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僧帽弁閉鎖不全症の原因、症状——早期に診断し適切な治療を行うために

僧帽弁閉鎖不全症の原因、症状——早期に診断し適切な治療を行うために
橋本 誠 先生

医療法人 札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック 心臓血管外科 低侵襲心臓手術センター長

橋本 誠 先生

目次
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心臓には、心室という部屋を隔てて血液の逆流を防ぐ弁があります。その1つである「僧帽弁」に異常が生じて起こる「僧帽弁閉鎖不全症」は、息切れやむくみ、倦怠感といった症状を引き起こし、放置すると命に関わることもある病気です。

僧帽弁閉鎖不全症の原因や症状、どのような症状があれば病院を受診するべきかについて、橋本(はしもと) (まこと)先生(札幌心臓血管クリニック 心臓血管外科 部長、MICSセンター長)にご解説いただきました。

まず、心臓の構造をご説明します。心臓は、1日10万回ほど収縮・拡張を繰り返し、体中に血液を送るポンプの役割を担っています。心臓には左心房・左心室・右心房・右心室という4つの部屋があります。

体内を循環し、臓器などで酸素が使われた後の血液(静脈血)は、まず右心房へ戻り、右心室へと流れます。その後に肺へと進み、再び酸素を含んだ血液(動脈血)は次に左心房へ、そして左心室へと流れていくのです。

このように、心臓は収縮することで血液を前へ前へと送るのですが、それを可能にするために、心臓の各部屋は逆流を防止するための「弁」で仕切られています。

心臓の弁

今回のテーマである「僧帽弁」とは、左心室と左心房を隔てる逆流防止弁のことです。僧帽弁には、弁輪という輪のような線維状の土台があり、そこに弁尖(べんせん)と呼ばれる膜がついています。弁尖には、前尖、後尖、交連部があります。この弁尖は心臓のリズムに合わせて開閉するために、左心室内の乳頭筋と腱索(けんさく)という組織でつながっています。

僧帽弁

僧帽弁は、心臓が収縮する際に閉じて、血液が逆流するのを防いでいます。しかし僧帽弁に異常が生じると、きちんと閉じないことで逆流防止機能が破綻し、血液が逆流するようになります。僧帽弁閉鎖不全症になり血液が逆流すると、左心房や肺に高い圧(負荷)がかかり心不全を引き起こします。これが「僧帽弁閉鎖不全症」です。

僧帽弁閉鎖不全症は、一次性(器質性)と二次性(機能性)に分けられます。

一次性の僧帽弁閉鎖不全症は多くの場合、特発性、つまり原因が分かりません。よくみられるものとしては、腱索が切れる・伸びきるなどして弁尖がしっかりと閉じなくなる状態です。これを「僧帽弁の逸脱」といいます。また、感染性心内膜炎などによって僧帽弁の組織が破壊され、一次性の僧帽弁閉鎖不全症が生じることもあります。

一方、二次性の僧帽弁閉鎖不全症は、心筋梗塞(しんきんこうそく)拡張型心筋症心房細動といった重篤な病気に伴って心臓が拡大することで起こります。心筋梗塞は喫煙脂質代謝異常高血圧糖尿病などがリスク因子になることから、二次性の僧帽弁閉鎖不全症は生活習慣と間接的に関与している可能性があります。

僧帽弁閉鎖不全症では、心不全の症状が現れます。典型的な症状は息切れ、むくみ、疲れやすい(倦怠感がある)などです。血液の循環が悪化すると、体内に血液がたまる「うっ血」が起こります。肺がうっ血すると、夜間(横になっているとき)に咳や息苦しさを覚えることがあります。

このような心不全の症状は放置すると悪化していき、最終的には心臓の機能が破綻して、命に関わることもあります。特に僧帽弁閉鎖不全症の場合、血液の逆流量が多くても症状が出ていないことがあるのです。そのため早期に診断し、必要な治療を検討することが重要です。患者さんにはよく、「心臓は頑張り屋さんで、なかなか悲鳴を上げない臓器なのです」とお話ししています。心不全の症状に気付いた際には、循環器内科などを受診していただければと思います。

膝下のむくみ(すねのあたりを指で押すとへこんだあとがついたり、靴下を脱いだ後にあとが長時間残っていたりするなど)、以前と同じ労作・歩行で疲れやすくなったり息切れが起こったりする(同じ距離を歩くのが以前よりも大変になった、など)、動悸(心臓がドキドキする)が頻繁に起こる、就寝中に息苦しくて体を起こすことがある、などの症状がある場合、まずは病院を受診していただけたらと思います。

写真:Pixta
写真:Pixta

僧帽弁閉鎖不全症が疑われる場合、薬や手術などによる治療を検討する必要があります。治療方針を考えるうえでは、内科と外科どちらの選択肢もあり、患者さんにとって適切な治療を選べることが重要です。このような点から、循環器内科と心臓外科が併設されている病院がよいでしょう。

僧帽弁閉鎖不全症には、慢性と急性があります。慢性とは長期間にわたり症状が持続するもの、急性とは急激に症状が始まるものです。

慢性の僧帽弁閉鎖不全症では、検診やほかの病気の診療がきっかけとなり、聴診で心雑音を指摘されるなどして見つかることがあります。一方、急性の僧帽弁閉鎖不全症では急激な呼吸困難を起こして救急搬送され、診断に至ることがあります。これは非常に重篤な状態で、早急に手術などの治療を行わなければ命に関わる可能性があるため、注意が必要です。このような事態を避けるためにも、僧帽弁閉鎖不全症を早期に発見・診断し、適切に治療を行うことが大切です。

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