概要
視神経脊髄炎は、視神経と脊髄および大脳に脱髄*病巣が生じることで視力低下や感覚異常などを繰り返す病気で、指定難病の1つに定められています。
免疫の異常によって自分の体の組織が攻撃される自己免疫疾患の1つで、アクアポリン4というタンパク質に反応する自己抗体**(抗アクアポリン4抗体)によって、脳・脊髄・視神経が攻撃されて発症すると考えられています。発症は子どもから高齢者まで幅広く、特に女性に多いことが分かっています。2017年の第5回多発性硬化症・視神経脊髄炎全国臨床疫学調査によると、有病率は10万人あたり5.4人、発症年齢の中央値は44歳で、86.7%が女性でした。
視神経脊髄炎では、ダメージが生じた部位に応じてさまざまな神経症状が現れます。最近では、再発を予防するための治療に複数の生物学的製剤が使用できるようになり、徐々に普及が進んでいます。
*脱髄:神経線維を覆うミエリン(髄鞘、ずいしょう)が何らかの原因によって変性・脱落すること。
**自己抗体:抗体は通常、体内に侵入した病原菌などを攻撃するが、何らかの原因によって自分の組織に反応する抗体(自己抗体)が作られることがある。自己抗体は組織の損傷や炎症を引き起こすことがある。
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原因
脳や脊髄では複雑な神経活動が活発に行われており、情報伝達には神経線維を伝わる電気信号が重要な役割を担っています。電気信号をより効果的かつ素早く伝えるために、神経線維はミエリン(髄鞘)と呼ばれる構造物で覆われています。
しかし、何かしらの原因をきっかけにミエリンが変性・脱落すると(脱髄)、電気信号を伝える情報伝達経路に障害が生じます。視神経脊髄炎では、視神経や脊髄、大脳を中心に脱髄病巣が生じ、脱髄部位に関連した症状が誘発されます。
視神経脊髄炎では、抗アクアポリン4抗体という自己抗体が産生されることでダメージが生じると考えられています。視神経脊髄炎は、同じく脱髄を繰り返す“多発性硬化症”という病気の一亜型であると考えられていましたが、視神経脊髄炎の患者に多くに抗アクアポリン4抗が確認されたことによって、多発性硬化症とは別の病気であると区別されるようになりました。
しかし、なぜ免疫機構が自分自身(アクアポリン4)に対する抗体を産生するのかなどを含めて、詳しいメカニズムは解明されていません。
症状
視神経が障害された場合は、視力低下や視覚障害が現れることが多く、重い場合には失明することもあります。脊髄に障害が及んだ場合は、手足の麻痺、胸や腹部などのしびれや痛み、感覚低下、排尿障害などを認めることもあります。
また、視神経脊髄炎では、視神経や脊髄以外にも炎症が及ぶことがあります。脳幹部が障害された場合は難治性のしゃっくり、吐き気、片麻痺をはじめ、呼吸循環機能など生命維持に欠かせない機能に障害が及ぶこともあります。大脳に炎症が及ぶと、認知機能の低下など高次脳機能の障害が現れることもあります。
なお、視神経脊髄炎はさまざまな神経症状の再発を繰り返す点が特徴ですが、重症の場合には一度の発作で失明や麻痺など重篤な後遺症を残すこともあります。また、再発するたびに障害の度合いが蓄積して重篤な障害を招きやすいといわれています。
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検査・診断
視神経脊髄炎が疑われるときは、MRI検査や血液検査、脳脊髄液検査などを行います。
MRI検査
脳や脊髄を対象にMRI検査を行って障害部位を特定します。
髄液検査
髄液中の細胞やタンパク質の増加を確認するため髄液検査を行います。多発性硬化症では、髄液内で産生されるIgGという抗体のうち特定のクローンが著しく増加する現象(オリゴクローナルバンド)がみられますが、視神経脊髄炎ではみられないことが多いため、こうした違いを参考にしながら診断を進めます。
血液検査
視神経脊髄炎患者の多くで抗アクアポリン4抗体が確認されるため、この病気が疑われれば血液検査を行ってこの抗体の有無を確認します。
これらの検査のほか、神経系の機能を評価するために、視覚誘発電位*や体性感覚誘発電位**などを測定することもあります。
*視覚誘発電位:電極を頭につけながら白黒点滅するモニターを見て、視神経から大脳皮質視覚野までの電気信号の伝達に異常がないかを調べる検査。
**体性感覚誘発電位:末梢感覚神経―脊髄―大脳皮質のどこが障害されているのか確認するために、手首や足首の神経に微弱な電流を与えて感覚神経の反応を調べる検査。
治療
視神経脊髄炎の症状が急速に悪化した際は、短期間のうちに副腎皮質ステロイドを大量に投与して自己免疫を抑える“ステロイドパルス治療”を行います。期待した治療効果が得られない場合は、血液中に存在する免疫物質(抗アクアポリン4抗体など)を取り除く“血液浄化療法”や、免疫グロブリン製剤を点滴投与する“免疫グロブリン大量静注療法(IVIG療法)”を行うこともあります。
視神経脊髄炎は症状の再発時に高度の障害を起こすことがあるため、再発予防治療は大切です。これまではステロイドや免疫抑制薬による治療が一般的でしたが、ステロイドの副作用や感染症の併発が課題でした。最近では、補体C5 、IL-6 受容体、B細胞を標的とする生物学的製剤の再発予防効果が臨床研究で確認され、エクリズマブやサトラリズマブ、イネビリズマブなどの薬剤5種類が国内で保険承認されて徐々に普及しています(2024年4月現在)。再発の不安からの解放や、医療の標準化を目指す中で、生物学的製剤の役割は重要性を増しています。
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