中学生の頃には将来の夢として医師になりたいと考えていました。今になって振り返ると、幼い頃に小児喘息を患っていたこともあって、比較的医師にかかる機会が多かったため、医師に対する尊敬の念や、医療の素晴らしさというのを潜在的に感じていたのでしょう。医師を目指し、医学部に進学したのです。
医学部で基礎研究を選択して実習する期間があるのですが、さまざまな分野があるなかで、私は法医学教室を選択し、生命倫理の分野の研究をすることに決めました。生命倫理を学ぶうちに、がん診療や終末期医療に触れる機会が増えてきたのと時を同じくして、キリスト教系の大学に通っていた姉のすすめで、当時上智大学文学部で教授を務められていたアルフォンス・デーケン先生のセミナーに参加するようになりました。デーケン先生は死生学がご専門で、終末期医療の改善やホスピス*運動の発展にも尽くされました。哲学や宗教の側面から“いかにして人間が生きがいを持って過ごしていくか”についても学ぶ機会を得て、がんの根治を目指すことは大切ですが、それと同様に、根治が難しい患者さんに対するケアやサポートも欠かすことができないと感じたのです。
がん診療がいかに進歩しても、治癒が見込めない患者さんが一定の割合でいて、そういった患者さんへのケアやサポートが日本はまだまだ足りていないことを知りました。そこで、医療従事者にも緩和ケアという言葉が耳なじみのない時代ではありましたが、「微力ながらがんの根治が難しい患者さんのために力を注ぎたい」と思いました。私は緩和ケア医になることを決意し、緩和ケア医に必要な“痛みのコントロール”について学ぶために麻酔科に進むことを選択したのです。
*ホスピス:患者さんの体と心のつらさを軽減するための治療とケアを行う施設
日本麻酔科学会認定の麻酔科専門医の取得に必要な実績を積んだ後、緩和ケアについて学ぶため、レジデント(研修医)として国立がん研究センター中央病院の緩和医療部門で研修することを決めました。それ以前は麻酔科医として勤務していたため、麻酔科の領域を出てがん医療や緩和ケアに携わった最初の期間といえるでしょう。国立がん研究センター中央病院では、がんに関するさまざまな診療科があり、私は内科系の診療科をローテーションしながら、緩和ケアにとどまらず多様ながんについても勉強することとなりました。
その後、上司に推薦していただき、ニューヨークのメモリアルスローンケタリングがんセンターならびにコーネル大学に2年間留学する機会を得て、痛みの研究と緩和ケアについてさらに知識や経験を深めることができました。
緩和ケアでは、患者さんからより多くの情報を収集することが大切です。痛みなどのつらさは個人差もあるため、「このような症状を相談してよいのか」と悩んだ結果、医師に伝えないこともあるかと思います。そこで、患者さんの抱えるつらさを取りこぼすことがないように、がん患者さんを中心に苦痛に対するスクリーニングを実施しています。また診察時に一問一答形式にならないように、オープンクエスチョンとしてどんなことで困っているかを聞くことで、患者さんが抱える悩みを話しやすいように努めています。
しかし、診察という限られた時間では、患者さんの情報を全て把握することは難しいと言わざるを得ません。そこで、多職種のスタッフがそれぞれの立場や視点から患者さんにお話を聞いたり、患者さんの状況を評価したりする必要があります。そのうえで、患者さんにとってよりよい治療についてディスカッションして、意見をとりまとめていくことに意味があると考えています。
また、患者さんに治療をご提案するときには、選択肢が多いだけでは選べないということが起きてしまいます。ですから、選択肢をただ提示するのでなく、患者さんのご希望や症状に応じて適切にご提案もするようにしています。
患者さんの症状や置かれている環境は常に変化していきます。だからこそ、一人ひとりのスタッフが情報収集に敏感であるとともに、連携を維持し続けることが重要であるということを心に留めて日々の診療を行うように努めています。
私が緩和ケア医を目指した頃は、緩和ケアという分野があまり知られていない時代でした。そのようなときにもかかわらず、さまざまな方からアドバイスをいただいたり、ちょうど麻酔科専門医取得の時期と国立がん研究センター中央病院で緩和ケアレジデントを募集し始めた時期と重なったりするなど、緩和ケアに携わる機会にとても恵まれていたように思います。
また、特に紹介といったことではなく小学校時代の担任の先生の奥さまや、高校時代の友人のお母さまを患者さんとしてお看取りすることもありました。緩和ケア医になるまでのいろいろな方との出会いや、これまで人生で関わりのあった大切な方々と緩和ケア医という仕事を介して再びつながったことは医師としてとても大きな経験になったと感じています。こうした方々との出会いを振り返ると、緩和ケア医が関わる領域の広さや関わる方の多さを実感するとともに、さらに努力しなければと身の引き締まる思いです。
これからの医療を担う若手医師の方々がきちんと必要なことを学べて、キャリアを積めることが重要だと考えています。後進を指導するなかで、私が得てきた知見や経験をなるべくコンパクトに伝えることを心がけています。それにより知的好奇心や自主性を持って何かを学び取るきっかけになることを願っています。
若手医師の方々に経験や知識をバトンタッチしていくなかで、それぞれの医師が目指す医療に最終的に導けるように指導医の1人として励んでまいります。
患者さんの“笑顔”には、たくさんのメッセージが含まれていると考えています。緩和ケア医として医療に携わる中で患者さんから笑顔が生まれた瞬間は、たとえば症状や苦痛の緩和などが得られた結果でもありますし、患者さんと信頼関係が築けているという意味でもあるでしょう。また、ご家族や親友、仕事仲間の方々との交流の中での笑顔も、抱えていた体や心の苦痛が減って、充実した時間が過ごせているからこそだと思います。
緩和ケアというと体の痛みが取り上げられることが多いですが、特に人生の最終段階となると、息苦しさや気持ち悪さ、
緩和ケアによって多岐にわたるつらさを軽減できたときには、多少なりとも何かにとらわれず過ごせる時間を持てるようになります。だからこそ、自然と笑顔が生まれるのです。このように、患者さんが満足感を持って生活できるようになることが私の最大の目標であり、目指す方向であると思っています。
何かの症状があったとしても患者さんが相談する内容を取捨選択してしまうと、本当に必要な医療と提供する医療に
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