インタビュー

“目が急に見えなくなる”視神経疾患、特に視神経炎の特徴について

“目が急に見えなくなる”視神経疾患、特に視神経炎の特徴について
石川 均 先生

北里大学医療衛生学部視覚機能療法学専攻 教授

石川 均 先生

目次
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私たちが目で見た情報(視覚情報)は、“視神経”という神経を通じて脳に渡り、脳の中で複雑な処理をされてから“視覚”として認識されます。この視神経が何らかの形で障害される病気を総称して“視神経疾患”と呼び、難病のひとつである“視神経脊髄炎”も視神経疾患の一種です。今回は視神経疾患の概要から症状、眼科で行う検査、そして視神経疾患の中でも特に重篤な視力低下を起こすといわれる抗AQP4抗体陽性視神経炎(視神経脊髄炎)を中心に、難治性視神経炎の政策研究事業にも携わった、北里大学医療衛生学部視覚機能療法学 教授の石川(いしかわ) (ひとし)先生にお話しいただきました。

視神経は、目で“見た”情報を脳に運ぶ、電線のような役割を果たす神経です。視神経疾患は、この視神経が何らかの原因で障害される病気の総称で、その中には特定の抗体を持つことで起こる視神経炎(抗AQP4抗体陽性視神経炎、抗MOG抗体陽性視神経炎)や多発性硬化症自己免疫疾患など、さまざまな原因疾患が含まれています。

視神経の分類

視神経疾患は “視神経炎”と“視神経症”に大きく区別され、さらに視神経炎は“狭義の視神経炎”と“広義の視神経炎”に分けられます。

前者は多発性硬化症や抗アクアポリン4抗体(以下、抗AQP4抗体)陽性視神経炎などの脱髄疾患(神経の周りにある髄鞘が損傷される病気)を原因とした視神経炎です。なお、抗AQP4抗体は視神経炎のみならず、視神経脊髄炎の発症に関わる物質でもあるため、抗AQP4抗体陽性視神経炎の場合は視神経脊髄炎という病気によって視神経炎が生じていると考えられます。後者は、全身性エリテマトーデスシェーグレン症候群などの自己免疫疾患や感染を原因とした視神経炎です。

“視神経症”には、視神経に血液を送る血管が障害されて起こる虚血性視神経症、腫瘍などによって視神経が圧迫されることで起こる圧迫性視神経症、交通事故などで視神経が傷つくことによる外傷性視神経症、薬物・化学物資による中毒性視神経症、遺伝的な原因によって起こる遺伝性視神経症などが挙げられます。

そのほか、視神経疾患の鑑別疾患として視神経形態異常やうっ血乳頭、眼窩先端部症候群、ぶどう膜炎サルコイドーシスなどが挙げられます。

このように、一口に“視神経疾患”といってもその中には非常に多くの病気が包含されているのです。

視神経疾患の原因として多いものは何か

過去10年間で北里大学病院眼科に入院した患者さんを対象に行った調査では、視神経疾患のおよそ40%は特発性(原因不明の視神経炎)でした。また、全体のおよそ25%は虚血性視神経症、およそ12%は抗AQP4抗体陽性視神経炎(視神経脊髄炎)や多発性硬化症などの脱髄性視神経炎となりました。

この結果から、視神経疾患の原因としては“特発性視神経炎”“虚血性視神経症”“脱髄性視神経炎”の3つで全体の75%以上を占めており、原因が特定できない視神経疾患も40%近く存在するということが推察できます。

視神経疾患の症状のひとつは視力低下です。視神経疾患では主に中心暗点といって視界の真ん中が見えにくくなるという特徴があります。ただし、視力低下は視神経疾患以外の病気や別の要因によっても生じますし、視神経疾患に類似した特徴を示す病気も複数存在するため、診断では他疾患との鑑別が重要になります。

視神経炎は神経に炎症が起こっているため、眼球を動かしたときに痛み(眼球運動時痛)が生じます。これに対して虚血性視神経症をはじめとした炎症を伴わない視神経症では、視神経炎のような目の痛みは出てこないことが特徴です。そのため、臨床的に検査をする前であれば、痛みの有無は視神経症か視神経炎かを判別する指標のひとつになります。

視神経疾患のうち、視神経炎は、比較的緩やかに症状が現れるものから急速な症状が現れるものまでさまざまです。たとえば、特発性視神経炎と、抗AQP4抗体陽性視神経炎では症状の強さや経過が大きく異なる傾向があります。

以下に、私が過去に診療を行った特発性視神経炎と抗AQP4抗体陽性視神経炎の患者さんについて、それぞれの経過を紹介します。

事例1 特発性視神経炎

右目の視力低下および目の痛み、中心暗点(真ん中部分が見えない)などの症状が見られた30歳代女性が、近医の紹介を受けて北里大学病院を受診しました。種々の検査後、特発性視神経炎と診断され、初診時の右目の視力は0.2でした。この女性はステロイドによる治療を希望されなかったため、経過観察を続けました。すると、特別な治療なしで、2か月ほどかけて徐々に視力が戻ってきて、特別な後遺症もなく回復しました。

事例2 抗AQP4抗体陽性視神経炎

ある日突然両目が見えなくなり、5日後には光覚消失(光が感知できなくなった状態)した80歳代女性がかかりつけ医の紹介で北里大学病院を受診しました。

血液検査の結果、抗APQ4抗体が陽性であり、MRIでも視神経脊髄炎に特有の所見が確認されたことなどから視神経脊髄炎と診断されました。

診断確定後はステロイドパルス療法や血漿交換療法、免疫グロブリン大量静注療法などの急性期治療を行いましたが、視力回復は得られませんでした。

このように視神経脊髄炎による視神経炎の場合は、治療開始前から激烈に視力低下を起こすケースが多いという特徴があります。

視神経疾患を疑う場合、眼科では問診、視力検査、瞳孔反応異常を調べる検査、視野異常を確認する検査などを行います。検査では、瞳孔反応異常(ペンライトで瞳孔に光を当てると対光反射に障害が見られる)、眼底異常(視神経の乳頭に浮腫が見られる)、限界フリッカ値(すばやく点滅する光のちらつきの判別しにくさを示す値)の低下・色覚異常などを確認します。MRI検査や採血による抗AQP4抗体の検査もほぼ必須に行われます。

突然目が見えづらくなったとき、その原因は視神経疾患である可能性もあれば、ほかの病気である可能性もあります。まずは原因を特定するため、近隣の眼科を受診してスクリーニングを行いましょう。

また、すでに視神経疾患と診断されており、症状が再発して目が見えなくなったり痛くなったりした場合は、すぐに主治医に相談してください。

2015年から2017年にかけて、私たちの研究グループでは、全国の施設から採集した視神経炎の患者さんの血液を“抗AQP4抗体陽性視神経炎”“抗MOG抗体陽性視神経炎”“両抗体陰性群(D negative)”の3つに分類し、血液分析および臨床データ解析を行いました。

本項では、その調査結果をもとに、抗AQP4抗体陽性視神経炎とその他の視神経炎では症状や予後にどのような差が見られるかについて解説します。

治療前から視力が低い

LP:Light Perception=光覚弁

HM:Hand Movement=手動弁

CF:Count Finger=指数弁

初診時、すなわち治療前の患者さんの視力は、抗AQP4抗体陽性視神経炎では光覚弁(LP)*、手動弁(HM)**、指数弁(CF)***である方の割合が合計50%以上でした。このことから、抗MOG抗体陽性や両抗体陰性の視神経炎に比べて、視力が悪い方の割合が多いことが分かります。つまり、抗AQP4抗体陽性視神経炎は、治療前の段階から大きく視力が低下している傾向があるということになります。

*光覚弁(明暗弁):暗室にて眼前で照明を点滅させ明暗を弁別できる視力

**手動弁:検者の手掌を眼前で上下左右に動かし動きの方向を弁別できる視力

***指数弁:検者の指の数を答えさせ、それを正答できる最長距離を測定する視力(50cmの距離で正答できれば50cm/指数弁=0.01)

視野異常の現れ方も、抗AQP4抗体陽性視神経炎とほかの視神経炎では違いが見られます。

視神経疾患では、一般的に中心暗点の形で視野異常が現れます。一方、抗AQP4抗体陽性視神経炎では中心暗点だけではなく、水平半盲(上半分または下半分が見えない)や両耳側半盲(両眼視野の外側が見えない)など多様な形で視野異常が起こります。

このため、抗AQP4抗体陽性視神経炎は抗MOG抗体陽性視神経炎やその他の視神経疾患に比べて、中心暗点の割合が少なくなっています。

AQP4

全欠損:暗黒(検査不能)真っ暗

中心暗点:視野中心における視機能障害

耳側半盲:視野の外側半分の全部または一部の欠損

水平半盲:視野の上半分または下半分の全部または一部の欠損

鼻側半盲:両眼視野の内側半分の全部または一部の欠損

抗AQP4抗体陽性視神経炎の急性期の標準的治療は、まずステロイドパルス療法を行い、何度かステロイドを投与しても効果がなければ血漿交換療法や免疫グロブリン大量静注療法を実施するという流れです。この治療によってある程度視力が戻ったら、経口ステロイド薬や免疫抑制剤などを引き続き経口投与して再発予防の治療を行います。

抗AQP4抗体陽性視神経炎の患者さんに対して治療を行った後、40%以上は視力が0.7以上まで回復しました。しかし、指数弁や手動弁以下である割合も合計20%以上と、ほかの視神経炎に比べて高くなりました。治療を行ったにもかかわらず視力が十分に回復しないケースも比較的多いことが分かります。

治療後視力

抗AQP4抗体陽性視神経炎では、ほかの視神経炎に比べて視神経の病変が長いことが特徴です。また、抗AQP4抗体陽性視神経炎は基本的に視神経脊髄炎に合併するため、視神経脊髄炎の症状として視神経のみならず、大脳や脳幹、脊髄にも病変が生じることがあります。

視神経脊髄炎によって起こる抗AQP4抗体陽性視神経炎は、再発予防の治療をしなければ高頻度に再発します。そのため、急性期の治療を経て視力がある程度まで回復した後は、常に視神経炎が再発してくる可能性を考えなければなりません。視神経はもともと100万本ほどの神経線維からなり、年齢とともにその数も自然に減っていきますが、視神経炎でも神経線維層の厚みの減少が確認できます。再発の回数を重ねるたびに神経線維層は薄くなり、1回の再発で失明してしまうこともあります。だからこそ、再び発作が起こることを防ぎ視力を維持するためには再発予防の治療を行うことが極めて重要です。そのため私は患者さんに対し、治療後視力が回復した場合でも、必ず視神経脊髄炎の再発予防の薬を飲み続けていただくように外来でお伝えしています。

治療の課題として、大変重要で大きな問題となるのはステロイドを服用することによる副作用が挙げられます。

ステロイドは適切な管理のもと処方すれば安全な薬ではありますが、基礎疾患、薬の量、使用期間によっては生命の危機を生ずる重篤な副作用が生じることがあります。身近なことでは、ステロイドの服用で顔が丸く膨らむことがあります。抗AQP4抗体陽性視神経炎は女性に多い病気であり、長期的にステロイドを使うことに対して、患者さんの中にはコスメティック(美容的)な点を気にされる方が少なくありません。そして残念なことに、その副作用が嫌だからと服薬を自己中断され、視神経脊髄炎の症状を再発される方もいらっしゃいます。薬の服用をやめると再発リスクが高くなりますから、できる限り患者さんには服薬を続けていただかなくてはいけません。また副作用を極力減少するためアザチオプリンなどの免疫抑制剤を併用した治療を行い、注意しています。

また、現在はステロイドパルス療法が無効または効果不十分な患者さんに対しては、免疫グロブリンを用いた治療が保険下で実施できるようになりました。ステロイドによる治療が不安な患者さんに対しても、複数のタイプの薬を適宜使い分けながら治療を行うことで、副作用を抑えつつ症状の改善を目指せると考えています。

また、視神経炎の中で特に多発性硬化症では、体温の上昇に伴い症状が強く出ることがあります(ウトフ徴候)。症状の増悪を避けるためには、熱い湯船での入浴やサウナを控えていただくなどの工夫も必要です。

どの程度視力が低下したかによって具体的な補助の仕方は異なります。

それほど視力が低下していない方、もしくは治療で一定の視力改善が得られた方は、偏光メガネやルーペ、応答機能付きコンピュータなどの視覚補助具を活用したり、白杖を使ったり、福祉制度を利用したりしながら、少しずつ社会復帰を目指します。退院して日常生活に戻る際には、ソーシャルワーカーの助言をもらいながら、ご自身にとってどのような工夫が必要であるかを考えていきましょう。

一方で、重篤な視神経炎で両目とも光が認識できないほど見えなくなってしまった場合、QOL(生活の質)をまったく落とさずに生活することは難しいでしょう。その場合は、周囲のサポートが必要不可欠となります。もちろん、身体障害者手帳を取得して等級に応じた公的補助を得ることもできますが、一つひとつの日常生活動作において誰かの助けを得る必要があります。そのため、一人で抱え込まずに、信頼できる方に身の回りのサポートをお願いしましょう。そういった相手がいない場合は自立支援施設に入所するのもひとつの方法です。

重度の視力低下を生じた視神経疾患や視神経脊髄炎の患者さんの中には、目が見えなくなることで精神的なダメージを大きく受けてしまう方もみられます。精神的に追い込まれすぎて、眼科だけでは患者さんを支えきれず、精神科への受診を提案するケースもあります。

眼科での治療だけでは限界があると判断される場合は、精神科に依頼してカウンセリングなどを受けていただき、心理的な側面からも患者さんをサポートしていきます。

視神経疾患を発症した全ての方が、完全に視力を失うわけではありません。視神経炎の中でも視力の戻りが悪い割合が多い抗AQP4抗体陽性視神経炎においても、視神経脊髄炎の治療薬が次々と開発されていることから、治療選択肢は増えてきているといえるでしょう。

現在、考えうるなかでの適切な治療を行い、それによってある程度視力が戻ってきたら再発予防の治療を継続して、再び発作が起きないように病気をコントロールすることが大切です。医師と一緒に治療戦略を立てて、ご自身の目を守りましょう。

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