千葉大学医学部附属病院には全国でも数少ない漢方薬による治療を専門とした「和漢診療科」という独立した診療科があります。和漢診療科ではどのような診療を行っているのでしょうか。千葉大学医学部附属病院診療教授・和漢診療科長の並木隆雄先生にお話をうかがいました。
大学の附属病院で和漢診療科があるところは非常に少ないのですが、この千葉大学の他には富山大学(旧・富山医科薬科大学)の附属病院にも和漢診療科があります。和漢診療学という言葉は前任の教授であった寺澤捷年先生が命名されました。
ただし、江戸時代の漢方や東洋医学とは異なり、現在は西洋医学という基盤を前提とした東洋医学という位置づけになりますので、西洋医学の導入以前にあった漢方や東洋医学とは違うものであるという意味で、あえて和漢診療科という呼び名を使っています。
漢方、和漢など薬の呼び方はいろいろあります。「和漢」というと日本古来の処方も含んだ意味ですが、「漢方薬」というのは中国で古代の医書に書かれた処方を基本としていて、それが長い間に少しずつモディファイ(変形)されてきたものなので歴史があります。
歴史があるということは、効きやすくなおかつ副作用が少ない薬が残っているので、有効性も安全性も高いということです。最近いろいろ出ている健康食品などはもちろん有効成分としては効果がある可能性もあるのですが、やはり長い歴史に裏付けられたものではありませんから、長期間使用した場合の安全性・有効性についてはまだまだ不十分なところがあります。そういう意味では、漢方薬のほうがはるかにエビデンス(科学的根拠)はあると考えます。
大手医薬品メーカーの製品は、一部を除きそのほとんどが中国の古典に則った処方です。漢方薬の中身である生薬(しょうやく)の構成が大変重要で、その種類と比率(分量)が有効性・安全性に直結しますので、中国の古典に則って長い歴史によって検証された薬となっています。
ちなみに漢方薬を構成する生薬(しょうやく)というのは、天然の植物を中心に一部は鉱物・動物性のものがありますが、自然界に存在しているものを乾燥させるなど調整した昔ながらの原料のことです。
薬局で皆さんが買える市販の漢方薬は、我々が処方する医家向けの漢方薬と中身はほぼ同じです。ただし、有効成分の含有量は安全性を考えて半分以下に抑えられていることが多いのですが、最近では安全性が高い漢方薬については医家向けと同じ量を出しているメーカーもあります。
我々専門医の立場から言えば、医家向けと同じ内容のものが市販薬で出回ると副作用も出やすくなるので注意が必要だと思います。ですから、薬局で皆さんが購入される場合には、安全性については自己責任ということになってしまいます。漢方薬についても副作用、つまりその人に合う・合わないということがまったくないわけではありませんから、副作用が出た場合はすみやかに医療機関を受診していただかないと発見が遅れる場合もありえます。
西洋の薬はあるひとつの目標(ターゲット)があって、それに対して単独で作用することを得意としています。たとえば高血圧に対して血圧を下げる薬、糖尿病であれば血糖値を下げる薬があるということです。その一方で、複数の症状がある、あるいは複数の病気を抱えている場合にはその数に比例して薬が増えてしまうということになります。
最近は高齢化社会といわれますが、ご高齢の方はひとつの病気だけではなく複数の病気を持っていることがあります。漢方薬であれば複数の症状・病気に有効な薬もあります。ですから、軽症のうちであれば体質改善も含めて症状・病気をカバーし薬の数を減らせるという利点があるので、漢方薬が見直されています。
コレステロールが高い、血圧が高い、血糖値も高めでタンパクが出ているなど、ひとりの患者さんが抱えている症状・病気にもいろいろなものがありえます。漢方薬はそれらについて横断的に、複数のものを治せる可能性がありますので、医療経済の面でも貢献することができるのではないかと考えています。
【並木隆雄先生の著書】
千葉大学医学部附属病院 和漢診療科 科長(診療教授)
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