世界で最も悲惨な遺伝性・致死性・人獣共通感染症とされる、 “プリオン病''の克服をめざすための国際会議であるPRION 2016 TOKYOが、2016年5月10日〜13日に学術総合センター(東京)で開催されました。これまでこの国際会議は欧米でしか開催されたことがなく、欧米以外では初の開催です。PRION 2016 TOKYOの開会式・調印式とオープニングレセプションを写真で振り返りつつ、参加された先生方のレビューを掲載させていただきます。
シンポジウム初日には国立精神・神経医療研究センター理事長の水澤英洋先生による開催宣言に続き安倍晋三内閣総理大臣からのメッセージが紹介されました。また、プリオン病の病態解明と治療開発を進めるための研究をよりいっそう推進するための「国際協力の促進」として東京宣言が採択されました。
プリオン病は、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob病(以下CJD))を始めとして、多くの動物にも見られる人獣共通感染症です。CJDは、発症すると急速進行性の認知症を呈し、数ヶ月〜1年くらいで100%死に至る致死性難病で遺伝性の病型もあります。その原因は正常なプリオン蛋白が感染性を有する異常プリオン蛋白すなわちプリオンに変換して神経細胞を障害するとされています。このプリオン蛋白の異常化、感染性、特に経口感染などのメカニズムはまだ全く解明されていません。一方、最近の研究では、Aβ蛋白、タウ蛋白、αシヌクレインなどアルツハイマー病やパーキンソン病の原因蛋白も皆プリオンとしての特徴を有し、動物に感染しその脳内で自己増殖することが確認されています。この事実は、アルツハイマー病などの神経変性疾患が何時の日か感染力を持つ可能性を示しているとも言えます。
*日本神経内科学会HP 神経内科フォーラム http://neurology-forum.org/より引用
山田正仁先生にご監修いただいたメディカルノートのクロイツフェルト・ヤコブ病に関する記事はこちら。
ヒトの孤発性プリオン病であるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は、原因不明のプリオン病のことです。有効な治療法がなく、死に至る疾患です。ヒトのプリオン病の約8割を占めます。年間100万人に1人程度が発症し、発症率は全世界的にほぼ一定であり、地域分布に差はありません。平成25年度末の難病登録者数は487名であり、日本のサーベイランス(病気の発生状況の調査・集計)では、毎年77~154名の発病が確認されていますす。多くは50歳以上で発症し、60歳代~70歳代に多い傾向がありますが、80歳以上で発症することもあります。孤発性CJDは、患者さんの血縁関係にあたるヒトに感染したという家族歴がなく、プリオン病の原因となるプリオン蛋白遺伝子に変異もありません。
獲得性プリオン病は、プリオン病に感染しているヒトから他のヒトへ感染したり、人獣共通感染症としてプリオン病の動物からヒトへの感染によって二次的に起こるプリオン病です。何らかの理由により、外部から異常プリオン蛋白が体内に持ち込まれることで感染が成立し、発症します。獲得性プリオン病には医原性プリオン病や変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、クールー病などが含まれます。
獲得性プリオン病はプリオン病の中では数%と比較的稀なものです。現在のところ、発症前の検査方法はありません。症状が出現した後に、脳脊髄液検査や脳波検査、画像検査などで診断します。治療では、精神症状を示す初期の段階で診断する方法を見つけることや異常プリオン蛋を減少させるワクチンのようなものを開発するなどの研究が現在進行中ですが、今のところ有効な治療法がないのが現状です。
中央が国立精神・神経医療研究センター病院長の水澤英洋理事長
世界の神経内科医学をリードする先生方
私のPRIONに関する大きな想い出が2つあります。一つは20年以上前に遡りますが当時、私が主催しておりました横浜市大神経内科の関連病院だった静岡県のある病院で、医局員がたくさんのCJD患者(E200K変異)を診たことです。もう一つは日本で狂牛病の1頭目が出た年に、厚労省からの派遣でEdinburgh大学のCJD Centerを山田先生(写真右)、北本先生、村井先生たちと一緒に見学して、vCJDの勉強ができたことでした。その時、vCJDの脳波記録を見せていただいたナイト先生と今回の東京の学会で再会できたことはとても嬉しいことでした。PRION2016東京を大成功に導いた水澤英洋会長に心より感謝致します。また、2017年8月30日〜9月2日、名古屋で会長として国際自律神経学会(ISAN2017)を開催致します。この記事をご覧の皆様方、ご指導とご支援を宜しくお願い申しあげます。
PRION 2016では、ヒトのCJDはもちろん、動物のプリオン病であるBSEやCWDなどを含むプリオン及びプリオン病の最新情報から、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患でみられるプリオン様の伝播まで、幅広い領域についてホットな討論を行うことができました。プリオン病の克服をめざした研究は、アルツハイマー病などの類縁疾患の克服にもつながっており、これを契機に研究が一段と進展することが期待されます。
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 理事長特任補佐
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