ここでは敗血症の治療についてご紹介しますが、敗血症の治療法は多岐にわたり、症状や重症度によって治療法を決定します。1. 敗血症ってどんな病気?、2.敗血症の検査と診断ーガイドラインにおける敗血症の概念とは?に引き続き、ハーバード大学医学部外科学講座研究員の近藤豊先生にお話頂きました。
敗血症の治療ですが、敗血症では末梢血管の拡張や血管透過性亢進(血管内の水分や栄養が外に漏れ出る状態)が起こっていることが多いため、生理食塩水や乳酸リンゲル液などの輸液が必要になります。
そして最も重要なことは、原因となる感染症の治療です。細菌が原因であれば抗生物質、ウイルスが原因であれば抗ウイルス薬、真菌が原因であれば抗真菌薬を投与します。また抗生物質はウイルスには効果がありませんので、原因を調べるのは非常に重要です。そのため通常は血液培養検査と呼ばれる検査を実施することになります。
上記の治療が終わっても病状が重篤である場合、すなわち重症敗血症や敗血症性ショックの場合には昇圧薬と呼ばれる循環作動薬の投与、人工呼吸器の装着、急性血液浄化法、人工心肺と呼ばれる特殊な治療をICUで実施することがあります。
次に手術の必要性ですが、多くの敗血症は保存的加療(手術の必要性がなく薬物だけの治療)で治療できますが、敗血症の原因が腹腔内膿瘍、消化管穿孔等の場合には緊急手術が必要となります。手術が必要な場合の敗血症は一般に重篤な状態となることが多く、早期治療は非常に重要です。
敗血症の治療期間は個々の患者さんの容態によって様々です。「敗血症性ショック」と呼ばれる、敗血症が原因で起こる血圧低下などの循環不全を来たすと、ICUでの治療が必要になる場合も多く、治療期間は長くなります。敗血症性ショックの場合には数週間から数ヶ月間の治療期間を要しますが、軽症であれば数日から数週間で治療可能です。
敗血症の患者さんの看護では、体温の変化、呼吸回数の増加、頻脈の発生、低酸素血症や高二酸化炭素血症の発生、血圧低下などを注意して見る必要があります。また意識状態がいつもと違う、落ち着かなくて不穏になる等の症状も実は敗血症のサインの1つとして知られています。「意識がおかしい=頭の病気」でないので注意が必要です。
重症敗血症や敗血症性ショックの患者は、ICUでの治療を要することも多く、また死亡率も高い疾患です。
興味深いことに、重症敗血症の原因となる菌の種類の違いにより予後も変わってきます。米国の重症敗血症患者の大規模データベースを用いた結果では、起炎菌(炎症を起こすもととなる菌)としてグラム陰性桿菌が51.5%、グラム陽性球菌が45.6%、嫌気性菌が1.7%、真菌が1.2%でした。
そのうち、グラム陰性桿菌では緑膿菌による敗血症が最も死亡率が高く29.5%、グラム陽性球菌では黄色ブドウ球菌による敗血症が多く30.9%となっています( Variations in organism-specific severe sepsis mortality in the United States: 1999-2008, Crit Care Med, (2015)より)。
私の研究では緑膿菌感染症の死亡率が高い原因として、緑膿菌の成分である“フラジェリン”と呼ばれるタンパク質が高い死亡率の原因ではないかと推察される研究成果が出ていますが、さらなる研究が必要だと考えます。
治療には起炎菌に合わせた抗生物質の選択が必要となりますが、抗生物質に耐性を持つMDRP(多剤耐性緑膿菌)、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などが起炎菌となった場合、その予後はさらに厳しくなります。
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