概要
ニューロパチー(別名・末梢神経障害)とは、全身に隈なく分布する末梢神経が障害されることにより、手足のしびれや筋力の低下など、さまざまな症状が現れる病気の総称です。
神経系には、中枢神経と末梢神経の2種類があります。中枢神経とは脳と脊髄のことを指し、末梢神経はそこから手足の先まで枝分かれするすべての神経を指します。
末梢神経は、さらに(1)運動神経、(2)感覚神経、(3)自律神経に大別されます。ニューロパチーとは、これらの末梢神経のいずれかが、炎症や代謝異常などにより損なわれる病気です。そのため、歩行が困難になる、冷たさや熱さに敏感になる、腸の調子が悪くなるなど、多様な症状が現れます。
原因
ニューロパチーの原因は、糖尿病や薬剤など、非常に多様です。原因となっている因子により、ニューロパチーは以下のようにわけられます。
炎症性・自己免疫性
末梢神経が自己免疫によって損なわれ、ニューロパチーが引き起こされることがあります。本来、免疫は異物から自己を守るためにはたらきます。しかし、自己免疫は自己(自分の体の末梢神経など)を誤って他者と認識し、攻撃してしまいます。ギラン・バレー症候群や慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIPD)などが、自己免疫によるニューロパチーに含まれます。これらは免疫介在性ニューロパチーとも呼ばれます。
膠原病性
全身性エリテマトーデス(SLE)やシェーグレン症候群など、全身に複数の炎症が起こる膠原病により、ニューロパチーとなることがあります。
代謝・栄養性
糖尿病性ニューロパチーは糖尿病神経障害とも呼ばれ、糖尿病の3大合併症に数えられています。また特に先進国では、あらゆるニューロパチーのなかでも最も高い頻度で起こっているといわれています。末梢神経が損なわれる理由は、高血糖が続くことで、産生されたソルビトールが神経の細胞に溜まっていくためです。特に足の末梢神経が障害されることが多くなっています。
また、ビタミンB1の欠乏もニューロパチーの原因になります。ビタミンB1の欠乏を原因として起こる歩行障害などのニューロパチーは、いわゆる脚気(かっけ)という俗称で、古くから知られています。
腫瘍性・傍腫瘍性(ぼうしゅようせい)
がんによる圧迫や、浸潤(がんが周囲の組織へと広がっていくこと)などにより、直接的に末梢神経が障害されることがあります。また、がんによる直接的な関与は認められないものの、肺小細胞がんの患者さんなどに神経症状が現れることもあります。これを傍腫瘍性神経症候群といいます。
薬剤性
一部の抗がん剤や抗てんかん剤、麻酔薬、免疫抑制剤、抗原虫剤、抗結核薬、ビタミン剤、抗不整脈薬、痛風の治療薬、嫌酒薬、抗菌薬、抗HIV薬により、ニューロパチーが起こることがあります。
中毒性
鉛やタリウムなどの金属類や、ベンジンといった化学物質などを吸収することが、原因として挙げられます。
感染性
マイコプラズマやらい菌などのウイルス・細菌に感染し炎症が起こることで、末梢神経が障害されることがあります。
遺伝性
シャルコーマリートゥース病という遺伝性の病気により、特に運動神経や感覚神経が損傷されます。
その他
症状
ニューロパチーの症状は極めて多く、また原因や障害された末梢神経の種類によっても変わります。以下は(1)運動神経、(2)感覚神経、(3)自律神経が障害されているときに現れやすい症状の一例です。
(1) 運動神経が障害されている場合
筋萎縮・筋力低下:手足に力が入らない、スムーズに歩けない、立ち上がることが困難に感じる、物を落としてしまう、など。
(2) 感覚神経が障害されている場合
- しびれ
- 痛み
- ふらつき
- 冷感:手足が冷たく感じる
など
(3) 自律神経が障害されている場合
など
これらの症状は、複合的に現れることがあります。多くはピリピリとしたしびれや、ジンジンとした痛みから始まり、徐々に進行して立ち上がりや歩行の問題などに発展していく傾向があります。
検査・診断
医療機関では、主に神経生理検査が行われます。
- 神経生理検査:末梢神経伝導検査という電気刺激を利用した検査によって、刺激が伝わる速度(伝導速度)や、末梢神経がどのように障害されているか(脱髄性か軸索性か)などを調べることができます。筋肉に針を刺す針筋電図検査が行われることもあります。
診断が難しいケースの場合、神経生検が行われることがあります。ただし、神経生検は患者さんへの負担も大きいため、実施すべきかどうかは慎重に判断される必要があります。
このほか、血液検査や、場合によっては髄液検査や画像検査などが行われることもあります。ニューロパチーの診断は、これらの検査結果と、患者さんの病歴や現れている症状などと照らし併せながら、総合的に行われます。
治療
ニューロパチーの治療には、薬剤を用いた治療や、機能訓練、装具療法、電気刺激を利用した物理療法、血漿交換療法、手術などがあります。たとえば、歩行障害が生じているときには、歩行訓練などの機能訓練や装具療法が行われます。
血液浄化療法は、主にギラン・バレー症候群やCIPDなどによる自己免疫性ニューロパチーに対して行われます。血液浄化療法とは、病気の原因物質を含んだ血液中の液体成分(血漿)を、除去する治療を指します。
ニューロパチーの薬剤療法は、原因となっている病気に対する原因療法と、症状に対する対症療法にわけることができます。たとえば、自己免疫性ニューロパチーの場合は、副腎皮質ステロイド療法や免疫グロブリン静脈内投与療法など、自己免疫反応を抑える治療が行われます。
ニューロパチーのなかでも最も高頻度で起こっている糖尿病性ニューロパチーの場合は、原因となっている高血糖を是正するために、血糖コントロールなどが行われます。
薬剤による対症療法としては、痛みやしびれを緩和する作用を持つ抗てんかん剤や抗精神病薬など、患者さんの症状に応じた薬が処方されます。また原因や症状によっては、生活習慣の改善が必要なケースもあります。
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