概要
急性散在性脳脊髄炎とは、脳や脊髄の白質において広範囲に障害が生じる病気です。ウイルス感染症罹患後やワクチン接種後に、自分自身の体がもつ免疫反応に異常を来すことから発症すると考えられています。
急性散在性脳脊髄炎では、発熱、頭痛、意識障害、手足を動かしにくい、目が見えにくいなどの症状を生じます。まれな疾患ではありますが、ときに亡くなることもある重篤な病気です。自己免疫の異常活性が原因となるため、ステロイドを代表とする薬剤を用いた免疫機能のコントロールを行います。
原因
中枢神経を構成する脳や脊髄には、白質と呼ばれる部位が存在します。白質には、神経細胞の情報伝達に重要な神経線維が集合しています。情報伝達は電気信号をもとにしてなされており、より効率的に行うには、神経線維の周りを覆う「髄鞘」と呼ばれる部位が重要となります。しかし、ワクチン接種やウイルス感染などをきっかけにして、自分自身の免疫細胞が誤って髄鞘を破壊することがあります。髄鞘が破壊されると電気活動が非効率的になり、さまざまな神経症状を呈するようになります。これが急性散在性脳脊髄炎です。
多くの場合、上気道などへのウイルス感染をきっかけとして発症します。具体的に原因となりうるウイルスとしては、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、EVウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスなどがあります。
また、ワクチン接種を原因として引き起こされることもあります。特に、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、日本脳炎ワクチン、オウ熱ワクチンとの関連性が指摘されています。しかしながら、ワクチン接種による急性散在性脳脊髄炎の発症リスクは1000万回に1〜3.5人程度と決して高くはありません。そのため、それを理由にしてワクチン接種をしないというのは避けるべきであるとされています。
症状
急性散在性脳脊髄炎は、感染症罹患やワクチン接種などから1〜2週間ほど経過して発症します。初発症状として発熱や頭痛、吐き気などを認めた後に、意識障害やけいれん、手足の動かしにくさ、目の見えにくさ、発語のしにくさ、ふらつきなどをみるようになります。脳や脊髄において広範囲に障害が及び、障害部位に応じてさまざまな症状をみることになります。急速に病状が増悪し、亡くなることもあります。
急性散在性脳脊髄炎と同じように髄鞘の破壊を来す代表疾患として、多発性硬化症があります。多発性硬化症では、時間をおいて何度も神経症状を繰り返すことになりますが、急性散在性脳脊髄炎では基本的には単発で終了します。
検査・診断
急性散在性脳脊髄炎の診断は、髄液検査やMRIを中心としてなされます。
髄液検査
中枢神経において炎症が生じていることや髄鞘が破壊されていることを反映して、白血球(特にリンパ球)やIgG抗体、タンパク質(ミエリン塩基性タンパクなど)が増加します。オリゴクローナルIgGと呼ばれる特徴的なIgGの増加パターンを呈することもあります。
MRI
中枢神経における炎症を反映した所見をみます。
頭部CT検査、血液検査、脳波検査なども併用します。感染症が原因ではないことを確認するため、各種ウイルス抗体検査やPCRなども併用します。
治療
急性散在性脳脊髄炎は、自己免疫の異常を原因として発症する病気であると考えられています。そのため自己免疫の暴走を抑えることを目的として、ステロイドパルスなどの治療方法が選択されます。ステロイド治療が奏功しない場合には、血漿交換、免疫吸着療法、免疫グロブリン大量療法など他の免疫抑制療法が適宜選択されることになります。
経過中に呼吸障害やけいれんなどをきたすことがあるため、人工呼吸器や抗けいれん薬なども使用されます。その他、脳圧上昇をコントロールするための治療も必要です。回復期には神経学的な後遺症を残さないためのリハビリテーションも重要です。
急性散在性脳脊髄炎は、まれとはいえワクチン接種により発症することがあります。早期治療を行うことが治療予後には重要であるため、疑わしい症状が出現した際には早期に医療機関を受診することが重要です。
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