院長インタビュー

離島・へき地に医療を届ける鹿児島赤十字病院の取り組み

離島・へき地に医療を届ける鹿児島赤十字病院の取り組み
武冨 榮二 先生

鹿児島赤十字病院 院長

武冨 榮二 先生

この記事の最終更新は2017年12月03日です。

鹿児島県鹿児島市にある日本赤十字社 鹿児島赤十字病院は、時代の流れとともにその機能を変化させてきた医療機関です。同院が結核の専門病院として開設されたのは1923年(大正12年)のことです。その後、1982年(昭和57年)にリウマチ・膠原病の専門病院として生まれ変わり、現在は急性期病院として日々、高度な医療を提供しています。また、災害拠点病院や離島・へき地医療拠点病院としての機能を有し地域に貢献してきました。

地域に根ざした医療提供を行う同院の取り組みや今後の展望について、院長である武富榮二先生にお話を伺いました。

当院は、鹿児島県鹿児島市にある急性期病院です。7対1看護体制による急性期医療を実施するほか、災害拠点病院や離島・へき地医療拠点病院として地域に貢献してきました。県で唯一の赤十字病院として、地域に根ざした医療サービスの提供を行っています。

当院が結核治療の専門病院として開設されたのは1923年(大正12年)のことです。多くの結核患者さんに医療を提供していましたが、時代が進み結核治療のニーズが減少したことにともない、1982年(昭和57年)にリウマチ・膠原病の専門病院として生まれ変わります。その後、地域の高齢化に対応するため脳神経外科や循環器内科、呼吸器内科などご高齢の患者さんに必要とされる機能を充実させ、急性期病院へと変化してきました。リウマチ・膠原病の専門病院であった当時は、入院されている方の実に95%がリウマチの患者さんでしたが、現在の割合は40%程度となっています。

開設から90年以上の歴史をもつ当院は、時代の流れとともにその機能を変化させてきました。専門病院として培ってきた強みをいかしながら、今日も地域が求める医療を提供し続けています。

鹿児島県は全国的にみて特に高齢化が進んでいる地域です。75歳以上の後期高齢者率は14.8%であり、全国で5番目に高い数値となっています。結核の専門病院として開院し、後にリウマチや膠原病に特化した医療機関となった当院が、時代の流れと共に脳神経外科や循環器内科、呼吸器内科などの高齢者医療に必要とされる機能を充実させ急性期病院として変化してきたのは、そのような地域高齢化の波に対応するためでもあります。

高齢化が進む鹿児島県には65歳以上の単身世帯数も多く、高齢者が孤独死されるケースも増えてきました。高齢患者さんのなかには、退院後に老老介護のような状況になる方や、そもそも介護をしてくれる人がいないという方も多いのが現状です。鹿児島県における高齢者の在宅ケアはかなり深刻な問題をかかえており、今後改善していかなければならない大きな課題となっています。

鹿児島県は28の有人離島を有しています。そこに暮らす方々の数は約17万2千人です。これは全国でもっとも多い数字です。同県は県内にいくつものドクターヘリを配置し、離島を含むすべての地域に医療を届ける取り組みをしてきました。

しかし、基本的にドクターヘリは救急医療を目的とするものです。離島に暮らす方々のなかには、慢性的な疾患をかかえる方もいらっしゃいます。離島・へき地医療拠点病院として県からの指定をうける当院は、離島に医師を派遣したり、巡回診療を行ったりすることで、医療をあらゆる地域に満遍なく提供する取り組みを続けています。

鹿児島県で医療が不足している地域は、医師のいない離島だけではありません。鹿児島県は、南北に長く、北の端から南の端までの距離は約600kmもあります。このように広大な面積を有している鹿児島県では、県の南北で医療の状況に差が生まれているのです。特に、古い団地が多く人口の流出が顕著な県北部では、住民の減少にともない多くの医療機関が閉鎖してしまいました。

鹿児島県は、人口と比べて過剰な病床数をかかえています。全国で5本の指に入るほど、病床が余っている地域なのです。しかし、離島と県北部では、医療が手薄になっています。この医療の偏在は、今後県をあげて解消していかなければならない問題です。

鹿児島県から災害拠点病院としての指定を受ける当院は、県内に15病院・28チーム(2017年6月1日現在)あるDMATの内、2チームを有しています。DMATとは、災害などの発生時に高い機動性をもって被災地へ医療を提供する、専門のトレーニングを受けた医療チームのことです。緊急事態に陥った際にはこの医療チームを出動させ、被災者に医療を届けます。

また、それとは別に当院は日本赤十字病院の救護班も有しています。阪神淡路大震災や東日本大震災が発生した際にも、この救護班で救護活動を行いました。さらに、鹿児島県内で大規模災害やテロなどの緊急自体がおこった場合には、災害拠点病院である当院は医療救護所としての機能も果たします。

災害拠点病院であるとともに、県から離島・へき地医療拠点病院としての指定も受ける当院は、鹿児島県が有する有人離島、三島村と十島村への医療支援を35年以上続けてきました。

硫黄島・竹島・黒島の3つの有人島と、新硫黄島・デン島の2つの無人島からなる三島村には、有人各島へ3か月交代で医師を派遣しています。三島村に向かった医師は、硫黄島・竹島・黒島の各島に3か月をかけてそれぞれの島に医療を提供しています。医療設備が十分に整っていない離島での診療経験は、医師たちの大きな自信にもつながっています。

一方、7つの有人島と3つの無人島からなる十島村は、医師の派遣と離島回診によって医療を提供しています。北側にある4つの島には三島村同様3か月交代で医師を派遣し、宝島や小宝島など奄美大島に近い島々には当院の医師が月に数回、巡回診療を行ってきました。離島やへき地で暮らす方々にも満遍なく医療が提供できるよう、これからもこの取り組みを継続してまいります。

当院は、結核の専門病院として開院し、その後リウマチや膠原病に特化した医療機関として生まれ変わり、整形外科や脳神経外科、循環器内科、呼吸器内科などの機能を充実させて現在に至ったという背景をもっています。当院が整形外科の機能をもったのも、リウマチの外科的治療を行うことが目的でした。

このような経緯をもつ当院は、現在もリウマチ関節治療の分野で高い実績を誇っています。リウマチ関節治療は感染の問題などもあり、非常に高い専門性が求められる分野です。当院を信頼して、離島を含む県内全域はもとより、九州の各地から患者さんがいらっしゃいます。整形外科による、リウマチ関節の外科的治療は長らく当院の強みとなっているのです。

リウマチ関節治療に特化した外来のほか、当院の整形外科では脊椎の疾患に特化した外来や上肢・手の治療に特化した外来を設け、それぞれに専門性の高い診療を行ってきました。脊柱・上肢・下肢の専門医を幅広く取りそろえている当院では、一般の整形外科疾患はもちろんのこと、脊椎・関節の専門的かつ高度な手術・治療・リハビリを実施しています。

災害拠点病院や離島・へき地拠点病院としての役割を果たしながら、7対1看護体制による質の高い急性期医療を地域に提供していきたいと考えています。7対1看護体制とは、7名の入院患者さんを1名の看護師が受け持ってケアを行う医療体制のことを示します。この体制を維持することで、患者さんにしっかりとした医療を提供できるのです。

当院は医師の派遣や巡回診療によって、有人離島へ医療を提供してきました。しかし、離島ですべての医療ケアを行えないため、大きな病気を患った患者さんは、市街地にある医療機関で治療を受けなければならないというのが現状です。特に、末期ガンなどの病をかかえる患者さんの多くは、生まれ育った離島で最期のときを迎えることができません。当院では、患者さんすべてが望んだ場所で、思い思いの時間を過ごせるよう、離島の在宅ケアを支援していきたいと考えています。

地域の高齢化が進むと、それにともなって介護が必要な方の数も増えます。介護が必要になる主な要因は、認知症脳卒中、脳血管障害とロコモティブシンドロームなどの、運動機能障害とされます。この内、当院では運動機能障害により介護が必要になるのを未然に防ぐため、当院の強みである整形外科治療の経験と知識をいかしていきたいと考えています。地域の方々の運動器ケアをしっかりと行っていくことで、運動機能の低下を防ぎ、高齢者のみなさまの健康寿命の延伸に努めていきます。

当院は、それほど規模の大きな医療機関ではありません。しかし、鹿児島県にひとつしかない赤十字病院です。当院がなくなれば、災害拠点病院や離島・へき地医療拠点などの、現在当院が赤十字病院として担っている機能が県内からなくなってしまいます。この機能を維持させていくためにも、地域に必要とされる存在であり続けなければならないと、今日まで医療の提供を行ってきました。

今後も、当院がこれまでに培ってきたリウマチ関節治療や整形外科などの得意分野をいかしつつ、急性期病院としての機能も発揮し、地域に貢献し続けてまいります。

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