千葉大学医学部附属病院診療教授・和漢診療科長の並木隆雄先生は学生時代から東洋医学研究会に所属し、西洋医学と東洋医学を分け隔てなく学んでこられました。その両方の長所を活かした最善の医療を目指すためには、若い世代の専門家を育成することが欠かせません。漢方薬治療の今後の展望について並木先生にお話をうかがいました。
漢方について大学で教えるようになったのは2001年以降のことです。しかし、全国の医学部で漢方について学生が教わるようになるには、さらにその後数年を待たなければなりませんでした。
したがって卒業後10年目ぐらいまでの医師は漢方のことを少しは知っているのですが、その上の世代には漢方をまったく知らないという方が相当数いるのです。もちろんその中には漢方に興味を持って学んでいる方もいるのですが、それはごく少数です。漢方を否定する方も多く、それも漢方を知っていて否定するならばまだしも、漢方のことを知らないで否定する方が多いというのが現状です。
今後世代が変わっていくことで理解が深まっていくと考えていますが、私としては全国的にもっと正しい理解のある専門家が増えることを期待しています。ただし、本当の意味での漢方専門医が育つには時間がかかることと、漢方に興味を持つ方が少ないということもあって、ある意味漢方専門医は絶滅危惧種なのかもしれないという危機感もあります。
また、専門家として取り組んでくださる本人だけでなく、漢方の良い点を理解する方々が周りにもいなければ人は育ちませんので、ぜひ正しい漢方の理解が広まるようになればと考えています。
漢方の診断は西洋医学の診断とまったく異なりますので、それを学ぶには医学部の6年間のうち数時間ではあまりに短く、教える時間のハンディキャップが大きな問題です
漢方の診察法は特殊ですので、実際の診療の中でも初診の患者さんの診察には30分位かかることもあります。患者さんの持っている背景や生活状況など諸々のことを聞いて処方するため、どうしても時間がかかります。ただ、再診の場合にはそういった状況がわかってきますので、もっと短い時間で診ることができます。
千葉大学には戦前から「東洋医学研究会」という学生のサークルがあります。学生のサークルとはいえ、実はこの東洋医学研究会から全国各地の大学教授レベルの人材を輩出しています。そういった大先輩の先生方が教えに来てくれるという環境で学生が自主的に漢方を学ぶことができたのです。
幸いなことに私も学生時代そこに所属し、西洋医学を学ぶ前から漢方を学んでいましたので、双方を分け隔てなく理解することができるようになりました。その結果、語学で言えばバイリンガル的な思考ができたのです。
医師になってから東洋医学を学んだ方が劣っているというわけではありませんが、やはり先に学ぶと学ばないとでは差が出ることがあります。それに対して私の場合はどちらも並行して学んだので、患者さんを診たときにどちらのアプローチがより適しているかを即座に判断して対応することができるようになりました。
東洋医学研究会出身の先生方の診療を学生時代から見せていただき、直接指導を受けることができたおかげで、私も大学卒業直後から漢方薬の処方を出来る能力が身につき、その流れで漢方薬の世界に入ったのです。
西洋医学から漢方に入った方の場合はどうしても病名を中心に考えてしまうことが多いようです。つまり、こういう病気だとこの漢方薬が使えるだろうという考え方になりがちなのですが、私の場合は病名というよりも患者さんの状態を見て漢方的にはどれが良いかという判断をしています。後から漢方について学んで、漢方的な見方が身につく方もいますが、どうしても西洋医学的な視点に重きを置きがちになってしまいます。
毎日の生活が病気をつくる可能性がありますので、食事・運動・睡眠・入浴などの生活習慣をぜひ見直していただきたいと思います。ただし、インターネットなどの情報には偏りがありますので、十分気をつけた上で参考にしていただければと思います。
また、現在ご病気の方については、すでに良い先生にかかっておられる方も多いと思いますが、もしご自分の思うような形にならないときには、専門医にご相談いただいて漢方治療を併用することで良い方向に向かうこともあるということを知っていただければと思います。
【並木隆雄先生の著書】
千葉大学医学部附属病院 和漢診療科 科長(診療教授)
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