インタビュー

順天堂医院が24時間体制の無痛分娩を始めたわけとは

順天堂医院が24時間体制の無痛分娩を始めたわけとは
角倉 弘行 先生

順天堂大学  麻酔科学・ペインクリニック講座 教授(産科麻酔担当)

角倉 弘行 先生

この記事の最終更新は2016年03月23日です。

無痛分娩を行っている施設の多くが計画分娩での無痛分娩を推奨しています(無痛分娩の普及については記事1『順天堂医院で無痛分娩が増えている理由』を参照)。計画分娩とは自然に陣痛が来るのを待たずに、出産予定日の前に入院し、促進剤(子宮収縮薬)を使用して計画的に分娩することです。日本では無痛分娩イコール計画分娩と考えておられる妊婦さんが多いようですが、順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下:順天堂医院)では計画分娩ではなく、自然の陣痛が来てから病院を受診することを勧めています。これは「24時間体制の無痛分娩」という体制が整っているからできることでもあります。では、なぜ順天堂医院では24時間体制の無痛分娩を始めたのでしょうか。順天堂大学麻酔科・ペインクリニック講座教授(産科麻酔担当)の角倉弘行先生にお話しいただきました。

母子手帳には出産予定日が記入されていますが、あくまでもこれは予定日であり、陣痛が始まる日時を正確に予測することは困難です。

自然に陣痛が始まった産婦さんに対して無痛分娩を行うためには、無痛分娩に対応できる医師(麻酔科医)が24時間体制で病院内に待機している必要があります。しかし分娩数の少ない施設では、無痛分娩のためだけに24時間体制で麻酔科医が待機していることは合理的でありません。

一施設あたりの分娩数が多い海外の施設では(これを集約化といいます)、24時間いつでも緊急帝王切開と無痛分娩に対応できるよう、常に産科麻酔専門の麻酔科医が院内に待機していますが、日本ではこれを実現している施設はほとんどありません。

これらの事情から日本で無痛分娩を希望する妊婦さんには、やむなく計画分娩での無痛分娩をお勧めしているのです。

計画分娩での無痛分娩ではなく、自然の陣痛が来てからの無痛分娩では、陣痛が始まってから病院に到着して麻酔を始めるまでの間の痛みを心配される女性もいます。しかし、分娩初期の陣痛は普段の生理痛ほどで陣痛と陣痛の間隔も10分くらいありますので、この分娩初期の痛みを恐れて計画分娩を選択する必要はないでしょう。

また計画分娩といっても必ずしも計画通りに行くわけではありません。例えば「計画分娩のために入院を指示された日よりも前に陣痛が来てしまったので、無痛分娩が受けられなかった」という話をよく聞きます。あるいは、計画分娩のために入院してから一日で産まれずに二日~三日がかりになってしまい、かえって大変な経験をされている産婦さんも少なからずいます。特に初産婦さんが計画分娩で無痛分娩を行うとき、計画通りに一日で産まれる割合は決して高くありませんし、無理に一日で産もうとすると母体や胎児に負担をかけることになります。

一方、自然の陣痛が来てから無痛分娩を始める方法であれば、初産婦さんが無痛分娩を選択してもほとんどの産婦さんが24時間以内に分娩を終えます。ですからなんらかの医学的事情(予定日超過など)があって計画分娩を選択する場合は別にして、無痛分娩のためだけに計画分娩を選択するのは必ずしも良い方法ではありません。

順天堂医院が24時間体制の無痛分娩を推し進める原動力は、「24時間いつでも快適で安心できる分娩」を目標に掲げる順天堂医院の周産期チームの思いです。

そもそも分娩は危険を伴うものであり、母体あるいは胎児の生命を守るために緊急帝王切開が必要になることがあります。あるいは産後の出血のために緊急手術が必要になることもあります。そのため、分娩の安全を担保するためには、24時間いつでもこれらの緊急事態に対応できる体制を構築しておくことが望まれます。

多くの病院では手術室に勤務する麻酔科医がこれらの役割を担っていますが、無痛分娩を担当する医師が産科病棟に配置されるようになれば、さらに迅速な対応が可能となります。このため、順天堂医院では無痛分娩のために産科病棟に麻酔科医を配置しているのではなく、産科病棟に麻酔科医を配置できるように、無痛分娩を奨励しているのです。実際に、ご自分の分娩のことをより真剣に考えて調べている妊婦さんの中には、無痛分娩のために順天堂医院を選択したのではなく、「安心できる分娩のために順天堂医院を選択した」とおっしゃる方もおられます。

 

参考書籍:『順天堂式無痛分娩 Q&A50』竹田省監修 執筆:板倉敦夫(産婦人科)、角倉弘行(麻酔科)、星子英子(助産師)

 

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