DOCTOR’S
STORIES
0.3ミリの血管をつなぎ患者さんに驚きと感動を与える光嶋勲先生のストーリー
医学生の頃に受けた講義が、形成外科との出会いでした。
患者さんの体から一度は切り離されてしまった指が元通りに戻った瞬間。それはまるでマジックのようで、私に強い衝撃と高揚を与えました。
「これをやりたい!」と。
1976年に大学を卒業し、そこからは形成外科一筋です。
形成外科の手術とは「そこになかったものをつくり出す」手術。ないものをつくる作業はいつまで経っても飽きません。自身の仕事を日々楽しんできたからこそ、40年以上形成外科医として走り続けてこられたのだと思っています。
私が開発した手術手技は「超微小外科手術(スーパーマイクロサージャリー)」と呼ばれています。
超微小外科手術とは、顕微鏡とわずか0.05ミリの細い針を使って、細い血管やリンパ管、神経などをつなぐというもので、この技術を持つ医師は世界でも一握りしかいないほどの高度な技術です。
通常、外科医がつなぐことのできる管は最小で直径1ミリ前後とされていますが、超微小外科手術の技能を持つ医師は、0.3ミリのものまでつなぐことができます。ここまで細い血管をつなげるようになったことで、より高度で体の負担の少ない手術ができるようになりました。
そのひとつが、リンパ浮腫の治療です。リンパ浮腫は従来有効な治療法が確立されておらず、完治の難しい病気でした。しかし、超微小外科手術でリンパ管と血管をつなぎ、溜まったリンパ液が流れるようバイパスをつくることで、リンパ浮腫を治療できるようになりました。
超微小外科手術が生まれたことで、今までの医療では対応できなかった病気にも、医療の手を差し伸べることができるようになったのです。しかし、そこまでの道のりは決して楽ではありませんでした。
超微小外科手術は、初めから今のように世界に認められたわけではありません。最初は「ありえない」と嘲笑され、国内で論文を発表しても却下されました。
「そんなこと、誰もできるはずがない」
「その方法じゃだめに決まっている」
否定的な言葉の嵐に、めげそうになったときもありました。周りのいうように、間違っているのは自分なのではないかと。批判のなかで、私は孤独でした。
しかし、ここで評価されないのならば、とめげずにアメリカやイギリスのジャーナルへ論文を送りました。
海外に送った論文もすぐには掲載されることなく、1年が過ぎました。
やっぱりだめなのだろうか……。そう思った矢先、超微小外科手術の論文がイギリスの雑誌に掲載されたのです。
ああ、必ずわかってくれる人はいるんだ。
嵐が止み、超微小外科手術に光が差した瞬間でした。
超微小外科手術は、性同一性障害の性別適合手術に応用されています。特に女性の体から男性の体に適合する手術は、陰茎の形成が難しいことで知られています。しかし、せっかく男性の体を手に入れるのだから患者さんが喜ぶものをつくりたい。
私は、綺麗な形をつくることはもちろん、充分な機能を備えた陰茎を形成することができます。本物の陰茎のように感覚があり、実際に性行為を行うことも可能です。
私のもとで性別適合手術を受けた患者さんが「先生の手術を受けて本当によかった」と顔をほころばせて会いにきてくれたことがあります。このように、形成外科は患者さんを幸せにすることができるものだと信じています。
リンパ浮腫や性同一性障害の性別適合手術のほかにも、血管肉腫の治療や頭頸部手足の再建、乳房再建など、超微小外科手術はさまざまな手術への応用が可能です。
病気やけがの治療だけでなく、神経のバイパス手術による神経麻痺の予防、血管バイパス手術による脳梗塞や心筋梗塞の予防など、超微小外科手術による予防的な手術も今後は可能になってくるのではないかと考えています。
私は超微小外科手術という分野において、第一線を走り続けてきました。現在でも世界中の医師にこの技術を広めるために、ライブ手術や講演会などを行っています。
今はまだ外科医のなかでも一握りしか修得できていない超微小外科手術ですが、将来、多くの医師が超微小外科手術を行えるようになり、多くの患者さんがこの技術によって機能や審美の回復が得られるようになれば、人々の生活や医学はより豊かになると感じています。
医師にとって必要なことは、貪欲に、より高い技術を修得するための努力を怠らないこと。その努力ができるか否かの差が、医師の成長にかかわってくるのではないでしょうか。
医師たるもの、常に勉強と修練が必要です。私は形成外科の手術だけでなく、他科の手術も見学に訪れます。たとえば、神経の移植の仕方、血管のつなぎ方。
「他の科では、一体、これをどう処理しているのか?」
他科の技術をみることで、その疑問を解消し、自分の技術への応用を常に考えています。
いつでも他科の手術の見学ができるよう、私は常にカメラ・ヘッドランプ・ルーペを携帯しています。日々、自身の腕を磨くためのこれらの道具は、私の三種の神器です。
私の技術は、このような日々の勉強と修練に裏打ちされたものだと自負しています。
形成外科に限らず、すべての医師にはぜひ大きな希望を持って世界を目指してほしいと思います。
今は国際化の時代ですから、やりたいことがあれば日本にとどまらず海外の優秀な医師のもとへ行くべきです。彼らはあなたを喜んで迎え入れ、あなたの求めるものを教えてくれるでしょう。
トップを目指す意志を持ち続けることと同時に、他科との連携も重要です。先ほども述べましたが、他科の技術を積極的に学ぶことは自身の技術向上につながります。
医師としての基礎を固めることは、自分を大きく成長させ、頂点を目指すための糧になります。医師としての基礎があり、そして、医療への強い思いがあれば、誰も予想しえないところに到達できることがあります。そうすれば、自然と世界のトップへの道が開いていることでしょう。
形成外科は、そこになかったものをつくり出し、より美しくするための診療科です。私は、形成外科で扱う手術は治療のためだけの手術でなく、アートでもあると考えています。形成外科手術がアートであれば、形成外科医はアーティストです。
指の再建の場合は、そこから突然指が生えてきたくらいの自然なものをつくる。周囲があっと驚くようなマジックをみせるマジシャンのようでもあります。ただ欠損部を元通りにしたり、新たに形成したりするのではなく、心の底から患者さんやその周囲の人々を喜ばせることこそが本当の形成外科医だと考えています。
この記事を見て受診される場合、
是非メディカルノートを見たとお伝えください!
広島大学病院
広島大学病院 感染症科教授
大毛 宏喜 先生
広島大学視覚病態学教室(眼科) 教授
木内 良明 先生
広島大学原爆放射線医科学研究所 腫瘍外科 教授、広島大学大学院医歯薬総合研究科 腫瘍外科 教授、広島大学病院 呼吸器外科 教授
岡田 守人 先生
広島大学病院 病院長、大学院医系科学研究科 整形外科学 教授
安達 伸生 先生
広島大学 消化器・移植外科学 教授
大段 秀樹 先生
広島大学大学院 皮膚科学 教授
田中 暁生 先生
広島大学大学院 医系科学研究科 心臓血管生理医学 准教授
石田 万里 先生
広島大学病院 呼吸器内科 教授・診療科長
服部 登 先生
広島大学大学院 救急集中治療医学 教授
志馬 伸朗 先生
広島大学大学院医歯薬保健学研究科 腎泌尿器科学 教授
松原 昭郎 先生
広島大学病院がん治療センター センター長、広島大学病院がん化学療法科 教授
杉山 一彦 先生
広島大学大学院 医系科学研究科 消化器・移植外科学 准教授
惠木 浩之 先生
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。