概要
視神経炎とは、目に入った物の情報を脳に伝える視神経に炎症が生じる病気です。発症すると視力の低下、視野の欠け、色が正しく認識できなくなるなど物の見え方に異常が現れるほか、目を動かしたときに痛みが生じることもあります。片目のみに発症するケースもあれば、両目に発症するケースもみられます。
視神経炎の原因は多岐にわたり、多発性硬化症や視神経脊髄炎などの自己免疫疾患(免疫の異常によって引き起こされる病気)や感染症などが挙げられますが、はっきりした原因が分からないこともあります。
治療では、通常まず炎症を抑える作用があるステロイドを投与します。期待した治療効果が得られない場合は、病気の原因となる物質を血液中から取り除く血液浄化療法や、免疫グロブリン製剤*を投与する免疫グロブリン大量静注療法(IVIG療法)を行うこともあります。また、再発や進行しやすい多発性硬化症、ステロイドが効きづらい視神経脊髄炎では、再発予防のために免疫を抑える作用のある免疫抑制薬や生物学的製剤が用いられます。
視神経炎は適切な治療を行うことで、1~2か月程度で回復し始めることが多いとされています。治療が遅れると視力低下などの後遺症を残すことがあるため、気になる症状がある場合はできるだけ早めに医師の診察を受けることが大切です。
*免疫グロブリン製剤:血液の中に存在する免疫グロブリン、または抗体と呼ばれるタンパク質を薬にしたもの。抗体は免疫に関与しており、病原体などの異物を体から排除するはたらきを持つ。
原因
視神経に炎症が生じることで発症します。ほかの病気に合併して視神経炎が起こることもあります。しかし、はっきりした原因が特定できないケースも少なくありません。
視神経炎を引き起こす代表的な病気は以下のとおりです。
多発性硬化症
自分自身の神経を攻撃する免疫の異常によって発症する自己免疫疾患の1つです。中枢神経(脳と脊髄*1)や視神経などに脱髄*2を繰り返し引き起こします。脱髄が起こると体の各部位に指令を出す神経伝導がうまくいかなくなり、視力障害、感覚障害、運動麻痺などさまざまな神経症状が現れます。このため、視神経が障害されたり、目を動かす神経に麻痺が起こったりします。
視神経脊髄炎
免疫の異常によって体の組織が攻撃される自己免疫疾患の1つで、主に脊髄と視神経に強い炎症が起こる病気です。アクアポリン4という水チャネル*3に反応する自己抗体*4(アクアポリン4抗体)によって、脳・脊髄・視神経の表面に存在する水チャネルが攻撃されて発症すると考えられています。
MOG抗体関連疾患
ミエリン(髄鞘)の構成成分(MOG:ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク)に対する自己抗体*4によって脱髄*2が生じる病気です。中枢神経に生じる脱髄によって、視神経炎や脊髄炎をはじめ、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)や脳幹脳炎などさまざまな症状を引き起こします。
感染症
結核や梅毒、HIVなどの感染症や、脳炎、髄膜炎、副鼻腔炎など感染症による炎症が視神経に広がって視神経炎を引き起こします。
*1脊髄:脳から背骨(脊椎)の中にある太い神経の束。脳からの指令を体に伝えたり、体からの感覚を脳に送ったりする。
*2脱髄:炎症によって神経を覆っているミエリンが壊れて中の神経がむき出しになり、情報を伝えるのが遅くなったり止まったりすること。
*3水チャネル:体の細胞膜上に存在し、細胞内外の水分子のみを通過させる役割を持つ。アクアポリンとも呼ばれる。
*4自己抗体:抗体は通常、体内に侵入した病原菌などを攻撃するが、何らかの原因によって自分の組織に反応する抗体(自己抗体)が作られることがある。自己抗体は組織の損傷や炎症を引き起こすことがある。
症状
視神経炎は、目に入った情報を脳に伝える視神経にダメージが生じるため、発症すると物の見え方に異常が現れます。具体的には、発症から数日で急激な視力の低下が生じるほか、視野の真ん中など一部が見えなくなる“視野欠損”や“暗点”、赤・緑など特定の色が褪せて見えるようになる“色覚異常”を伴うことがあります。また、目を動かすと目の奥に痛みを感じることもあります。
視神経は左右の目に1本ずつあるため、原因によって片方の目のみに発症するケースもあれば両方の目に発症するケースもあります。症状の程度は重症度によって異なり、重症の場合は失明に至るケースも報告されています。
検査・診断
視神経炎が疑われる場合は、視力検査や視野検査、色覚検査などを行い、物の見え方に異常がないか、異常がある場合はその程度を確認します。また、視神経の状態を確認するために以下の検査を行います。
- 眼底検査:視神経の腫れの有無などを確認します。
- 中心フリッカー値測定検査:ほかに視力低下を起こす眼科疾患との鑑別を行い、視神経炎の重症度を評価します。
- 光干渉断層計検査:視神経の厚さを測定します。視神経脊髄炎や多発性硬化症などによって視神経へダメージがあると視神経が薄くなります。
また、視神経炎の原因は多岐にわたるため、原因を特定するために以下の検査を行うこともあります。
- 血液検査:視神経を攻撃する抗体や感染症の有無を調べます。
- MRIなどの画像検査:視神経やその周囲に何らかの病変がないかを調べます。
- 髄液検査:腰に針を刺して採取した脳脊髄液を調べます。
治療
視神経炎の治療では、視神経の炎症と過剰に働いている免疫を抑えるためにステロイドを大量に投与する“ステロイドパルス療法”を行います。多くはステロイドパルス療法を行うことで症状が改善しますが、十分な効果がみられない場合は、視神経を攻撃する抗体や炎症を引き起こす物質を血液中から取り除く“血液浄化療法”を行ったり、免疫の働きを調節する“免疫グロブリン製剤”という薬剤を投与したりします。
また、多発性硬化症や視神経脊髄炎などの病気が原因となっている場合はそれぞれに合わせた治療を行います。多発性硬化症や視神経脊髄炎は再発や寛解(回復)を繰り返すため、症状が落ち着いた後も再発を防ぐための治療を継続します。多発性硬化症の再発・進行を予防する治療としては、自己注射薬のインターフェロンベータやグラチラマー酢酸塩、オファツムマブ、点滴薬のナタリズマブ、飲み薬のフィンゴリモドなどの免疫抑制薬や生物学的製剤が用いられます。また、視神経脊髄炎の再発予防としては、エクリズマブ、サトラリズマブ、イネビリズマブ、リツキシマブ、ラブリズマブといった生物学的製剤が使用可能となりました。
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