抗生物質が効かない細菌の登場―まるで小説や映画に出てくるようなお話が現実のものとなっています。かつては有効だった抗生物質が効かなくなってしまう耐性菌とは、どのようなものなのでしょうか。
武蔵野赤十字病院感染症科副部長の本郷偉元先生に、耐性菌について引き続きお話をうかがいました。
耐性菌とは、抗生物質に対する抵抗性をもった細菌のことをいいます。耐性菌ができるメカニズムには、誘導と選択という2つの側面があります。まずひとつには、元々細菌自体が変化するポテンシャル(潜在力)を持っていて、抗生物質(抗菌薬)を浴びることによって変化が誘導されるということがあります。
もうひとつ、ある種の細菌の中に他とは違う特性を持った個体がいて、抗生物質で他の菌が死滅した結果、その抗生物質が効かなかった個体だけが生き残る(選択される)ということも起こります。
ですから、意味合いからいえば「抗生物質の乱用が耐性菌をつくり出す」とは必ずしも言い切れない部分もあるのですが、いずれにせよ細菌は人から人へ感染していくという性質を持っているため、非常にやっかいであるといえます。
たとえばがん細胞も自らが変化したり、あるいは治療を無効化するような物質をつくり出すことによって、抗がん剤に対して抵抗性を持つことがあります。しかし、それが人から人へ拡がっていくというようなことはありません。
ところが耐性菌は人の移動にともなって、世界中どこにでも拡がってしまいます。インドで感染が拡大したNDM-1(ニューデリー・メタロβラクタマーゼ)の感染者が日本でも確認されるというようなことが現実に起こっています。
抗がん剤やステロイドなどの薬剤が使用に際してかなり慎重に扱われているのに対し、抗生物質(抗菌薬)は安易に処方されているという面があることは否めません。抗菌薬を使うことの背景には、耐性菌という大きな問題が表裏一体となっていることを、われわれ医療従事者も一般生活者の皆さんも、いま一度強く認識する必要があると考えます。
WHO(世界保健機構)の報告では、耐性菌は世界全域で拡大傾向にあることが指摘されています。先に述べたNDM-1はその象徴的な一例ですが、他にもさまざまな耐性菌があり、最後の切り札とされるカルバペネム系抗菌薬に耐性をもつCRE(Carbapenem-Resistant Enterobacteriaceae)については米国のCDC(疾病管理予防センター)が警告を発しています。
また、抗生物質の過剰な使用という点では、中国における抗菌薬の年間使用量が162,000トンに上っており、世界全体の5割以上の量を消費しているという報告もあります。
決していたずらに不安をあおるわけではありませんが、今や耐性菌や新興感染症が国境を越えて拡がるのは当たり前のことであり、海外へ渡航する予定のある人たちだけの関心事ではないということを認識しておくべきでしょう。
関東労災病院 感染症内科 部長
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