子どもの気管支炎は、主に感染性の急性気管支炎です。痰(たん)が絡む咳が特徴で、完治までには3週間ほどかかります。風邪のなかでも、痰が絡むものを気管支炎と呼んでいることがほとんどのため、過度な心配は必要ない病気です。
今回は、子どもの気管支炎について千葉市立海浜病院小児科の阿部克昭先生に詳しくお話を伺いました。
子どもの気管支炎は、ほとんどの場合が感染性の急性気管支炎です。
痰が絡むような咳が、一番の特徴です。発熱や鼻水、喉の痛みをともなうことや、下痢気味になることもあります。
また、2歳未満の小さな子どもでは、喘息のようにゼイゼイと音がする呼吸をしてしまうことがあり、その場合は「急性細気管支炎」と呼び区別しています。
要は「風邪」ですが、そのなかでも特に痰が絡む、咳が出るという症状が強い場合を「気管支炎」と呼んでいます。
同じウイルスに感染しても、症状が出ない方から気管支炎になる方までさまざまです。
たとえばRSウイルスの場合、鼻風邪で済む方と気管支炎になる方まで症状の幅は広く、赤ちゃんの場合は、細気管支炎でゼイゼイしてしまうこともあります。
細菌の場合は、うつってもすぐに病気を起こさずに鼻の奥で定着しています。ウイルス感染症で粘膜が傷ついていたり、分泌液が増えて気道の通気が悪くなると、細菌が増殖して病気を一段と重くしてしまうことがあります。「風邪をこじらした」という現象の多くはこの状態と考えています。
急性気管支炎は、痰が絡む症状が強い風邪を指し、だいたいウイルスが原因で起こります。
急性の咳をしている子どもの90%が治るまでにかかる期間は、25日という報告があります(注)。
大人でも変化しながら症状が残ることがあり、完治には半月近くかかることがあると思います。子どもが気管支炎にかかると、完全に治るには3週間ほどかかることがよくあると思っていてください。
(注)BMJ 2013;347:f7027
慢性気管支炎は、粉塵作業(塗装、建築、鉱山業、農家など)に従事していたり、たばこを吸っていたりと、長年にわたり微粒子状の物質を気管支内に吸引していた方がなりやすい病気です。
生まれつきの脳の障害や免疫不全症のある子どもでは、頻繁に繰り返されて長引く誤嚥性肺炎や感染性気管支炎のために、慢性気管支炎といえる状態に至ってしまうことがあります。
しかし、このような疾患のない子どもで3週間を超えて咳が続いている場合には、喘息や慢性副鼻腔炎など他の病気を疑います。
いきなり発熱と同時に鼻水、咳、痰などが出てくるときは、たいていウイルス性気管支炎(風邪)です。
基本的に外来では、どのウイルスが気管支炎の原因となっているかを検査しません*。
ウイルス性気管支炎には特効薬がなく、原因ウイルスがわかったところで治療に結びつかないからです。インフルエンザが原因の場合は治療につながるため、検査の意義があります。
RSウイルスやヒトメタニューモウイルス(肺炎の疑いがあるときのみ)の検査は、院内感染防止目的に行うことがある。
RSウイルスは、鼻水や痰が非常に多くなり、特に小さな子どもではゼイゼイする急性細気管支炎の原因になります。
3か月未満の赤ちゃんは鼻が詰まっただけで呼吸困難になるため、たかが鼻風邪と馬鹿にできないウイルスです。
インフルエンザウイルスは、RSウイルスと共にウイルス性気管支炎の原因となる代表ウイルスです。咳や痰の他に頭痛や関節痛、ときには嘔吐や下痢、まれに脳症を起こすこともあります。インフルエンザは感染力が強く、RSウイルスと比べて急速に広がることが問題です。特にインフルエンザA型は、感染力が強いです。
エンテロウイルスD68というウイルスがあります。「エンテロ」とは腸管のことで、子どものエンテロウイルス属感染で有名なのはヘルパンギーナや手足口病といった「夏風邪」で、あまり咳や痰は出ません。
しかし、エンテロウイルスD68の感染症では、痰が出て気管支炎の症状をきたしたり、喘息発作を起こすことがあります。
極めてまれにですが、気管支炎が治った後にポリオ(ポリオウイルスもエンテロウイルス属)のような麻痺を起こしてしまうことがあり、治療法もないため恐れられています。
細菌による気管支炎と細菌検査で判明した場合のみ、抗菌薬を使います。
千葉市立海浜病院では、1時間程度でグラム染色*の結果が出て、2日後には抗菌薬感受性検査(どの抗菌薬がどれだけ効くかというデータ)の結果が出ます。細菌検査を行わずに抗菌薬を処方することは原則としてありません。
グラム染色…細菌に染料で色をつけ、形や染まりかたで細菌の種類を推定する検査
・肺炎球菌…熱が出やすく、臭いが自覚できるくらいに痰がにおう
・モラクセラ・カタラリス…熱は出にくいが、黄色い鼻水と痰がしつこく続く
細菌性気管支炎を起こすモラクセラ・カタラリスという細菌がいます。感染しても発熱を起こさないことも多いのですが、痰や鼻水といった分泌物を増やしてしまうことが多い細菌です。
単独で気管支炎や中耳炎を起こすだけではなく、インフルエンザ菌や肺炎球菌と一緒に感染すると、ペニシリン系の抗菌薬を壊して効きにくくしてしまうという厄介な特徴があります。
肺炎マイコプラズマは、肺炎だけではなく気管支炎も起こします。
マイコプラズマはグラム染色*で見えず、培養でも検出できないため、千葉市立海浜病院では、マイコプラズマの遺伝子を見つけだすLAMP法という検査を行って診断します。
マイコプラズマによる気管支炎と肺炎で治療内容を変えるべきかどうかで意見は分かれますが、私は同じ治療をしています。
グラム染色…細菌に染料で色をつけ、形や染まりかたで細菌の種類を推定する検査
多くの場合、年齢の小さい子ほどなりやすいと思ってよいでしょう。大きい子は、ウイルス感染をしても鼻かぜ(上気道炎)止まりであることが多いです。
マイコプラズマは例外で、3歳ぐらいから小学生~大学生、さらには現役世代の成人にも感染症を起こすことが多くなります。
RSウイルスなどは冬に流行ることが多く、ヒトメタニューモウイルスは3〜7月に流行がみられます。
気管支喘息のある方は、発作を誘発されてしまうことが多く注意が必要です。
先天性心疾患の一部や早産・低出生体重児も、気管支炎(特に急性細気管支炎)が重症化するリスクが高いです。そのため、低年齢の場合はRSウイルス感染による非常に重い気管支炎や肺炎を防ぐ薬を投与して重症化を予防しています。
また、周産期*1疾患や脳炎・交通事故などの後遺症、先天性疾患などで中枢神経障害を持っている方は、誤嚥(ごえん)*2性肺炎を併発して重症化してしまうことがあります。
1 周産期…妊娠22週から出生後7日未満までの期間
2 誤嚥(ごえん)…食物などが気管に入ってしまうこと
基本的に風邪予防です。難しいことではありますが、受験や発表会などでどうしてもウイルスに感染させたくない場合、人が多いところに子どもを連れて行かないほうがよいです。
とはいえ、長く予防し続けることは現実的ではなく、たいていのウイルスにはどこかでかかることで免疫がつきます。
「子どもが保育園に入ったとたんに何度も風邪をひいてしまい困っている」という保護者の方をよく見かけます。
しかし、たくさん風邪をひいた分、多くのウイルスに対する免疫がつくため小学校に入るころには丈夫な子どもに育っていくと思います。
ご家族の考え方次第ですが、多少痰が絡んだ咳をしていても熱もなく食事も食べられており元気な場合、1か月近く様子をみてしまっても平気ではあります。
しかし、以下のようなときは早めに小児科や信頼できるかかりつけ医などに受診することをおすすめします。
細菌性気管支炎や肺炎、中耳炎の合併が疑われるため病院受診が必要です。
私の場合、子どもが元気ならば、3日ほど経過をみて自然に解熱することを期待します。3日以上発熱が続いている場合には、痰の検査などで細菌感染の合併がないかを調べています。
子どもの気管支炎の場合、たいていウイルス性です。気管支炎の段階で早く病院に行って、抗菌薬を医師に求めて飲んでも肺炎予防はできません。
気管支炎は、がんとは異なり、早期発見・早期治療が重要な訳ではありません。早く治療しなければならないことはまれです。
肺炎や中耳炎を合併する子どもは実際には少なく、風邪や気管支炎を放置していたせいで肺炎や中耳炎になるわけでもありません。自宅で安静にしておくことも必要です。
部屋は暑すぎず寒すぎず、本人が寒がるなら厚着をさせ、汗をかいているときは薄着にします。部屋の乾燥を避け、水分を十分にとらせましょう。
呼吸が苦しそうではないか注意が必要で、ゼイゼイして苦しそうなときは緊急な受診が必要です。
咳込んで吐くのを怖がる子どもに、お腹いっぱいになるまで無理やりごはんを食べさせないようにしてください。体調が悪いときに、普段より食べられないのは当たり前です。ただし、水分はしっかりとらせてください。
インフルエンザの場合は学校保健安全法に基づいて*登校してください。
RSウイルスについては、園や地域の医師会独自の登園許可基準があることが多いです。
その他のウイルスや細菌性気管支炎のほとんどは、熱がなく元気ならば登園・登校できます。
咳が完全に治るには、3週間以上かかることもあります。咳が多少残っていても吐いてしまったりゼイゼイしたりしていなければ、登園・登校してよいでしょう。
インフルエンザの出席停止期間…学校保健安全法により「発症した後(発熱の翌日を1日目として)5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで」と定められている。
気管支炎というと何やら重病な感じがしますが、風邪のなかでも痰が絡むものを気管支炎と呼んでいることがほとんどです。あまり心配しすぎなくてよいでしょう。心配して病院に通いすぎると、他の病気をもらってきてしまうことがよくあります。
また、咳や痰は病原体を体の外に追い出すために出ているものです。強力な薬で無理やり止める必要はありません。
「咳が続いているのに放っておいたら肺炎になった」というのも実際には、咳を放っておいたことが原因ではない(不可抗力の合併症*)ことも多いため、あまり神経質にならないほうがよいと思います。
合併症…ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状
鎌ヶ谷総合病院 小児科 部長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。