脈などを最大限に生かし、このロボット支援下手術を実践し、かつ伝承すること、そして患者さんによりよい治療を提供するべく努めることが自身の使命であると考えています。

僧帽弁閉鎖不全症に限らず、心臓病の手術を受けるときには、患者さんやご家族は大きな不安を感じると思います。しかし、医学・医療技術の発展により、心臓手術は以前よりも安全性が高まり、また、より早期の社会復帰を目指した“低侵襲化”も進歩しています。

私たちは、患者さんやご家族に安心して手術を受けていただけるよう客観的かつ一般的な治療経過のお話を交えて丁寧に手術説明を行っています。もし僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病や、その治療・手術に関するお悩みや気になることなどがありましたら、ご相談ください。

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