福島県郡山市に所在する一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院は、かつてはがん診療をメインとして運営していたものの、近年は間質性肺炎をはじめとした呼吸器疾患に対する先端的な医療提供をメインとしているという、興味深い歴史を持つ病院です。
今回は、同院がどのような経緯で呼吸器疾患メインの病院となったのか、どんな取り組みに力を入れているのかなどについて、院長の杉野 圭史先生にお話を伺いました。
坪井病院の歴史は、1970年9月に坪井榮孝先生が坪井診療所を開設したところから始まります。日本当時のがん治療は大都市偏重が著しく、後年日本医師会長や世界医師会長にもなった坪井先生の“郷里の人たちにも、大都市と同水準のがん医療を受けられるようになってもらいたい”という思いのもとで開設された診療所でした。民間母体の医療機関としてはきわめて珍しい、がん専門病院としての開設だったのです。
そこから1977年4月に、坪井診療所の設立目的であった“がん医療の地域格差是正”というスタンスを受け継ぎ、さらに医療機関としての規模も拡大した一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院が開院、1983年5月には152床のがん化学療法センターが完成しました。
その後も1990年12月には東北で初となる緩和ケア病棟(ホスピス)を開設し、2003年8月には地域がん診療拠点病院の指定を受けるなど、長らくがん診療を中心とした運営をしておりましたが、近年は間質性肺炎をはじめとした呼吸器疾患の診療を中心としております。
当院は前述のとおり、かつてはがん診療をメインとしておりましたが、近年は呼吸器疾患の診療に力を入れております。
2000年代半ばあたりからは郡山市内にある総合病院ががん診療を強みとしてきており、この地域のがん医療については地域ぐるみで治療に当たれるようになってきました。しかし、間質性肺炎の患者さんは年々増加傾向にあるにもかかわらず、専門性の高い診療提供ができる医療機関は大都市に集中しており、この地域における間質性肺炎診療は開業医や総合病院の専門外の先生方が診療をせざるを得ないケースが多い、という事情があったのです。このような経緯のもと、当院は呼吸器科の診療体制を充実させることに注力するようになり、2018年1月には福島県内初となる間質性肺炎・肺線維症センターを開設しました。
間質性肺炎・肺線維症センターでは間質性肺炎に精通した日本呼吸器学会認定専門医が、患者さん1人ひとりの状態を診たうえで迅速かつ適切な治療を提供。さらに当センターは福島県立医科大学の呼吸器内科と密に連携を取り、常に大学病院に匹敵する水準の医療提供ができるよう努めています。また当院の呼吸器科では、間質性肺炎に限らず急性期から慢性期まで幅広い呼吸器疾患の診療を行っており、リハビリテーション科と連携しての積極的なリハビリ介入も実施しています。
さらに2020年10月からはがん患者さん以外にも緩和医療を提供できる非がん緩和病床を開設し、患者さんを最期まで“診切る”ための体制も整えました。今後も当院は、より充実した呼吸器疾患診療実現のための取り組みを推進していく所存です。
当院は2023年7月より、間質性肺炎患者さんのための患者会として“一期一会”を発足しました。
一期一会での患者さん交流は、LINE株式会社が提供しているLINEオープンチャットのコミュニティ機能を利用し、患者さんやそのご家族同士で間質性肺炎についての相談や生活の工夫などを話し合う、という形で行われます。同じ悩みを抱える者同士だからこそ本音で、医師に聞きにくいことなども話せることがこの交流の大きな強みです。
患者会コミュニティで交流する中で患者さんやご家族だけでは解決できない医学的な疑問などが出てきた場合は、オンラインコミュニティ運営会社であるピアハーモニー社を通じて質問が当院に送られ、間質性肺炎・肺線維症センターのスタッフが回答を提供いたします。
患者さん側としては“匿名参加できるので誰が質問したのかが病院側には分からない”ということでプライバシーが守られますし、当院としても“患者さんが、本音の内ではどんな不安や疑問を抱えているのかの気付きを得られる”ということで、患者さんとのコミュニケーションギャップを埋めやすくなります。
オンラインだからこそ、地元だけでなく全国の方と交流できるという点も大きな強みといえるでしょう。
一期一会へのメンバー登録は、当院ホームページのコミュニティ登録フォームからお申込みいただけます。全国どこにお住まいでも参加いただけるので、ご興味がある方はぜひご登録をお願いします。
当院は地域の皆さんに健康や医療に関して幅広く知っていただくための機会として、健康フォーラムや講演会などの機会も積極的に設けております。
直近では2024年7月27日に、ビッグパレットふくしまにて“肺の日記念市民健康フォーラム”を開催しました。このフォーラムでは間質性肺炎に関する講演だけでなく肺年齢測定や医療相談のコーナー、さらに間質性肺炎患者会“一期一会”の特設ブースも設け、多くの方々にご参加いただき、大盛況で終えることができました。
他にも、2024年4月27日には安積総合学習センターにて“あすなろ健康講座”を約4年ぶりに開催し、さらに6月1日には郡山市保健所にて“タバコについて考える日”の講演会も実施するなど、さまざまな場での健康・医療情報発信をしております。
私は2023年10月に院長に就任いたしましたが、院長就任後も“私自身も積極的に診療の最前線で働く”ということにこだわっております。
当院には間質性肺炎をはじめとした呼吸器疾患の患者さんが郡山市内のみならず県内外から大勢来られますが、それはまさに当院の呼吸器疾患診療に対する期待と信頼の表れであると考えております。私も院長兼呼吸器科部長兼間質性肺炎・肺線維症センター長として、その期待と信頼を裏切らぬよう全力を尽くしたいのです。
当院は今後も、スタッフ一丸となって患者さん1人ひとりに対し最善の医療を提供できるよう取り組んでまいりますので、皆さんの温かいご理解とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。