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インタビュー

神経芽腫の治療ー手術・抗がん剤・放射線治療を組み合わせる

神経芽腫の治療ー手術・抗がん剤・放射線治療を組み合わせる
田尻 達郎 先生

九州大学大学院医学研究院 小児外科学分野 教授

田尻 達郎 先生

この記事の最終更新は2016年04月24日です。

検査によって神経芽腫と診断された場合、具体的にどのような治療を進めるのでしょうか?引き続き京都府立医科大学大学院小児外科学教授の田尻達郎先生に、神経芽腫の治療についてお伺いしました。

神経芽腫は、良性から悪性の性質のものまで、その悪性度はさまざまであり、また病気の進行具合(病期)によっても、治療方針や予後が大きく変わってきます。

現在日本では、画像診断や骨髄検査、シンチグラフィの結果に基づき、神経芽腫国際病期分類(INSS分類)を用いて病期を決定しています。病期は原発の腫瘍がどのくらい広がっているか?骨や骨髄に転移していないか?という項目によって決定されます。

病期定義

1限局性腫瘍で、肉眼的に完全切除。組織学的な腫瘍残存は問わない。同側のリンパ節に組織学的に転移を認めない(原発腫瘍に接し、一緒に切除されたリンパ節に転移はあってもよい)。

2A限局性腫瘍で、肉眼的に不完全切除。原発腫瘍に接しない同側リンパ節に組織学的に転移を認めない。

2B限局性腫瘍で、肉眼的に完全または不完全切除。原発腫瘍に接しない同側リンパ節に転移を認める。対側のリンパ節には組織学的に転移を認めない。

3切除不能の片側性腫瘍で、正中線を越えて浸潤。同側の局所リンパ節の転移は問わない。または、片側発生の限局性腫瘍で対側リンパ節転移を認める。または、正中発生の腫瘍で椎体縁を越えた両側浸潤(切除不能)か、両側リンパ節転移を認める。

4遠隔リンパ節、骨、骨髄、肝、皮膚、および/または他の臓器に播種している(病期4Sは除く)。

4S限局性腫瘍(1、2Aまたは2Bで定義される)で、播種は皮膚、肝、および/または骨髄に限られる(1歳未満に限定)。

<国立がん研究センター小児がん情報サービスより『神経芽腫国際病期分類(INSS分類)』を引用>

どの治療が選択されるかは、病期、年齢、腫瘍細胞内のMYCN遺伝子のコピー数、顕微鏡の検査による病理分類、腫瘍細胞内の染色体の数などに基づいて、三つのリスク群(低リスク、中間リスク、高リスク)に分類し、リスクに応じて決定されます。

神経芽腫では、手術で全部摘出できなくても、治療前に確定診断と悪性度を判定するために腫瘍の一部を切除(生検)する必要があります。

腹部もしくは胸部を開いて、直接切除範囲を確認しながら腫瘍を摘出する手術です。腫瘍全てを切除するときや、抗がん剤治療後の2回目の手術で腫瘍の周囲にあるリンパ節まで広く切除する必要があるときにこの方法が用いられます。

腹部の側面か背中側からメスを入れ、腫瘍を直接摘出する方法です。原発巣が副腎であり、比較的早期で容易に摘出可能と考えられるときにこの方法が用いられます。開腹手術に比べると、術後の合併症が起こりにくく、体への負担も少ない手術になります。

周囲臓器への転移や浸潤が見られない、早期の神経芽腫に用いられる方法です。手術のためには1cm程度の穴(孔)を3~4ヵ所空けて、腹部あるいは胸部の中をカメラ(内視鏡)で間接的に見ながら行う手術になります。傷を大きく開ける必要がないため、患者さんの体の負担が少なく、手術の跡も目立たないというメリットがあります。

しかし、小児では体の中が狭く、技術的にやや難しいというデメリットがあります。この手術法は、診断を確定するために腫瘍の一部をとってくる生検でも用いられます。ただ一部保険適応外の場合もありますので、治療方針については担当医とよく相談して決めてください。

自覚症状がなくて、尿検査の結果で神経芽腫が疑われた乳児では、比較的早期で悪性度も高くない症例が多くなっています。このような症例では、腫瘍の全摘出のみで治療を行う場合や、手術・抗がん剤治療を行わずに経過観察のみで自然と小さくなって消えていく場合もあります。また、

手術で腫瘍を全部摘出できない場合や転移がある乳児例でも、その後の抗がん剤治療で完治することもあります。そのため、できるだけ臓器を残すよう(臓器温存)に努め、将来の生活の質(QOL)を下げないような方針を立てるようにしています。

がん剤治療もリスク分類によって治療方針を決定していきます。

主に病期1・2A・2Bの悪性度の低い早期例が対象となります。これらの早期症例は、基本的には腫瘍摘出手術を行うだけで、抗がん剤治療は行いません。ただし、全摘出ができなかった場合や呼吸障害がみられる場合には、ビンクリスチンやシクロホスファミドなどを用いて低用量の抗がん剤治療を短期間行います。

抗がん剤で腫瘍が小さくなったのを確認後、再度手術を行うことにより、完全な摘出を目指します(二回に分けて摘出をする方法を二期的手術と言います)。

乳児期の病期4、年長児の病期3の症例が対象となります。ただ、欧米に比べると日本では中間リスク群の患者さんは少なくなっています。病期4の患者さんでも術前・術後に抗がん剤治療を行うことで5年生存率は約80%と比較的良好な結果になっています。

この腫瘍群にはMYCN遺伝子が増えている症例と年長児のMYCN遺伝子は増えていない病期4の症例が含まれます。MYCN遺伝子が増えている場合に悪性度が高くなるということがわかっています。

上記のケースでは原発腫瘍が周囲の臓器や血管を巻き込んでいたり、転移があることが多いために、最初から手術による全摘出ができません。治療は、手術による切除生検と高用量の抗がん剤治療を行うことになります。

ビンクリスチン・シクロホスファミド・ピラルビシン・シスプラチンのような強力な抗がん剤を使用します。原発巣と転移巣の腫瘍を小さくし、2回目の手術で原発巣の全摘出を目指します。術後も維持抗がん剤治療を継続する必要があります。

また、術後には、自家造血幹細胞移植を併用した抗がん剤療法も行われます。自家造血幹細胞移植とは、前もって患者さん自身の血液の源となる造血幹細胞を採取、強力な抗がん剤治療のあとに体内に戻します(移植する)。これにより、正常な造血機能を回復させることができる治療方法で、この治療は近年増加傾向にあります。さらに、骨への転移がある場合や限局した腫瘍に対して、放射線治療を併用することもあります。

小児がんにおいて常に考えなければいけないのは、様々な診療科と連携し治療法を組み合わせていく集学的治療を行うということです

私は小児外科医ですが、外科はあくまでも治療の一部であって手術は他の治療から独立しているわけではありません。実際手術をしたらそれで治療が終わるわけではなく、手術後も抗がん剤治療や放射線治療が最低でも半年は続きます。したがって、患者さん1人1人の治療方針について関連科(小児科、小児外科、放射線科、病理診断部、臓器別の成人科)が集合して検討するキャンサーボードの役割が最も重要であると言えます。

残りの1割の患者さんは化学療法が必要ですが、全体でも90から100%の患者さんが長期生存します。

中間リスク群は手術と化学療法による治療を行います。また、転移がある場合には放射線療法が行われます。全体でみると70〜90%の患者さんは長期生存します。

高リスク群は最も治りにくく、化学療法を中心とした治療となり、手術は補助的な役割となります。放射線治療も行いますが、長期生存は約40%にとどまっています。これらに対しては、新しい薬剤や治療の開発が行われています。

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