千葉大学医学部附属病院のレストラン「ヴァンセーヌ」では、和漢診療科長の並木隆雄先生の監修のもと、岡部栄シェフが考案した「医食同源メニュー」が提供されています。漢方の生薬を取り入れた季節ごとのセットメニューが楽しめます。並木隆雄先生がこのメニューを発案された経緯、そして健康食品の問題などについてもお話をうかがいました。
あるとき、漢方薬を投与しても想定される効果が出ない患者さんがいらっしゃったので、なぜだろうと思ってよくお話をうかがってみると、日々の食事が大変偏っているということがわかりました。薬理的な効果がそれほどない日々の食事であっても、やはり偏った食事が365日続くと体の中の反応で相当なずれを生じます。
漢方薬が効きにくい理由のひとつに食事の不摂生があり、それはおそらく食事の重要性が十分理解されていないために食事に偏りがあるのではないかと考えました。もしそうであるならば、患者さんに食事についてもう少し真剣に考えていただくことはできないだろうかと思ったのがきっかけです。
実は漢方薬のために大学病院まで来られるような患者さんに、特にそのような方が多いと感じています。そういう方だからこそ西洋薬も効かず、また漢方薬を出してもらっても効果が思わしくなく、藁にもすがる思いで最終的にこの和漢診療科に来られているのです。
たとえばある冷え症の方の場合、体が冷えるので当然冷たいものは食べていないと考えていました。実際に「冷たいものは食べていませんか?」と尋ねると「食べていません」とおっしゃるのですが、もしやと思い「アイスクリームは食べていませんか?」とお尋ねしたところ「アイスクリームは食べてはいけないのですか?」と逆に聞き返されてしまいました。つまり、その方の中では食事で冷たいものを食べてはいけないということと、アイスクリームが結びついていないのです。食に対する理解が乏しい、あるいは無頓着な方がいらっしゃる顕著な例ではないかと思います。
漢方薬が本来の効果を発揮するにはやはり食事が基本ですから、どうすれば食事について関心を持っていただけるかということがきっかけとなって、医食同源メニューというものを考えつきました。しかし私は料理のプロではありませんので、実現するためにはそれを作ってくれる方が必要です。たまたま病院内の展望レストラン「ヴァンセーヌ」の運営会社がオリジナルの創作料理にも理解があり、そこの岡部栄シェフに協力していただいて病院内のレストランで医食同源メニューの提供を開始しました。
このメニューは外部の方も利用する病院内のレストランで出しているもので、健康な方の健康を維持・増進するために考えた食事です。入院している患者さんに病院食として出しているわけではありません。また、3ヶ月毎にメニューを入れ替え、季節ごとに違うものを楽しんでいただけるようにしています。スタッフの試食会も行い、おいしく食べてなおかつ季節を感じていただけるようなメニューを提供しています。
この医食同源メニューを本として出版してくださるところがあったので、レシピをまとめた本も出版しています。※
(※「千葉大学病院の薬膳ごはん」並木隆雄・岡部栄、マイナビ、2014年)
この本には料理のことも書いてありますが、漢方の基本的な考え方などについても書いていますので、読んでいただくと漢方というものの考え方も少しわかっていただけると思います。
患者さんが薬局で入手できる健康食品は医薬品としての漢方薬とは異なり、定評というものがありません。もし定評があればそれは薬として認められるわけですが、まだ十分に調べられていないものですから未知の効果もあります。我々が処方を出している漢方薬との相乗効果で逆の方向に働く可能性もゼロとはいえません。
そういった健康食品の中身には、漢方薬と似たような成分が入っていることがあります。そうすると、私が出そうとしている漢方薬と患者さんが自分の判断で摂っている健康食品の中の漢方薬がぶつかってしまうときもあります。原則として患者さんには摂取している健康食品は申告していただきたいですし、一定期間は摂らないようにお願いしています。
健康食品はかなり高価ですし、千葉大学医学部附属病院の場合は原則として保険診療ですので、当院で処方している薬のほうがはるかに安価です。特に健康食品をご自分で買っていた患者さんにとっては驚くほど安いと感じられるでしょう。したがって、患者さんの経済的な負担も大きく違うはずです。
【並木隆雄先生の著書】
千葉大学医学部附属病院 和漢診療科 科長(診療教授)
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