小児から成人への移行期ケア専門外来が九州大学病院に開設されました。子どもから大人へと成長する時期にはさまざまなケアやサポートが必要となります。九州大学病院小児科医局長の山村健一郎先生にトランジショナルケア外来についてお話をうかがいました。
治療が困難とされてきた小児の慢性疾患ですが、医療の進歩によって治療が可能となり、成人期以降も継続的に専門的な治療を必要とする小児慢性疾患の患者さんが増えてきました。小児から大人へと成長した子どもたちに、切れ目のないシームレスで最適な医療を提供するお手伝いをさせて頂くというのがトランジショナルケア外来のコンセプトです。
成長した子どもたちは、外見上は健康そうにみえても、実際には様々な健康上の問題を抱えていることが少なくありません。私の専門は心臓疾患ですが、先天性心疾患の患者さんというのは、例えば消化管の奇形や、内分泌の病気など、他の疾患も同時に合併していることがあり、それらを含めた専門的な医療を必要とすることがあるのです。
しかし多くの場合、成人した子どもたちはそのまま小児科に通院していたり、あるいは成人になったということで病院に通院していなかったりと、成人した子どもたちへの適切な医療が行われていないというのが現状でした。そのため、トランジショナルケア外来では、小児慢性疾患の子どもたちが大人になって、最適な治療を受けられるよう小児医療から成人医療への橋渡しを行っているのです。
例えば免疫不全などの難しい病気であれば、他の病院に送ることはできないので、大学病院で引き続き診ていかなければならない場合もあります。また疾患によっては、近隣の病院やクリニックで十分という場合もあります。これまでは、どこの病院に行けばいいのか患者さん自身もわからないことがほとんどでしたので、トランジショナルケア外来では、しっかりと病状を説明して、患者さん本人に自己決定してもらうための情報を提供しているのです。
成人した子どもたちは、就職や結婚、妊娠や出産など、人生の節目でさまざま転機を迎えます。成人期特有の問題に直面することも少なくありませんが、そんなとき、医療面だけに限らす、生活上の問題や社会福祉面での問題など、患者さんにとって必要な医療や必要な社会福祉サービスなどの情報を提供しようというのもトランジショナルケア外来の役割です。
例えば、社会保障制度を例に挙げると、これまでは、小児慢性特定疾患が二十歳で切れると、即医療費は三割負担に切り替わっていました。しかし、国の難病対策によって難病への医療費補助が受けられるようになったため、そのあたりの制度についても情報として提供しています。過去には、制度を知らなかったために、本来なら受けることができる制度を受けていなかったということもありました。
社会福祉制度などに関しては、患者さん本人で調べるには限界もあるため、九州大学病院では、公費相談窓口の職員に、適切な医療費補助や支援の制度を説明してもらったり、また院内に福岡県と福岡市の難病支援センターの職員の方に常駐してもらい、就労の支援など幅広いサポート業務を行ってもらったりしています。