視神経脊髄炎(NMO)は、再発と寛解を慢性的に繰り返す難病ですが、正しい診断と治療を受けることで再発の回数を減らすことが可能です。急性期(症状が急にあらわれる期間)には重篤な炎症をしずめる効果の高いステロイドパルス療法を行い、その後は症状の緩和や再発予防を行って状態を安定化させていきます。
今回は詳しい治療と再発予防について、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 医長の岡本智子先生に伺いました。
視神経脊髄炎(NMO)と多発性硬化症(MS)では、どちらも第一選択としてステロイドパルス療法を行います。その後は再発予防として、主に視神経脊髄炎(NMO)では経口ステロイドを内服し、多発性硬化症(MS)では経口カプセルや注射薬を使用します。両者は症状の似た疾患ですが、治療方法が異なります。
数日の内に急に症状が現れる急性期の治療では、視神経脊髄炎(NMO)・多発性硬化症(MS)とも第一選択として、炎症をしずめる作用があるステロイドパルス療法を用います。
ステロイドパルス療法では、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウムという薬剤1000mgを生理食塩水にとかして1時間ほど点滴を行います。この点滴を約3日間続けて行うことを1クール(1コース)として、1週間に1クール行います。
個人差はありますが、ステロイドパルス療法の効果があらわれると、再発して筋力低下が起こった時でも筋力がほぼ改善したり、視力が回復したりします。
症状が重篤な方は2クール、3クール行うことをお勧めします。続けるほど症状が改善する場合があるからです。
視神経脊髄炎(NMO)で行われる治療方法には下記のようなものがあり、症状や進行状態によって選択されます。
視神経脊髄炎(NMO)では、ステロイドパルス療法を3クール行っても症状がよくならないような場合、血液浄化療法を行います。症状が重篤な患者さんの多くが実施される方法です。
血液浄化療法とは、患者さんの血液を取り出して悪い物質を浄化し、体内に戻す療法です。血液浄化療法には「免疫吸着療法*」と「単純血漿(けっしょう)交換療法*」があります。視神経脊髄炎(NMO)の治療として実施されるのは単純血漿交換療法です。
免疫吸着療法…患者さんの血液を取り出して、悪い物質を取り除き体内に戻す療法。
単純血漿交換療法…患者さんの血液(血漿)を取り出して、健常者の血液(血漿)と置き換える療法。
ステロイドパルス療法後、視神経脊髄炎(NMO)では経口ステロイド剤による治療へ移行します。経口ステロイド剤は、服薬することで症状を安定させたり、再発を予防したりする作用があります。
視神経脊髄炎(NMO)で感覚障害が起こった場合、症状が痛みとして残る方がいます(神経障害疼痛:しんけいしょうがいとうつう)。一般的に多い症状である痛みやしびれには、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、血流改善剤、鎮痛剤などを使った対症療法*を行います(疼痛緩和)。痛みが強い場合でも麻薬を使用することはまれです。
また、排尿障害に対しては泌尿器科的な治療薬を使うことがあります。
対症療法…病気の症状に対して緩和を行う療法。
その他、視神経脊髄炎(NMO)の新しい治療薬については研究が進められている状況です。学会で発表された薬や、認可を待つ状態の薬があり、実用化が期待されます。
再発や進行が全くない状態を完治とするなら、視神経脊髄炎(NMO)、多発性硬化症(MS)ともに完治することが難しい疾患です。また、MRIで確認された病変(病気による変化)については、健常者と比べて差異のない状態にまで改善することは非常にまれです。
視神経脊髄炎(NMO)と多発性硬化症(MS)は、多くの患者さんが再発と寛解を繰り返します。寛解とは再発が起こらない安定期のことを指します。
特に視神経脊髄炎(NMO)は、多くの患者さんが再発と寛解を繰り返します。なかには、長期間治療をしていくなかで症状が落ち着き、治療薬を減らしても再発しないという方もいますが、十分な治療をしないと再発するケースが多くみられます。
再発率は症例によって異なります。治療中の場合の再発頻度は、多い方で年に3回くらい、少ない方で数年に1回などです。再発せずに安定している方もいます。再発率の違いについて原因はわかっていません。
治療を中断すると、多くの場合は再発します。ステロイド製剤や免疫抑制剤で再発がなく落ち着いていても、急に中断すると再発することがあります。
再発頻度の高い方は、治療薬のステロイドの量を増やすことで、ある程度落ち着く場合があります。痺れや筋力低下、視力障害などが残っている場合も、内服薬を長期間飲むことで症状がとれたり、再発が抑制されたりします。治療薬を調整して再発予防に努めることが重要です。
再発寛解型の視神経脊髄炎(NMO)・多発性硬化症(MS)では、多くの場合は発症してから数日の内に症状が進行します。緩やかに症状が出る方の場合は、1週間ほど経って症状が進行してから発症に気づくこともあります。
たとえば視神経炎が生じた場合の経過としては、初めの3日間くらいは目が痛む・目の奥がゴロゴロするというような症状があり、4,5日後には見えにくくなってきた、というようなケースがみられます。
感覚障害が生じた場合は、多くの方が数日の内に再発に気づきます。ちょっと感覚が鈍いような気がしていたら範囲が広がってきた、なんとなく鈍痛がしていただけだったのに痛みがひどくなり触ってもわからなくなってきた、足の力が抜けてきた、というような自覚症状があります。
視神経脊髄炎(NMO)の患者さんは、日常生活では下記のようなことに注意してください。
視神経脊髄炎(NMO)でも多発性硬化症(MS)でも、日常生活ではウートフ現象を考慮することが必要です。
ウートフ現象は、炎天下や風呂などの環境下で一時的に症状が出現する現象です。たとえば、真夏にバス停からバス停までの距離を歩く程度の数分間で脱力感が起こったり、岩盤浴や長風呂で再発を起こしたりするため、注意しなければなりません。暑さを避けていつも涼しく過ごすことが重要です。
このような症状が起こったとき、再発かどうかを確かめるには、涼しいところに行っても同じような症状が続いているかどうかが指標になります。
食事については偏食を避け、腸内環境を整える野菜や発酵食品、海藻類、和食をバランスよく摂ることがよいといわれています。腸内細菌のバランスは免疫機能に影響するため、バランスの良い健康的な食生活を心がけることは重要です。
視神経脊髄炎(NMO)の患者さんが妊娠を希望する場合は、状態を安定化させるよう治療努力して妊娠に備えます。ただし投薬している最中に妊娠すると、治療薬の性質によっては流産や奇形出産のリスクが高まるため、一定の期間だけ別の薬剤に替えるなどの準備が必要です。再発頻度に応じて妊娠時期を見合わせるケースもあります。
しかし、「病気になってしまったから子どもは産めない」と思うことはありません。主治医に前もって相談し、諦めないことが大切です。
国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科 副部長
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