院長インタビュー

患者さんが治療を続けやすい環境作りに注力する――やました甲状腺病院

患者さんが治療を続けやすい環境作りに注力する――やました甲状腺病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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福岡県福岡市博多区にあるやました甲状腺病院は、その名のとおり甲状腺・副甲状腺疾患を専門に診療を行う病院です。病床数38床の小規模病院ながら、甲状腺手術の年間件数は約800件*と全国でもトップクラスとなっている同院の地域での役割や今後ついて、院長である佐藤 伸也(さとう しんや)先生に伺いました。

先方提供
やました甲状腺病院ご提供

当院は、現・理事長である山下 弘幸先生が2006年に開業した「やましたクリニック」が前身となっています。やましたクリニックは開業当初は無床診療所だったため、手術や入院が必要な患者さんに対しては、近隣病院の開放型病床を利用して診療を行っていました。

しかし患者さんの利便性を考えると、やはり入院や手術の設備は必要です。特に当院では、開業3年目の2009年に甲状腺・副甲状腺の手術件数が全国上位となり、福岡県内のみならず隣接する熊本県や山口県からも患者さんが訪れるようになっていました。そのため、2012年には現在地に新たな診療所を新築移転して、有床診療所として院内で入院・手術が行えるようになりました。

2017年には病床数を増床して、現在のやました甲状腺病院に改称しました。受診される患者さんの数も年々増えており、2024年現在、再診患者数は1日平均で110名程度、初診患者数も1日平均10名**を超えています。病床数も38床となり、内科、外科、耳鼻咽喉(いんこう)科、麻酔科***などの常勤医12名、放射線科の非常勤医1名で日常診療を行い、病理診断は長崎大学原爆後障害医療研究所病理部門に研究的な検査も含めてお願いしています。

*手術実績……(2023年実績)……828(延べ862)件

**受診数1日平均(2023年実績)……初診:10.1人、再診:112.8人

***麻酔科標榜医……山岡 厚先生、岡村 美砂先生(2024年8月時点)

当院には手術室が2室あり、計4台の手術台を備えています。片方の手術台で麻酔の導入覚醒をしながら、もう片方で実際に手術を行うといったこともできるため、1日あたり8例まで手術が可能な体制となっています。

手術室には、超音波振動を利用した止血機器であるハーモニック・スカルペルやサンダービートなどを取り揃え、手術中に反回神経を刺激してモニタリングを行う術中神経モニタリング装置(IONM)といった機器を導入し、手術中はもちろん、術後合併症のリスク軽減を図っています。また、内視鏡手術の機器も取り揃え、甲状腺内視鏡手術ならびに甲状腺・副甲状腺に関する胸腔鏡下手術にも対応しています。

甲状腺疾患でよく知られる治療法として、アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)があります。甲状腺はヨウ素を取り込む性質があるため、放射線を放つヨウ素を内服することで、甲状腺の内部から患部に放射線を照射する治療法です。アイソトープ治療で使われる放射性ヨウ素は、到達距離が非常に短く、ほかの臓器への影響がほとんどありません。またアイソトープ治療の効果は科学的にも実証されています。

しかしアイソトープ治療は、安全性は高くても放射性物質を使った治療法なので、進行した甲状腺分化癌に対して大量投与を行う場合には厳格な被ばく防止管理が求められており、それに対応した器機、設備が求められます。それらは診療報酬にみあったものとは言えないため、全国的に見てもアイソトープ治療を行える医療機関は大学病院などに限られています。当院は甲状腺疾患を専門とする病院であるという自負から、アイソトープ治療専用病床を2床設置し、病院名を改称した2017年よりアイソトープ治療を行っています。

来院する患者数が多い大きな病院では、さまざまな検査のたびに待ち時間が発生して、診察に1日がかり、もしくは複数日ということも珍しくありません。当院では待ち時間を極力減らすため、予約制での診療を基本とし、その中で待ち時間ができるだけ少なくなるように努めています。

再診患者さんの場合、最初に採血を行い、血液検査の結果が出るまでの待ち時間を利用してエコー検査などを行うといった流れで、1回の診察がおおむね90分程度で終わるような体制をとっています。

甲状腺疾患は基本的に慢性疾患のため、多くの患者さんは長期にわたって通院を続けることになります。当院には、壱岐(いき)や対馬といった離島から訪れる患者さんもおり、通院だけで大きな負担になってしまうことがあります。

そのため、かかりつけ医でできる処方は患者さんの地元で行っていただき、検査結果を共有するといった形での連携をとって、当院へ通院する回数を可能な限り減らせるようにしています。手術が必要な患者さんについても、術前の検査や診察はできる限り1回で終わるようにして、患者さんの負担軽減に努めています。

現在も多くのかかりつけ医と密接に連携をとっていますが、患者さんにとって治療を続けやすい環境が維持できるよう、深い信頼関係で結ばれたネットワークを構築していきたいと思っています。同時に近隣の患者さんに対しても、ライフスタイルに合った診療や薬の処方といった相談に率先して応えています。

甲状腺・副甲状腺の病気は長期の治療を必要とするものが多く、10年、20年と継続して通院される患者さんも決して少なくありません。そのため、当院を開業した山下理事長は、開院当初から“治療の継続性”を重要視していました。山下理事長からバトンを受け取り院長となった私も、引き続き継続性を持った診療体制を維持していくことで、患者さんと信頼関係を築いていきたいと考えています。

継続性を維持するうえでの課題として、若手医師の育成が挙げられます。患者さんが継続して診療を受けやすい環境を整えていくためには、スタッフの確保が欠かせません。幸い当院では、超音波検査や細胞診、検鏡、経鼻喉頭(こうとう)内視鏡、手術などについて、幅広い実績があります。また小規模病院のため、看護師や臨床検査技師などコメディカルスタッフもカンファレンスに加わり忌憚のない意見を述べるなど、スタッフ間の風通しも非常によいものがあります。当院は日本外科学会の指定研修施設、日本内分泌外科学会の認定施設、日本甲状腺学会の認定施設であり、甲状腺外科を志す外科医、耳鼻咽喉科医、甲状腺内科を志す若手医師にとって、よい研修施設になりつつあると自負しております。よりよい研修施設になることで若手医師を確保し続け、治療を続けやすい環境を維持し、発展していくことが私の責務と考えています。

*病床数や診療科、医師、提供する医療の内容等についての情報は全て、2024年8月時点のものです。

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