インタビュー

末梢神経障害(ニューロパチー)の原因と症状とは?自律神経や感覚神経が障害される

末梢神経障害(ニューロパチー)の原因と症状とは?自律神経や感覚神経が障害される
岡本 智子 先生

国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科 副部長

岡本 智子 先生

この記事の最終更新は2018年03月04日です。

末梢神経には、運動神経、感覚神経、自律神経があります。炎症性疾患や糖尿病などにより末梢神経が障害されると、手足の筋力低下、しびれや痛み、便秘などの症状が現れ、日常生活に支障を来すことがあります。重症例では排尿障害不整脈が起こることもあるという末梢神経障害の原因と症状について、国立精神・神経医療研究センター病院神経内科医長の岡本智子先生にお伺いしました。

人体に張り巡らされた神経には、中枢神経と末梢神経の2種類があります。中枢神経とは脳と脊髄(せきずい)のことです。この中枢神経から幾重にも枝分かれし、体全体にくまなく分布している末梢神経は、以下の3種類に大別されます。

(1)運動神経

脳から出された司令を伝え、筋肉を動かす役割を持ちます。

(2)感覚神経

熱い、冷たい、痛いといった感覚をもたらします。また、ものを触ったときの感触を伝えることも感覚神経の役割です。

このほか、自らの手足を動かしたとき、その位置がどこにあるのか(位置覚)を感知する「深部感覚(しんぶかんかく)」も、感覚神経によりもたらされます。

(3)自律神経

自律神経には緊張時にはたらく交感神経と、リラックス時にはたらく副交感神経があります。この2つの神経がバランスよく機能することで、私たち人間は自然と日中に活動的になり、夜が来るとスムーズに眠ることができます。

また内臓機能や血管の収縮・拡張機能、尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)や膀胱直腸機能を司ることも、自律神経の重要な役割のひとつです。

3つの末梢神経のいずれかが、炎症性の病気や代謝異常などにより障害されるさまざまな病気の総称を「末梢神経障害」といいます。なお、「ニューロパチー」は末梢神経障害の別名であり、両者に違いはありません。

運動神経が障害された場合

力が入りにくい、歩きにくいといった症状が起こります。

感覚神経が障害された場合

感覚が鈍くなり、痛みや温冷感がわかりにくくなることがあります。これとは逆に、感覚過敏になることもあります。

自律神経が障害された場合

立ち上がったときに血圧が下がる起立性低血症を起こしやすくなったり、腸管の運動が低下して便秘を起こしたりすることがあります。また膀胱や尿道の機能が低下し、排尿障害が起こることもあります。

末梢神経障害の原因となる病気は非常に多岐にわたります。そのなかでも比較的よくみられる病気は、運動神経が炎症により障害されるギランバレー症候群です。ギランバレー症候群は若年層に起こりやすいため、若い患者さんが「急に手足に力が入らなくなった」と訴えている場合は、ギランバレー症候群を疑い慎重に診察を行なう必要があります。

このほか、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)や多巣性運動ニューロパチーも、末梢神経障害の原因となる炎症性の末梢神経障害として挙げられます。

代謝に異常が起こる病気も末梢神経障害の原因となります。なかでも代表的な代謝性疾患は糖尿病です。糖尿病性末梢神経障害の患者さんに多くみられる症状は、しびれや力が抜けるといったものです。

このほか、よく知られている末梢神経障害の原因には、血管の炎症や薬剤の副作用、アルコールの過剰摂取やビタミンの欠乏などがあります。また先天的な遺伝子異常により起こる遺伝性の末梢神経障害もあります。

めまいや起立時のふらつき、ほてりなど、交感神経と副交感神経のバランスが崩れているときに起こる症状を呈しているケースを総称して、自律神経失調症と呼ぶことがあります。

自律神経失調症は正式な病名ではなく、その症状の原因が本当に自律神経の乱れなのかを証明することも困難な、難しい状態といえます。

これまでの臨床上の経験から、自律神経失調症といわれる患者さんのなかには、実際に交感神経や副交感神経が大きく障害されている方もいると感じています。

ただし、すべての自律神経失調症といわれる患者さんが、末梢神経障害による自律神経障害に該当するというわけではありません。

たとえば、起立性低血圧症は「起立後3分以内に20mmHg以上の収縮期血圧の低下がみられる」と定義されます。この定義を満たす場合は病的な状態であると診断しますが、定義を満たさない10mmHgの血圧低下でも、もともと血圧が低い方はふらつきやめまい感を感じることがあります。自律神経失調症とは、このような方に医療的なアプローチをする目的で用いられている診断名ともいえます。

このほか、自律神経が病的に障害されているかどうかを見極めるために、瞳孔の検査や膀胱機能の検査を行なうことがあります。一連の検査で異常がみられない場合でも、強い疲労感や動悸など、体の不調を呈しているときには自律神経のバランスが崩れていると考え、心療内科など(※)で不調に対する治療を行います。

※末梢神経障害は一般的に神経内科で診断・治療を行いますが、自律神経失調症の治療を専門的に行なう診療科は心療内科などさまざまです。

自律神経が障害されている場合に現れる症状は、軽い起立性低血圧症や便秘などから重篤な症状まで、幅が広いという特徴があります。

たとえば、ギランバレー症候群により腸管の運動が著しく悪化している場合には、イレウス(腸閉塞)が起こることもあります。また頻度は極めてまれですが、ギランバレー症候群の自律神経障害では、心臓の調節機能の低下により危険な不整脈が起こることもあります。

糖尿病の4大合併症は、腎症、網膜症、大血管障害、そして末梢神経障害です。このなかでも特に頻度が高い末梢神経障害は、血糖値の上昇によりソルビトール(糖アルコールの一種)が神経細胞に蓄積することで起こります。

糖尿病末梢神経障害の典型的な初期症状は、足のしびれや末端の感覚の鈍化など、感覚神経が障害されることによる症状です。歩行時に「足の裏に一枚膜が張っているような感じがする」という患者さんも多数おられます。

一般的な糖尿病性末梢神経障害の場合、まず手指や足先などの末端に感覚神経障害による症状が現れ、徐々に力がはいりづらくなる運動神経障害や、起立性低血圧症などの自律神経障害などが現れます。このほか、便秘と下痢を繰り返すこと、EDや排尿障害を来すこともあります。

またまれに末端ではなく体幹にも末梢神経障害の症状(背中の痛みやしびれなど)が出ることがあります。

これらの症状は、高血糖の期間が長期に続くことで起こるといわれています。糖尿病性末梢神経障害の難点は、血糖値が上がっていても症状はほとんど現れず、気づかぬ間に微細な血管が徐々に障害されていくということです。糖尿病合併症としての末梢神経障害や腎障害は、このような小さな血管の障害が広がっていくことで起こるといわれています。

国立精神・神経医療研究センター病院ではがん治療を行っている患者さんが少ないため、当院で経験することは多くはありませんが、一般論として、抗がん剤治療を受けている患者さんが末梢神経障害を発症することは非常に多いといわれています。

末梢神経障害を発症した場合は、がん治療との兼ね合いをみながら、原因となっている薬を減らす、もしくは中断することが理想的です。

このほか、結核の治療薬などにより末梢神経障害が起こるケースもあると報告されていますが、近年では結核に罹患する患者さんが減ったため、処方される機会も減っています。

ストレスがダイレクトに末梢神経障害を引き起こすといった医学的根拠はありません。ただし、ストレスと免疫力は密接に関係しており、このバランスが崩れると感染症に罹患しやすくなると考えられます。たとえば、末梢神経障害の原因疾患であるギランバレー症候群は、感染を機に発症することが多い病気です。

また実際の臨床上の経験から、発症後に強いストレスを受け続けている場合、末梢神経障害の症状が悪化しやすくなると思われます。

詳しくは記事2『末梢神経障害の治療薬の種類と副作用-日常生活ですべきこと・避けるべきこと』に記しますが、末梢神経障害と診断されている場合は、充分な睡眠をとり、生活リズムを是正するなど、心身のストレスを軽減し、免疫力を高めていくよう心がけることが大切です。

次の記事『末梢神経障害の治療薬の種類と副作用-日常生活ですべきこと・避けるべきこと』では、末梢神経障害の検査と治療、日常生活ですべきことと避けたほうがよいことについてお話しします。

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