小児慢性疾患の特徴のひとつは、保護者を主体とした医療です。患者さん本人は自分の病気のことを知らないことも多く、また保護者は子どもが病気のことを知らないことに気づいていないことも少なくないそうです。九州大学病院小児科医局長の山村健一郎先生にトランジショナルケア外来の現状と今後の展望についてお話をうかがいました。
2014年に九州大学病院内に開設し「診療連携の支援と調整」「医療・社会保障制度に関するサポート」「患者さん本人が主体となる成人医療への移行の支援」の三つを柱としてサポートしています。
これまで実際に外来で相談を受けた疾患としては、内分泌系ではバセドウ病、遺伝系ではターナー症候群、悪性腫瘍では白血病の化学療法治療後の後遺症、小児外科では食道閉鎖の術後や臍帯ヘルニアの術後などさまざまな分野にわたります。不妊症の相談も少なくありません。
日本初となるトランジショナルケア外来ですが、九州大学病院のホームページに載せているのと、記者会見を行ったことで、広く知られるようになりました。院外の先生方から紹介されてくる場合も多く、紹介状には「成人期への医療の円滑な移行をお願いします」と書かれていますので、移行期ケアの重要性はだいぶ認識されてきているのだと実感しています。同時に、クリニックや市中病院の先生方も移行期ケアの必要性をこれまでも感じていたのではないかと思います。
成人した小児慢性疾患の患者さんというのは自分の病名を正しく理解していないことが少なくありません。以前にアンケートをとったとき、患者さんのおよそ半数以上の方が病名を正しく答えることができませんでした。トランジショナルケア外来では、このような現状をふまえて、患者さん本人だけでなく、保護者である親御さんにも病院独自で作成した質問事項に答えてもらっています。
①自分の病名を知っていますか?
②自分がこれまでに受けた治療を知っていますか?
③現在処方されている薬の名前を知っていますか?
④現在処方されている薬の効果、副作用が言えますか?
⑤医師からの診察・検査結果の説明が理解できますか?
などトータルで11項目あります。
①お子さんが自分の病名を言えるか確認したことがありますか?
②お子さんがこれまでに受けた治療を伝えていますか?
③お子さんが現在処方されている薬の名前を伝えていますか?
④お子さんが現在の薬の効果、副作用を伝えていますか?
⑤お子さんは医師からの説明をよく理解していますか?
などトータルで11項目です。
これらの質問事項を保護者の方と患者さん本人がお互いに確認し合うことで、保護者の方は自分のお子さんがいかに病気のことを知らないのかということを再認識し、患者さん本人も自分が病気の理解が不十分であることを認識し、お互いにセルフケアの必要性を自覚できると実感しています。
これまで治療困難とされてきた小児慢性疾患が医学の進歩によって治療が可能となり、治療後も長生きできるようになりました。これからは、小児慢性疾患の患者さんが 適切なサポートによって、小児医療から成人医療へと、より適切な医療を受けられるよう、移行期のケアの充実が求められる時代が来たのだと考えます。