リンパ浮腫はがん手術の後に発症することが多いため、がん治療の後遺症ととらえられることが多い疾患ですが、それ以外の原因で起こる場合もあります。
外科手術と保存的治療を組み合わせてリンパ浮腫の改善に取り組んでおられる、横浜市立大学形成外科教授 前川二郎(まえがわ・じろう)先生に、リンパ浮腫の原因についてお話をうかがいました。
原発性ともいいます。生まれつきリンパ管やリンパ節の状態に問題があるために起こるとされていますが、まだ十分に解明されていません。発症する年齢により、先天性・早発性、晩発性(遅発性)に分けられます。
生まれつき浮腫を発症している場合をいいます。ハイハイの時期を過ぎ、立って歩くようになると、リンパ管に負担がかかるようになり、むくみが起こります。
おおむね35歳頃までに発症するものをいいます。一次性(原発性)のほとんどはこのタイプです。思春期の身体の変化や妊娠、体重の増加で下肢に負担がかかることなどがきっかけとなって発症します。
35歳以上になってから発症する場合をいいます。原因ははっきりしていませんが、膠原病など他の疾患が要因となって、後天的(生まれつきでないこと)にリンパの機能に障害が起きていると考えられています。
がん手術の際にはがんに侵されている臓器だけでなく、周囲へのがん細胞の転移があるかどうかをみるために、リンパ節を切除して組織を調べることがあります。これをリンパ節郭清といいます。また放射線治療でリンパ腺の機能が低下することもあります。その結果、リンパ液の循環が部分的にうまくいかなくなり、リンパ浮腫が起こります。がん治療の後に続いて起こるため、続発性または二次性ともいいます。
上肢(腕)のリンパ浮腫は主に乳がんの手術後に、下肢(脚)のリンパ浮腫は子宮がんや卵巣がんの手術後に起こりやすいため、患者さんの大半は女性です。上肢の場合は乳がんで乳房の切除と同時にわきの下のリンパ節を取ってしまうため、同じ側の腕に浮腫がみられます。また、下肢の場合は左右いずれかに浮腫が生じる場合(片側性)が多いですが、両方の脚に出る場合(両側性)もあります。ただし両側性でも多くの場合、左右差があります。
原発性(一次性)のリンパ浮腫のうち、先天性リンパ浮腫はリンパ管の形成不全や発育不全が主な原因とされ、生まれた時から、あるいは立って歩き始めるとすぐに浮腫がみられます。遺伝的な要因があるのではないかと考えられていますが、まだ明らかになっていません。
子宮がんや卵巣がんの手術時にリンパ節郭清を行う場合、術式によって術後のリンパ浮腫発症の割合が変わってくるというデータもあります。従来の手術法以外には腹腔鏡を用いるものや腹膜外法などがあり、それぞれ患者さんの身体への負担を考慮して行なっています。しかし、がんの転移の可能性をできるだけ少なくするためにはリンパ節郭清を確実に行う必要があります。
横浜市立大学 形成外科学 教授
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