インタビュー

順天堂医院で無痛分娩が増えている理由

順天堂医院で無痛分娩が増えている理由
角倉 弘行 先生

順天堂大学  麻酔科学・ペインクリニック講座 教授(産科麻酔担当)

角倉 弘行 先生

この記事の最終更新は2016年03月22日です。

日本人が持っている「お産は痛いものである」という概念を覆す、無痛分娩という方法があることをご存じでしょうか。無痛分娩とはその名の通り、分娩に伴う強烈な痛みをやわらげ、お産をサポートするための処置を指します。無痛分娩は日本ではまだなじみが薄く、あまり普及していないように思われる方が多いかもしれませんが、順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下:順天堂医院)では無痛分娩の件数も割合も急増しているそうです。なぜ順天堂医院では無痛分娩が増えてきているのでしょうか。順天堂大学麻酔科・ペインクリニック教授(産科麻酔担当)の角倉弘行先生にお話しいただきました。

お産の痛みは個人差がありますが、多くの女性にとっては生涯で経験する最も強い痛みでしょう。この強い痛みを硬膜外麻酔(背骨に入れた管から局所麻酔薬を投与する)で和らげるのが、硬膜外麻酔による無痛分娩です。

(関連リンク:坊垣昌彦先生記事1『無痛分娩とは』

硬膜外麻酔による無痛分娩は多くの国々で普及しています。特にアメリカやフランスでは、経腟分娩で出産する女性の80%以上が硬膜外麻酔による無痛分娩を受けています。その他の先進国でも無痛分娩の割合は20~60%となっており、差はありますが分娩中に女性が希望すれば、多くの分娩施設で無痛分娩を受けられる環境が整っています。

またアジアの国々で無痛分娩の割合は10~20%ですが、経済的に恵まれた女性を対象とした施設の多くでは、無痛分娩がいつでも受けられる環境が整っているのです。

これに比べて、日本で無痛分娩の割合は5%以下と、諸外国に比べて非常に低くとどまっています。しかし最近、ようやく日本でも無痛分娩が認知されるようになり、無痛分娩を提供している病院が増えつつあります。

世界の国々の無痛分娩の割合(株式会社ヌンク版『順天堂式無痛分娩 Q&A50』より引用)

日本でも無痛分娩を行う施設は徐々に増えていますが、無痛分娩の件数や割合自体は決して多くはありません。

その一方、順天堂医院では2014年の7月から麻酔科医を中心とする産科麻酔チームが24時間体制での無痛分娩を始めて以来、無痛分娩の件数も割合も急増しています。実際に無痛分娩の件数を見てみると、2013 年は140件だったのが、2015年には654件となり急激に増加しました。また経膣分娩で出産した産婦さんのうち、無痛分娩を選択した方の割合も、2013 年の23%から2015年には77%と急激に増加しています。

さらに注目すべき点は、全体の分娩数が急激に増加する一方、無痛分娩を選択しなかった産婦さんの数が急激に減っていることです。

順天堂医院の無痛分娩数の推移(株式会社ヌンク版『順天堂式無痛分娩 Q&A50』より引用)

それでは、なぜ順天堂医院でここまで無痛分娩数が増加したのでしょうか。その理由は、24時間体制での無痛分娩を始めたからです。

まず無痛分娩の件数自体が増えた理由としては、近隣の病院から24時間体制の確立した順天堂医院へ無痛分娩を希望する妊婦さんが移ってきたことが考えられます。

一方で、無痛分娩を選択しなかった産婦さんの数が急激に減った理由としては、24 時間いつでも無痛分娩が受けられるようになったため、もともとは無痛分娩を希望していなかった妊婦さんも分娩経過中に無痛分娩を選択できるようになったからだと考えられます。これは日本の女性でも、無痛分娩がいつでも受けられる環境が整えば、分娩経過中に無痛分娩を選択する可能性が高いことを示しています。つまり、日本にも無痛分娩の潜在的な需要があるということです。

 

参考書籍:『順天堂式無痛分娩 Q&A50』竹田省監修 執筆:板倉敦夫(産婦人科)、角倉弘行(麻酔科)、星子英子(助産師)

 

  • 順天堂大学  麻酔科学・ペインクリニック講座 教授(産科麻酔担当)

    日本麻酔科学会 麻酔科指導医日本ペインクリニック学会 ペインクリニック専門医

    角倉 弘行 先生

    防衛医科大学校を卒業後、国立成育医療センターを経て、順天堂大学麻酔科学・ペインクリニック講座教授(産科麻酔担当)。24時間体制の無痛分娩という、これまでに実現できなかった新しい分娩体制を築き上げた実績を持つ。「全国各地の妊婦さんが安心してお産に迎えるような仕組みを作りたい」というモットーを持ち、産科医・麻酔科医・助産師はもちろん、国や自治体にも強く働きかけている。

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