敗血症とは、感染症をきっかけに、さまざまな臓器の機能不全が現れる病態です。重症化を防ぐためには、早期治療が何よりも重要になるといいます。近年では、早期介入を可能にするスクリーニング法も登場しています。
広島大学の教授である志馬 伸朗先生は、敗血症の診療に長く携わっていらっしゃいます。今回は、志馬先生に、敗血症の診断と治療についてお話しいただきました。
敗血症の原因や症状に関しては、記事1『敗血症とは? 敗血症の原因や症状』をご覧ください。
敗血症は、重症化を防ぐために早期の治療介入が非常に重要になります。このように、早期の治療を可能にするためには、早期診断が必要です。
2016年に定められた、敗血症の新たな診療ガイドラインではquick Sequential Organ Failure Assessment(qSOFA)と呼ばれるスクリーニング法が導入されました。
このqSOFAは、以下のように、意識、呼吸、循環の3項目から成り立っています。
各項目を1点とし、2点以上である場合に敗血症の可能性があると定められています。
お話ししたようなスクリーニング法によって敗血症の可能性を評価したら、早期に診断をすすめ、治療介入を行うことが重要になります。それは、敗血症の処置開始が一時間遅れる度に、救命率が低下するといわれているからです。
敗血症の診療ガイドラインでは、3時間以内に行うべき介入として3時間バンドルが定められています。治療の根本は、十分な輸液と、感染症に対する治療としての抗菌薬の投与です。なお、3時間にこだわることなく、できるだけ迅速に治療を開始することがより重要です。
感染症の原因となる細菌やウイルスが何であるか、初期の介入の段階ではわかりません。そのため、初期の治療介入では、感染源を予測し効きそうな薬を医学的に判断し、あらかじめ投与することになります。
また、3時間バンドルには入っていませんが、敗血症の患者さんのなかには、体内に膿ができているケースがあります。その場合には、薬だけでは治療が難しく、針を刺して膿を抜いたり、手術によって膿を取り除くこともあるでしょう。
敗血症かどうかを最終的に評価するには、まず、臓器障害を評価する必要があります。これは、主に血液検査や診察によって行われます。
また、感染症の特定のためには、患者さんの問診とともに、採血や検体の微生物検査が有効になるでしょう。さらに、レントゲンやCT検査によって、病巣を特定します。
感染症の特定において最も大切な検査は、血液培養(血液中から菌を検出する検査)です。敗血症は、肺炎であれ尿路感染症であれ、全身に細菌やウイルスが広がっている可能性が高くなります。さらに、敗血症ショックになると、血液培養の陽性率が50%を超えるといわれています。血液から感染源を調べることによって、どんな細菌や真菌が体内に入っているかがわかるので、血液培養検査をすることが敗血症の診断のポイントになります。
感染症そのものの治療には、抗微生物薬が適応されます。細菌であれば抗菌薬、ウイルスであれば抗ウイルス薬、真菌であれば抗真菌薬など、感染した微生物によって薬が適用されます。
同時に、たまった膿を外に出すなど、外科的な手法による感染巣コントロールを行うケースもあります。
また、心臓や肺、腎臓、肝臓などの臓器の機能が落ちている場合には、これらをサポートし代替するような治療が適応されます。たとえば、呼吸の状態が悪ければ人工呼吸器が適応されますし、心臓の動きが悪化していれば、心臓の働きを強化する強心薬が投与されることもあるでしょう。
これらのように臓器の代替補助的治療を安全に行うためには、救急・集中治療の専門医が駐在する救命救急センターや集中治療室において、全身状態の変化を綿密に観察しながら治療を受けることが望ましいと考えています。
繰り返しになりますが、敗血症の重症化を防ぐためには、早期発見・早期介入が重要になります。そのためには、かかりつけの医師や救急隊などが、qSOFAなどの簡便な指標を利用しながら敗血症を早期に発見することが大切です。
次に、qSOFAによって重篤化する可能性のある患者さんが発見されたとき、救急・集中治療の専門医などの高次医療機関にいかに早期に搬入することができるかが重要になります。
たとえば、電子カルテシステムを使用し、遠隔地の病院と都市部の大学病院をつなぐネットワークを築くことができれば、早期の発見と転送につなげることができるかもしれません。
また、救急車で搬送される場合、通常、救急隊が病院に連絡した上で搬送を決定しますが、情報を自動的に病院に送るシステムがつくられれば早期介入につながるもしれません。
たとえば、私たち広島大学は、救急車との画像情報伝送をすでに実施しています。これにより救急車の中の状態(患者さんの顔色や状況、救急隊員の処置)が病院からも把握できるようになっています。今後は、このシステムに上述した患者情報データを上乗せして、かつ、その情報伝達ネットワークをさらに広げることで、敗血症の早期発見・早期治療を実現したいと考えています。
敗血症はあらゆる感染症で起こり得る病態です。このため、さまざまな診療科の医師と協力しながらチーム医療を進めていきたいと考えています。
敗血症は、初期に見逃されてしまうことも少なくありません。早期発見のためには、この病態をまず認識することが重要であるため、私たち専門家も啓発活動に積極的に取り組んでいます。記事1『敗血症とは? 敗血症の原因や症状』でお話ししたように、敗血症は急速に死にいたることが少なくない病態です。しかし、適切な治療によって回復し元気に過ごされている方も数多くいらっしゃいます。
重症化を防ぐためには、早期治療が何よりも大切です。何かあったときに、すぐに相談できるようなかかりつけ医を持つことが大切になるでしょう。
広島大学大学院 救急集中治療医学 教授
日本救急医学会 救急科専門医日本集中治療医学会 集中治療専門医日本麻酔科学会 麻酔科専門医・麻酔科指導医日本感染症学会 感染症専門医日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医・抗菌化学療法指導医日本外科感染症学会 外科周術期感染管理教育医・外科周術期感染管理認定医日本ペインクリニック学会 ペインクリニック専門医日本呼吸療法医学会 呼吸療法専門医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター
救急医学や集中治療医学を専門とし、2015年より広島大学大学院において救急集中治療医学の教授に就任。広島県のみならず、日本全体の救急・集中治療領域における医学研究や医療の質と安全性の向上のためにさまざまな活動に従事するとともに、救急・集中治療医を目指す若手医師の増加を目標に尽力している。
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