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インタビュー

視力や感覚に障害が起こる視神経脊髄炎、その治療法とは

視力や感覚に障害が起こる視神経脊髄炎、その治療法とは
藤原 一男 先生

福島県立医科大学医学部 多発性硬化症治療学講座・教授、一般財団法人脳神経疾患研究所 多発性硬化...

藤原 一男 先生

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視神経脊髄炎は、自己免疫の異常によって中枢神経系に炎症が起こる神経難病です。視力低下や運動感覚障害、しゃっくりなど、さまざまな症状が起こります。一度治療を終えても放置すると再発し、しかも重症化することが多いとされているため、治療は長期間にわたり行われます。

視神経脊髄炎とはどのような病気で、どういった治療が行われるのでしょうか。福島県立医科大学医学部 多発性硬化症治療学講座 教授の藤原(ふじはら) 一男(かずお)先生にお話しいただきました。

視神経脊髄炎とは、自己免疫の異常によって中枢神経系に炎症が起こる神経難病です。日本には、人口10万人あたり2~4人の患者さんがいるといわれています。

以前は、多発性硬化症という複数の中枢神経障害が起こる疾患の一種とされていましたが、2004年、多発性硬化症には見られない“抗アクアポリン4抗体(以下、抗AQP4抗体)”という特異的な自己抗体が原因であると報告されたことから、視神経脊髄炎は、多発性硬化症とは別の独立した病気として認識されるようになりました。2015年には新たな国際診断基準が完成し、視神経脊髄炎を“視神経脊髄炎スペクトラム(NMOSD)”と呼ぶことが提唱されています。

抗AQP4抗体が陽性の視神経脊髄炎患者さんの9割は女性で、平均発症年齢は40歳前後とされます。ただし、小児期や60歳以降での発症も確認されています。

視神経脊髄炎は、抗AQP4抗体が原因の一つであると考えられています。AQP4は、細胞の内外で水の分子を出入りさせるチャネルとしての役割を担っています。脳の血管はアストロサイト*足突起(そくとっき)によって取り囲まれており、AQP4はその表面にあります。抗AQP4抗体は、補体**を活性化しやすいことが分かっています。抗AQP4抗体がAQP4に付着し、補体を活性化すると、アストロサイトが壊されてしまいます。このような脳血管のアストロサイトが障害されることで起こる病態をアストロサイトパチーといいます。こうした一連の自己免疫反応により脱髄が起こり、視神経脊髄炎を発症すると考えられています。

視神経脊髄炎

ただし、抗AQP4抗体が陰性であっても視神経脊髄炎を発症することがあることも分かってきました。

*アストロサイト:血管と神経細胞をつなげ、神経細胞に必要な物質を供給する細胞。

**補体:人の体に侵入した病原菌などの抗原に対して免疫反応を媒介するたんぱく質の総称。

視神経脊髄炎の主な症状は、視神経炎脊髄炎、脳病変など、炎症が起こった部位に応じてさまざまです。

視神経に重度の炎症が起こることで、視力に障害が生じます。病変ができる場所によって症状の程度は異なり、視野の片側だけ急に見えなくなるケースがあれば、両目とも一緒に見えなくなるケースもあります。両目とも同時に見えなくなる場合は、視交叉(しこうさ)と呼ばれる左右の視神経が交わる部分に病変ができています。

視神経脊髄炎では、しばしば横断性の脊髄炎(脊髄を輪切りにしたときの断面全体に炎症が見られる)が確認されます。そして、胸のあたりに脊髄炎が起これば両足に麻痺が、頸椎(けいつい)に起これば四肢に麻痺がというように、脊髄のどの位置に脊髄炎が生じたかによって、症状の現れ方は異なります。

そのほか、感覚が鈍くなる、尿や便が出にくくなるといった症状も見られます。

視神経脊髄炎によって脳に炎症が及ぶと、その病変の位置に応じてさまざまな症状が現れます。延髄の最後野に病変が現れると、しゃっくり、吐き気、嘔吐などの症状が現れます。この症状は、脳病変による症状のなかで比較的多く見られます。また視床下部に病変が現れると、自分でコントロールできないほどの過度の眠気が生じることがあります。

抗AQP4抗体が陽性の場合は、視神経脊髄炎とともにほかの自己免疫疾患を合併しやすいことが分かっています。なかでも多いのはシェーグレン症候群全身性エリテマトーデス抗リン脂質抗体症候群、橋本病、重症筋無力症関節リウマチなどです。こうした自己免疫疾患を合併している場合は、視神経や脊髄、脳以外にも、その病態に応じた症状が現れます。

視神経脊髄炎が疑われる場合は、脳と脊髄のMRI検査を行い、視神経や脊髄、脳に病変があるかどうかを調べます。視神経炎は、左右のどちらかに確認できることもあれば、左右の視神経が交わる視交叉に確認できることもあります。脊髄炎では、脊髄の断面の中心に3椎体以上の長い脊髄病変が見られることが特徴です。

そのほか、血液検査(抗体検査)を行い、抗AQP4抗体が陽性であるかどうかを確認します。日本で承認されている抗体検査はELISAという検査法で、健康保険で実施できる一方、細胞を使った検査法に比べて感度や特異度がやや低いため、時に検査結果が正しく出ない(偽陽性や偽陰性)ことがあります。そのため、抗AQP4抗体の結果だけではなく、臨床症候、MRI所見やほかの検査結果などを含めて診断することが必要です。

視神経脊髄炎のほかにも、視神経炎や脊髄炎、脳病変を起こす病気はいくつかあります。そのため、検査によってほかの病気の可能性を確実に除外し、診断を行うことが重要です。

2015年に発表された国際診断基準では、他疾患が除外できて、抗AQP4抗体が陽性であり、さらに、臨床症候として視神経炎・脊髄炎・脳の症候群(最後野症候群など)のいずれか一つが確認できれば、視神経脊髄炎と診断することができます。

一方、抗AQP4抗体が陰性であっても、視神経脊髄炎の主要な症状が二つ以上確認でき、さらに特定の条件に合致する場合は、視神経脊髄炎と診断できます。ただし、この抗AQP4抗体陰性視神経炎は近年発見された抗MOG抗体関連疾患をはじめ、別の病気である可能性や、複数の病気が混ざり合って作られている症候群である可能性があります。

そのため、一つの検査所見だけで診断せず、臨床症候やMRI所見、血液検査の結果から総合的に判断し、診断することが大事です。

視神経脊髄炎の治療は、以下の三つの段階に分かれます。

  1. 急性期の治療
  2. 再発予防の治療
  3. 神経後遺症に対する対症療法やリハビリテーション

以下に、それぞれの段階における具体的な治療法について解説します。

ステロイドパルス療法

急性期においては、まずステロイドパルス療法を行います。1日あたりメチルプレドニゾロン1gを3~5日間、点滴で体内に投与し、炎症を抑制していきます。

ステロイドパルス療法が効果を示すか否かによって、その後の治療方針が変わります。

血液浄化療法(単純血漿交換療法、免疫吸着療法)

ステロイドパルス療法を行っても効果が不十分な場合は、血液浄化療法を週に2~3回、合計4回から最大7回行います。

視神経脊髄炎に対する血液浄化療法には、“単純血漿交換療法”や“免疫吸着療法”などの方法が用いられます。

◆単純血漿交換療法

血液を体外に取り出して血漿と血球に分けた後、血漿を全て捨て、捨てた血漿の代わりにアルブミン液を血球に合わせ、体内に戻す方法です。

単純血漿交換療法の方法
単純血漿交換療法の方法

◆免疫吸着療法

血液を体外に取り出して血漿と血球に分離した後、血漿のみを吸着器(カラム)に通して、病気の原因物質を吸着させて除去し、残りの血漿を再び体内に戻す方法です。

免疫吸着療法の方法
免疫吸着療法の方法

免疫グロブリン大量静注療法

ステロイドパルス療法や血液浄化療法を行っても効果が見られない場合、または血液浄化療法が何らかの理由で施行できない場合は、免疫グロブリン大量静注療法を行うことがあります。ただし、現時点では免疫グロブリン大量静注療法が視神経脊髄炎に有効であることを示すエビデンスに乏しいため、実施するかどうかは慎重に検討する必要があります。免疫グロブリン大量静注療法は、ステロイドパルス療法の効果が見られない視神経炎において保険適用になっています。

急性期治療を行った後は、ステロイドや免疫抑制剤を用いて再発を予防するための治療を継続します。

なお、多発性硬化症の再発予防の薬を視神経脊髄炎の患者さんに投与すると、効果がない、それどころか、再発が増える可能性があることが知られています。したがって視神経脊髄炎の再発、そして重症化を避けるためには、発症早期の段階で視神経脊髄炎と多発性硬化症を鑑別することが重要です。

近年、治療薬の治験が複数進み、日本で初めて視神経脊髄炎の再発予防薬として承認された薬や、再発を大きく減らすことが証明された薬も登場しています。今後は、これらの薬を、どのような患者さんに、どのように使っていくべきかを検討することが重要になるでしょう。

もしも再発したらどうする?

再発した場合は、急性期の治療手順に準じた対応を行います。

もし、再発予防の治療中に再発した場合は、現状の治療では再発を抑えきれないと予測できるため、他の治療薬への変更や薬の量の調整などを検討します。ただし、現状の治療で再発を抑えきれないと判断するかどうかは、再発までの期間や頻度にもよります。

再発予防の薬はいつまで必要?

薬を服用している状態で再発した場合よりも、無治療で再発した場合のほうが重症化することが知られています。無治療の状態で再発した場合には、急激な視力低下や失明、歩行困難などの重篤な状態に陥り、機能予後不良となる可能性も高まるため、薬の中止を考える際には非常に慎重な判断が必要です。

対症療法

急性期を越えると、有痛性強直性痙攣(ゆうつうせいきょうちょくせいけいれん)や、手足の痛み・しびれ、排尿障害、便秘などの神経後遺症が生じることがあります。こうした神経後遺症に対しては、抗てんかん薬や下剤など、それぞれの症状に対する薬を使った対症療法を行います。

リハビリテーションの重要性

視神経脊髄炎によって起こった視力低下や歩行困難を改善するためには、再発予防の薬を継続するとともに、リハビリテーションによる身体機能の回復・維持も大切です。リハビリテーション科と連携しながら、総合的に患者さんの状態改善を目指します。

自分の体調管理を意識的に行う

一部の視神経脊髄炎の患者さんでは、体温の上昇に伴って、一時的に神経症状が現れたり、悪化したりすることがあります。この現象をウートフ現象とよび、多発性硬化症でよく見られます。ウートフ現象による体調の悪化を防ぐためには、サウナなどの体を温めるような場所をなるべく避ける、発熱した場合は速やかに解熱剤を飲むなどして体温を下げる、入浴は短時間にする、熱い食べ物(鍋物など)は冷ましてから食べるといった工夫をし、自分の体調管理を意識的に行いましょう。

睡眠や休憩を適宜取り入れる

不眠や過労が続き体にストレスがかかると、免疫機能を制御するリンパ球の機能が低下して、再発を誘発する可能性があります。きちんと睡眠時間を確保して適度な休息を取り入れましょう。

妊娠・出産を考える場合は再発リスクを考慮し治療を継続する

視神経脊髄炎の方でも、薬で病状をコントロールできていれば妊娠・出産は可能です。

出産後6か月間は、妊娠前や妊娠中に比べて、再発が数倍増えることが知られています。ただし、再発したケースの大部分は、妊娠が分かった時点で再発予防のための治療薬を中止していたことが分かっています。そのため、現在では妊娠中の視神経脊髄炎の患者さんに対し、再発予防の治療の継続を視野に入れた慎重な対応が求められています。

視神経脊髄炎の患者さんで、妊娠・出産を考えていらっしゃる場合は、まずは主治医にご相談ください。

藤原先生

視神経脊髄炎においては、早期診断・早期治療をすることで再発や後遺症を抑え、患者さんに元気で長く生活していただけることが何よりも大事だと考えています。

2004年に視神経脊髄炎と抗AQP4抗体の関係性が発見されてから、本疾患の全体像は徐々に明らかになってきました。さらに、治療薬の治験や承認も進んでおり、2019年には治験を経た薬が初めて日本でも承認されました。今後も視神経脊髄炎に対する薬の開発や承認が進んでいくでしょう。そして、一人ひとり症状やその現れ方が異なる視神経脊髄炎に対して、どのような作用機序の薬が効果的であるかが分かるようになれば、その患者さんに対してより適切な治療を提供できるようになるでしょう。視神経脊髄炎においては、そのような個別医療が目指されています。

今よりも多くの患者さんが、再発せず一生を元気に過ごせる時代が来る、そのような未来に向けて、治療薬のさらなる発展が期待されます。

  • 福島県立医科大学医学部 多発性硬化症治療学講座・教授、一般財団法人脳神経疾患研究所 多発性硬化症・視神経脊髄炎センター・センター長

    藤原 一男 先生

    九州大学医学部を卒業後、東北大学を経て、2015年より福島県立医科大学医学部 多発性硬化症治療学講座にて教授を務める。医師として多発性硬化症および視神経脊髄炎をはじめとした免疫性神経疾患の研究・治療に日々取り組んでおり、新しい治療薬の研究開発やガイドライン作成にも積極的に携わっている。

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