インタビュー

国立精神・神経医療研究センターの特色とは?水澤英洋先生が語るセンターへの思い

国立精神・神経医療研究センターの特色とは?水澤英洋先生が語るセンターへの思い
水澤 英洋 先生

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 理事長特任補佐

水澤 英洋 先生

この記事の最終更新は2016年11月10日です。

国立精神・神経医療研究センターは、研究所と病院のふたつを併せ持つ国立研究開発法人です。2016年度より理事長にご就任された水澤英洋先生に、国立精神・神経医療研究センターの歴史や特徴をお話しいただきます。また、現代に求められる「脳とこころの健康大国」についても、これから日本がどうすれば健康を維持していけるのか、水澤先生の研究内容を交えてご解説いただきました。

国立精神・神経医療研究センターの前身は、1940年設立の傷痍軍人の療養所でした。

戦争体験でPTSD心的外傷後ストレス障害)を発症した軍人の方などを収容し、精神疾患の患者さんのための療養所として歩み始めたのです。1945年、この療養所は厚生省(当時)に移管し、一般の方も入所可能な国立武蔵療養所として再出発します。

その後、神経センターが国立武蔵療養所の一機構として発足したことにより、神経内科学や精神医学の研究部門が立ち上がりました。

当時、神経センターでは筋肉の研究が進んでおり、筋ジストロフィーの発症機序の解明について、数々の重要な発見がなされてきました。

1986年、神経センターを有する国立武蔵療養所と、国立精神衛生研究所を有する国立国府台病院が統合され、国立精神・神経センターとなり、病院、神経研究所、精神保健研究所の3施設から構成されることになりました(国立国府台病院は2008年に国立国際医療研究センターに移管された)。

これは神経疾患と精神疾患を対象として研究と診療を行うまさに「脳とこころ」のために設立された研究開発センターということができます。その後、2010年に独立行政法人化し国立精神・神経医療研究センターとなり、さらに2015年からは国立研究開発法人と発展を続け、2016年はちょうどその30周年に当たります。

国立精神・神経医療研究センターは病院・神経研究所・精神保健研究所以外の施設として、2010年にトランスレーショナル・メディカルセンターを設置しました。

このセンターを設置した最大の目的は、病院と研究所が連携して治験など橋渡し研究を推進することです。

その後、2011年には脳病態の解明・治療・診断技術の開発を目的とした「脳病態統合イメージングセンター」および、認知行動療法の専門家育成を目的とした「認知行動療法センター」を稼働させます。

さらに2015年には、ゲノム情報の臨床への応用を推進し、バイオリソースを充実して活用を推進する「メディカル・ゲノムセンター」を立ち上げ、全センター一丸となって研究基盤・研究開発に必要となる組織整備を整えています。

このように国立精神・神経医療研究センターには、研究所と病院を同敷地内に併設するだけではなく、4つのセンター内センターを構築することにより、全体として密接な連携を取り合い、最新の研究をそのまますぐに診療で活かせる仕組みが整っています。

精神・神経・筋・発達障害の4つの領域を一手に担い、同じ施設で協働するセンターは、世界広しといえどもこの国立精神・神経医療研究センター以外にはありません。

国立精神・神経医療研究センター病院の運営病床数は約486床であり、124名の医師を含む約750名のスタッフが在籍します。

国立精神・神経医療研究センターはその名の通り、精神・神経疾患に特化した専門施設であり、総合病院・総合研究施設ではありません。これはメリットでもデメリットでもあります。

たとえば、患者さんが国立精神・神経医療研究センターの中で心筋梗塞を発症したとき、循環器の専門医もいるので通常の診療は十分行いますが、高度な治療については連携する近くの施設で行います。一方、神経・精神疾患であれば最先端の治療を受けることが可能です。

また、国立精神・神経医療研究センターでは発達障害や小児神経疾患も取り扱っており、重症心身障害児を受け入れています。

国内トップレベルの専門特化型の研究・臨床施設

神経研究所はこの小平キャンパスではもっとも古くからある研究施設です。

原因・治療法が不明とされる様々な精神疾患・神経疾患・筋疾患及び発達障害を対象に、診断法や治療法、予防法を開発するための生物学的な研究を行っています。国内外を問わず多彩な分野の研究員が集い、重要な発見がすぐに実医療へつないでいけるような取り組みがなされています。

<神経研究所が研究している主な疾病>

・筋疾患、末梢神経疾患

・発達障害:自閉症、学習障害、注意欠陥・多動症障害など

統合失調症うつ病

・神経変性疾患:パーキンソン病脊髄小脳変性症筋萎縮性側索硬化症など

認知症前頭側頭型認知症レビー小体型認知症プリオン病、アルツハイマー病など

多発性硬化症視神経脊髄炎

など

精神保健研究所は、国立国府台病院に1952年に設立された国立精神衛生研究所をルーツとしており、精神疾患・発達障害の病因・病態解明を第一目標に置き、心理・社会・生物学的な視点から研究を行っています。

国立精神・神経医療研究センター病院をはじめ、全国の医療機関や行政機関と連携しているのも精神保健研究所の特徴です。

研究を通じて人と社会への貢献を実現すべく、研究から災害時医療支援、専門研修、一般向け講演、人材育成などを幅広く精力的に行っています。

精神疾患も神経疾患も脳の病気であることに変わりはありません。

ですから、両者がしっかりとコミュニケーションをとって協力体制を築くことが大切であると考えています。病院が患者さんにとってベストの診療をするためには、双方の協力が必要不可欠です。

たとえば、てんかんをきちんと治療できる施設はいまだに少ないといわれています。治療しているとしても、本当に必要な診療が十分できていないこともあります。

てんかんは、分類的には神経疾患ですが、精神症状を伴うこともあります。またてんかんを代表にして小児発達障害を幅広くみていくと、精神障害のファクターと器質的なファクターの両方がみられます。このような疾患をしっかりと治療するためには、脳神経内科と精神科の連携・協力体制が重要になります。

なお、精神疾患の定義は「器質的変化はないが精神症状がみられる」ことであり、神経疾患は「脳細胞の死滅など器質的変化がみられる」状態です。

上記に述べたように、発達障害の場合はこの両方が関わっていることが多いと思われます。だからこそ両者の専門家が協力する必要があるのです。

トランスレーショナル・メディカルセンターの役割は、両研究所などで得た最先端の研究成果を臨床につなげ、臨床で生じた課題や疑問を研究に還元することです。同時に、臨床研究に携わる人材の育成にも取り組みます。

<トランスレーショナル・メディカルセンターの活動>

・臨床試験の推進

・臨床研究環境整備

・人材育成

メディカル・ゲノムセンターは、臨床ゲノム解析部門・ゲノム診療開発部門・バイオリソース部門の3部で構成されます。病院、研究所、トランスレーショナル・メディカルセンターと連携しながら事業を進めていきます。

脳病態統合イメージングセンターは臨床画像研究に特化した研究組織です。

脳のMRI画像やPETなど、複数の脳イメージング技術を組み合わせることで、精神・神経・筋疾患や発達障害における脳の機能と構造を見出し、精神・神経・筋疾患や発達障害の病態の解明を目指します。

認知行動療法の研究および研修を行い、専門家を育成するためのセンターです。また、認知行動療法の専門家がより社会で活躍できるように支援を行っています。

日本初の「認知行動療法」専門研修・研究センター

「21世紀は脳とこころの時代」といわれ、かつ現在の国家目標の1つが「脳とこころの健康大国」であるとおり、社会の活性化には脳とこころの健康維持が必要なのです。

私はかつて、文部科学省にて脳科学研究戦略推進プログラム(脳プロ)の課題Eの拠点長を務めました。ここでのテーマは「生涯健康脳」つまり生涯健康な脳を維持するための体系的な研究です。

大人になったときの健康を考えたとき、子どもの頃の健康は非常に重要な要素といえます。そのため、「健康」は時間軸に沿ってみていく必要があります。

同プログラムは、①胎児期・小児期・思春期といった脳が発生・発達する段階、②青年期以降から壮年期といったストレス負荷がかかることの多い段階、③脳機能が低下していく老年期といったように、時間軸で脳の健康を捉えます。これにより、他の時期に与える影響や関連を解明することが可能となります。

実際、幼少期に育った環境が不適切であった場合、大人になってから精神障害を発症しやすいことがわかっています。

現代社会人は夜型傾向にあり、また「ストレス社会」と呼ばれるように、健康維持にとってよい環境とはいえません。その中でまさに生涯健康脳を維持するにはどうすればよいかを研究・解明するのが、国立精神・神経医療研究センターの役割の一つです。

時間軸で健康を考えれば、長い時間をかけて発症する疾患を予防することができます。生涯の健康のために、このことを知っておいていただきたいと思います。

好奇心とは「今は見えない・分からないものを見てみたい・分かりたい」という気持ちです。もしもすでに見えているのであれば、見たいという欲求は起こりません。現在隠れているものだからこそ見たいと感じるのです。

そのような「見てみたい」もの、すなわち克服すべき精神・神経疾患がある限りは、その研究を続けたいと考えています。また、研究で判明したことは臨床にすぐにつなげ、一日も早く患者さんに届ける必要があります。

国立精神・神経医療研究センターは「世界で唯一、同一施設内にて精神疾患と神経疾患の研究と臨床を行っている」施設です。この特色を誇りとして、私たちはいち早く患者さんに精神・神経・筋疾患や発達障害の先端医療を届けていきたいと考えています。

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