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インタビュー

公開日 : 2015 年 10 月 02 日
更新日 : 2017 年 05 月 08 日

抗生物質は私たちが薬局で手軽に入手できる鎮痛剤や解熱剤、総合感冒薬などとどう違うのでしょうか。医師に処方された抗生物質を服用したことはあっても、抗生物質とはなにか、どうして効くのかといわれると、なかなか答えられないものではないでしょうか。

日米で経験を積み、専門的なトレーニングを受けた感染症のスペシャリストであり、またインフェクションコントロールドクターとして院内感染の予防・対策に取り組んでいる武蔵野赤十字病院感染症科副部長の本郷偉元(ほんごう・いげん)先生に、抗生物質(抗菌薬)をテーマにお話をうかがいました。

抗生物質(抗菌薬)とは

抗生物質は一般的には抗菌薬あるいは抗生剤とも呼ばれますが、厳密に言うと抗生物質と抗菌薬は少し違います。歴史上もっともよく知られている抗生物質といえば、アレクサンダー・フレミングが青カビから偶然発見したペニシリンです。カビは天然のもの、つまり自然界に存在するものですが、天然のものから作られたものを抗生物質といいます。

一方、抗菌薬はいろいろな物質を化合・結合させて作ったものです。私たち医師、とくに感染症に携わる者は抗生物質も含めて抗菌薬という呼び方をしますが、一般の方や患者さんに対しては抗生物質という呼び方もしますし、医師以外の医療従事者などに対しても、それほど厳密にことばの使い分けを求めるようなことはありません。

また「抗生剤」という言葉が用いられることもあります。これは抗生物質を略した言い方のはずですが、やはり実際には抗菌薬を含めて用いることも多いです。

皆さんは医師が「抗菌薬」ということばを使っているのを聞いたら、いわゆる「抗生物質」のことを言っているのだな、と理解していただければよいと思います。

次に覚えておいていただきたいのは、抗生物質(抗菌薬)は「細菌を殺す薬」であるということです。ペニシリンに代表されるβ-ラクタム薬と呼ばれる抗生物質を例にとってご説明します。

β-ラクタム薬には細菌の細胞のまわりにある細胞壁を壊す作用があります。細菌もまた細胞でできている生物ですから、細胞壁が壊れることで細菌が死ぬ、ということになります。

この細胞壁は細菌に特有の構造ですので、抗生物質が私たち人間の細胞を壊すことはありません。これを「選択毒性」といいます。すべての抗生物質が同じような仕組みで細菌を殺すというわけではありませんが、医薬品として認可されている抗生物質は、人体に強い影響をおよぼすようなことがないようにつくられています(もちろん副作用がまったくないというわけではありません)。

対象となる細菌の特性が違えば、それに対して効果を発揮する抗生物質の系統も異なります。そして重要なのは「細菌を殺す抗生物質はウイルスには効かない」ということです。なぜなら、細菌とウイルスは別の種類の、あるいは別のカテゴリーの微生物だからです。

抗生物質(抗菌薬)はどんなときに用いられるべきか

ある症状を訴えて患者さんが病院を受診したとき、抗生物質(抗菌薬)を使うべきか否か―これはどんな医師にとっても常に頭を悩ませる問題です。皆さんにわかりやすくお伝えするために、「こんなときには抗生物質は必要ありません」という例をいくつかご紹介します。

まず、風邪(流行性感冒)やインフルエンザはウイルスが原因ですので、抗生物質は効きません。くしゃみ・鼻水・せき・微熱など典型的な症状であれば抗生物質は不要です。

中耳炎や副鼻腔炎はどうでしょうか。これらも風邪に続いて起こることが多い病気です。耳鼻咽喉科領域の疾患ですので一概には言えませんが、感染症医の立場としては、重症化していなければ経過観察でよいと考えます。

下痢の場合にも抗生物質は処方しません。抗生物質が必要な下痢は、アメーバ腸炎などいくつかの病気に限られます。これらは、検査によって原因となる微生物を特定しない限り、適切な抗生物質を処方することはできません。

のどが赤く腫れて咽頭炎を起こしている場合ですが、抗生物質の投与が必要なのは一般的にはA群溶連菌が原因の場合のみです。それ以外は必要ありません。A群溶連菌に感染しているかどうかは迅速検査でその場で調べることができますので、本来ならばすべての医師が検査を行うのが望ましいといえます。

また、たとえA群溶連菌に感染していたとしても、抗生物質の投与は発症から最大9日以内であれば有効なことが多いです。これは、何のために抗生物質を使うのかということと大きく関わっています。A群溶連菌はリウマチ熱という、心臓の弁膜症などを引き起こす病気の原因となるため、これを予防するために治療する必要があります。実はのどの痛みを和らげるために抗生物質を投与するわけではないのです。