インタビュー

放射線診断の現状と課題-検査技師の数や放射線被爆への不安

放射線診断の現状と課題-検査技師の数や放射線被爆への不安
薄井 広樹 先生

栃木県済生会宇都宮病院 放射線科

薄井 広樹 先生

この記事の最終更新は2016年06月24日です。

がんの増加とともに放射線診断の需要はますます増えています。その一方で、検査機器の台数や種類、診断医や検査技師の数にも限りがあります。また、患者さんの中には検査による放射線被曝を心配する方もいらっしゃいます。済生会宇都宮病院の放射線科における放射線診断の現状と課題について、診断部に所属する薄井広樹先生にお話をうかがいました。

がんの患者さんが増えていることもあり、PET(陽電子放射断層撮影)の件数は特に増えています。済生会宇都宮病院には地域連携課という部署があり、他の病院との連携に関わる業務を行っています。他の病院から検査のために患者さんの紹介を受けて我々が検査を行い、レポートも含めて結果をお返しするということをほぼ毎日行っています。

済生会宇都宮病院の放射線科では、診断部で年間に行っている診断業務が、CTでおよそ29,000件、MRIは16,000件弱となっています。画像診断機器の台数とマンパワーにはやはり限界もあるのですが、検査の枠を拡大するなど、できる限り対応できるように工夫をしています。

済生会宇都宮病院では3テスラのMRIが1台、1.5テスラのものが3台稼働していますが、それぞれ用途が異なります。3テスラは状況によっては非常に解像度の高い明瞭な画像が得られます。たとえば頭の血管・血流を見るためのMRA(MAアンギオグラフィー)などでは3テスラは非常に有効であり、鮮明に血管を見ることができます。

逆に腹部などの場合、特に肝臓や骨盤のあたりではアーティファクト(虚像)といって、実際にはそこにないものがノイズのように入ってしまうことがありますが、実は3テスラの場合、1.5テスラのMRIでは起こり得なかったアーティファクトが出てくるということがわかっています。3テスラと1.5テスラのそれぞれに使いどころがあり、性能を発揮できる得意分野があるので、それに応じた使い分けをしています。

また、血管造影ができる機械は3台あります。1台は心臓専用の機械で、心臓血管造影に特化した機種です。あとの2台は心臓にもその他の部分にも多目的に使える機械ですが、その形状や特徴から1台は脳外科領域向け、もう1台は腹部の造影に適しています。

したがって、我々は原則としてこの腹部の造影に適した1台の機械を使ってIVRを行っています。ただし、同時に2件緊急の検査が重なってしまった場合には、他の診療科と調整をしながら他の機械を使うこともあります。

検査で放射線を使うため、被曝(ひばく・放射線にさらされること)を気にされる方もいらっしゃいます。たとえばX線などを照射することによる被曝が発生することは残念ながら事実です。しかし国際的な機関における研究結果をみても、たとえばCT1回分の被曝でどれくらいの影響があるかというと、放射線をまったく浴びていない場合との差があるといえるかどうかは微妙である、つまりきわめてわずかな影響しかないだろうと考えられています。

また、検査のための被曝や放射線治療の際の被曝など、いわゆる医療被曝に関しては、あえて上限を設けていません。上限を設けてしまうと、たとえばX線の線量を制限内に抑えたために画像が不鮮明になり、本来わかるはずのものがわからないということが起こる可能性があります。それでは検査をする意味がなくなってしまうため、あえて制限を設けていないのです。

ただし、そのかわりのリミッターとして、「ALARA(as low as reasonably achievable)の原則」というものがあります。”as low as” =「できるだけ低くすべき」であることはもちろんですが、線量を減らしすぎて検査が成り立たなくなっては本末転倒です。そこで ”reasonably achievable” =検査や治療の目的が「合理的に達成できる範囲で」行うということを常に念頭に置いています。

今の検査機器は、ある程度体に合わせて自動的に線量を調整するような機構を備えています。不必要な被曝をできるだけ避けるよう、ハードウェア的にもソフトウェア的にも工夫されています。検査を実施するからにはその被曝に見合う検査結果を出すことをしっかりと考えながら検査を行っています。

もちろん、どうしても心配だと思われるときにはご相談いただいても構いません。状況によっては超音波検査やMRIなど、放射線被曝のない検査に置き換えることも可能ですので、我々としては主治医の先生とも相談のうえで、患者さんに納得して検査を受けていただきたいと考えています。