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インタビュー

日本発の超微小外科技術。0.3ミリの血管を縫い合わせ機能も見た目も高レベルで再建

日本発の超微小外科技術。0.3ミリの血管を縫い合わせ機能も見た目も高レベルで再建
光嶋 勲 先生

広島大学病院 国際リンパ浮腫治療センター 教授

光嶋 勲 先生

この記事の最終更新は2017年01月31日です。

顕微鏡とわずか0.05ミリの専用針を用いて、0.3ミリというシャープペンの芯よりも細い血管や神経をつなぐ―。そのような一見人間の手では不可能な技術を駆使し、あらゆる病気やけがを治療し世界をリードしている医師がいます。東京大学医学部附属病院形成外科・美容外科教授の光嶋 勲(こうしま いさお)先生は「超微小外科技術(スーパーマイクロサージャリー)」という技術を確立し、病気やけがによる身体の変形や先天的な奇形に悩む患者さんを救ってきました。神業ともいえる超微小外科技術とは、いったいどんな技術であり、どんな病気やけがに適応されるのでしょうか。超微小外科技術について、光嶋先生にお聞きします。

超微小外科技術とは、直径1ミリ以下の血管などを、顕微鏡を覗きながらつなぐ技術です。通常、吻合(ふんごう)できる血管は直径1ミリ前後とされていますが、私はこの技術を使って0.3ミリという非常に細い血管も吻合できます。これはシャープペンの芯の細さに匹敵します。つなぐ血管が小さいほど患者さんの体への負担が少なく、より患者さんのニーズに沿った再建が可能です。

この超微小外科技術は大変高度な技術を要するためにこの手技を習得している医師は一握りですが、超微小外科技術により、日本や世界の形成外科における再建分野は飛躍的な発展を遂げたといえるでしょう。今でも超微小外科技術による再建は日本の得意とするものです。

超微小外科技術では、今まで難しいとされていた非常に繊細な組織の再建が可能です。

従来は完治が難しいとされていたリンパ浮腫の治療において、超微小外科技術はその力を発揮します。超微小外科技術でリンパ管と血管をつないでバイパスをつくり、溜まったリンパ液を流すことで治療や予防が期待できます。

リンパ浮腫が進むと浮腫が起きている部分の平滑筋(へいかつきん)という筋肉の細胞が変性してしまい、リンパ浮腫の完治が難しくなります。そこでまだ平滑筋細胞の変性が起きる前の初期のリンパ浮腫の段階で、リンパ管と血管を吻合することでリンパ液の流れを改善し、元通りの細い手足に戻すことが可能です。

リンパ浮腫の患者さんのなかには、血管肉腫という悪性腫瘍ができる場合があります。超微小外科技術によって先に述べた血管とリンパ管のバイパスを行った患者さんの中に血管肉腫が消失した方がいらっしゃいました。これは、身体の免疫機能が回復したことから消失したのではないかという仮説が立てられています。また、バイパスをした方は感染が起きにくいこともわかってきました。

脳腫瘍舌がん咽頭がんなどの頭頚部の腫瘍の摘出手術や、事故などで失われた部位の再建は超微小外科技術の得意とするところです。たとえばまぶたを新しくつくる際には耳の部分の皮弁(血流のある皮膚組織や脂肪・筋肉組織)を用いて血管をつなぐと、目を閉じたり開いたりと、元のまぶたと遜色ない機能を保った再建が可能です。

また、下顎のなどの大きな骨の再建も腸骨(ちょうこつ)や腓骨(ひこつ)を血管とともに移植することで実現可能です。皮膚や脂肪の部分は腹部から皮弁を移植して再建し、また薄筋(はっきん)を顔面神経とつなぐことで運動機能や感覚も回復します。

乳房再建には大きくシリコンなどの人工物による再建と、自家組織(体の一部)を使った再建にわけられます。超微小外科技術を使った乳房再建は、後者に該当します。

今ではスタンダードとなった穿通枝(せんつうし)皮弁を用いた再建術も、私が開発しました。従来の自家組織を使った乳房再建では筋肉も一緒に移植しないと移植先で組織が生着しないと考えられており、腹筋を含めたお腹の組織を切除・移植していました。そのため腹筋が損傷し、術後の脱腸などの副作用に悩まされる患者さんが多くいらっしゃったのです。しかし筋肉を移植しなくても穿通枝という細い血管さえ移植すればじゅうぶんに生着することがわかったため、穿通枝皮弁を用いた再建術では筋肉を切除する必要がなくなりました。その結果として腹筋を温存できるようになり、脱腸などの副作用なく移植が可能となりました。

先天性の欠損や事故で指先などを失うことは、たとえ実際に負った傷の大きさは小さくても精神的・審美的に大きな影響を与えます。このような手の指や爪を再建するには足の指の組織を持ってきて超微小外科技術で神経をつなぐことで元通りのきれいな指先をつくることができます。栄養血管という細い血管を末梢でつなぐときちんと血液が流れ、健康な爪と同じく爪が伸びてくるのです。

神経の損傷などによって手足や顔面が麻痺してしまった場合にも、超微小外科技術を用い神経のバイパス手術を行うことで、感覚や運動機能を回復させることができます。また、危険な仕事を伴う職種に従事している場合や手術を受ける場合など、身体の麻痺が残るおそれがある際にあらかじめ神経バイパス手術を施すことで、今後起こりうる神経麻痺を予防できます。このように、解剖的に身体の構造を変えてしまうことにより、従来は防ぎようのなかったあらゆる障害を治療・予防することができる可能性が出てきました。

ほかにも、超微小外科技術は血管新生や脂肪幹細胞移植などあらゆる治療に応用できる、可能性に満ちあふれた先端技術なのです。

超微小外科技術は、ただ体の部位を再建するだけでなく、より美しく仕上げることが大切です。患者さんは体の一部や機能を失うことで身体的だけでなく精神的にもとてもつらい思いをしていらっしゃいます。ですから私は審美面にも最大限に気を遣い、患者さんが再建した部位を気に入ってくださり自分に自信を持つことのできるような「美しい」再建を心がけています。

再建によって自信を持ち、美しくなった患者さんには笑顔があふれています。より繊細で機能的にも審美的にも高いレベルで再建可能な超微小外科技術は、患者さんを幸せにする技術だと感じています。

光嶋先生

心筋梗塞脳梗塞といった血管の閉塞や狭窄が原因で起こる病気も、超微小外科技術による血管バイパス手術で予防できる可能性があります。まだ実現には至っていませんが、今後臨床に向けて研究を進めていけたら、と考えています。

医学はすでにかかってしまった病気を治療する時代から予防する時代にシフトしつつあります。超微小外科技術によってリンパ浮腫や神経麻痺、心筋梗塞・脳梗塞などの病気を予防できる時代がくれば、多くの方々がより健康に、幸せに暮らすことができるのではないでしょうか。

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国立国際医療センター  形成外科・診療科長 国際リンパ浮腫センター・センター長、リンパ超微小外科臨床修練プログラムディレクター

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おがわ れい
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