「捻挫」は、日常生活中の転倒やスポーツ時の足をねじる動作により、誰にでも起こる可能性がある身近な疾患です。「捻挫したかもしれない」と思ったとき、まずどのような応急処置を行えばよいのでしょうか。
また、捻挫を早く治すためにご自宅で積極的にしたほうがよいこと、控えたほうがよいことには、どのようなものがあるのでしょうか。国際医療福祉大学成田病院 救急科部長の志賀隆先生に教えていただきました。
私たちの体には大変に多くの関節が存在します。そのため、捻挫は全身のあらゆる部位で起こり得ますが、最も多くみられるのは足関節、すなわち足首です。
典型的な足首の捻挫とは、足首の内反により、外側の靭帯である「距腓靭帯(きょひじんたい)」「前距腓靭帯」「後距腓靭帯」が切れるものです。
足首の内側にも三角靭帯と呼ばれる靭帯が存在しますが、これは距腓靭帯などに比べると強く損傷しにくい靭帯です。くわえて、日常動作により足が外側に反ることは少ないため、内反による捻挫の頻度が圧倒的に高いものとなっています。これが、捻挫のひとつの特徴です。
東京ベイ・浦安市川医療センターには、スポーツ中の動作や日常生活中の転倒により、足首を捻挫して来院される方が多くみられます。
スポーツの中でも、サッカーやバスケットボール、テニスなど、何度もくるくると体の向きを変える動作を伴う競技は、捻挫をしやすい傾向があります。
また、自転車に乗っている最中に転倒し、足首をひねってしまう方も多々おられます。
捻挫の自覚しやすい症状は、患部の痛みと腫れです。これらの症状は骨折と同様のものであり、実際に捻挫に骨折を伴うこともあります。
以下の評価法「オタワアンクルルール(Ottawa ankle rule)」に該当する場合は、レントゲンを撮り、骨折の有無を確認する必要があります。これは、不要なレントゲン撮影を減らす目的で作られた評価法です。
触診を行い、A~Dに圧痛があればレントゲン撮影を行います。
また、体重を支えられず歩けないようであればレントゲンを撮ります。
逆に、捻挫をしていても内外のくるぶしや第5中足骨、舟上骨に圧痛がなく、歩けることもあります。この場合はレントゲンを撮らず、軽度の捻挫と診断して治療をします。
このほか、捻挫の症状として、距腓靭帯の周辺に紫色の皮下出血がみられることもあります。
受傷直後に痛みや腫れ、炎症があるときは、応急処置として「RICE処置」を行いましょう。
RICEのRは安静(REST)の意を示します。まずは運動などの活動を停止し、患部を動かさないよう安静にしましょう。
炎症を抑えるために、患部を冷やして血管を収縮させます。このとき、氷嚢(氷の入った袋)や保冷材をタオルやハンカチで二重に包み、凍傷を防ぐことが大切です。
私自身も学生時代、サッカーを行っている最中に捻挫したことがありますが、応急処置のためのコールドスプレーで凍傷になったことがあります。炎症は冷やして抑えることが原則ですが、やりすぎは禁物です。
湿布薬はの成分や種類は多岐にわたりますが、ケトプロフェンに一定の有効性があるようです。
なお、インドメタシンと偽薬(プラセボ)を比較した試験では、両者に大きな差異はなかったという報告がなされています。
捻挫をすると翌日以降も痛みは持続します。RICEのCとEは、病院から帰宅後、ご自身で続けていただきたい処置です。
Cは圧迫(Compression)を意味します。足首の捻挫であれば、テーピングを行い固定しましょう。エビデンスは確立されていませんが、「8の字テーピング」と呼ばれる方法がよく知られています。
眠るときは枕を足の下に入れ、心臓より患部が高くなるようにしてください。
※治療開始から数日経過し、痛みや腫れが引いてきたら、自宅でのRICE処置は中止しても構いません。
救急外来では、まず患部を固定して痛み止めを処方します。また、重症度の高い患者さんには松葉づえを処方します。
東京ベイ・浦安市川医療センターでは、全ての捻挫患者さんに対し、帰宅後のRICE処置について、ご自身やご家族に向けた指示書をお出ししています。
重症度にもよりますが、受傷から1週間程度はNSAIDsと呼ばれる非ステロイド性消炎鎮痛剤を1日3回飲んでいただきます。NSAIDsは、胃腸障害などの副作用が起こりやすいことで知られていますので、服用中は胃や腸に不調が起こっていないかどうか十分に注意します。
なお、靭帯が完全に切れてしまっている捻挫の場合、手術を行うこともあります。このような捻挫は「3度捻挫」と定義されます。
ただし、手術となるのはアスリートなど特殊な環境下にある方がほとんどで、一般の方であれば、3度捻挫でも保存療法により治療を行います。保存療法の場合は、ギプスなどで患部をしっかりと固定し、最低でも受傷後10日は装具をつけて生活していただきます。
先に、捻挫と骨折の鑑別について述べましたが、なかでも「捻挫だと思っていた」と間違えやすいのは、第5中足骨の基部にヒビが入る「下駄履き骨折(俗称)」です。
第5中足骨基部骨折は、かつて下駄を履くことがふつうだった時代に、足を捻じってしまい頻発していたため、このような通称で呼ばれています。
第5中足骨基部骨折は現代では下駄ではなく、ハイヒールを履いている女性の方に最も多くみられます。ハイヒールで歩くと足を内反してしまいやすいため、捻挫と共に骨折してしまう頻度も増えるのです。
捻挫をした部分の組織は炎症を起こしているため、原則として「冷やす」ことが大切です。「温める」「血行を促す」といった行為は、症状を長引かせてしまいかねないので、控えるようにしましょう。特に応急処置の際、捻挫の患部に温湿布を貼ることは禁物です。
軽度の捻挫でも、しばらくは飲酒、湯船に浸かる入浴、運動などは避けましょう。
また、立ち仕事も数日は控え、医師の指示に従いながら再開するようにしましょう。
このほか、鍼治療やツボ押しも医師の立場からはあまりおすすめはできません。稀に、鍼治療の際に血中に細菌が侵入し、血液感染を起こすことがあります。
また、損傷した靭帯が修復しようとしているときに、外部から圧をかけるツボ押しも控えたほうがよいでしょう。
ご自宅でも指示書などに従いRICE処置を行い、NSAIDsを決められた回数積極的に服用します。痛みがあるときは、市販のロキソニンなどを服用しても構いません。
無理な運動は禁物ですが、捻挫の場合であれば、絶対安静指示はしないことがほとんどです。痛みや腫れがある程度引いてきたら、慎重に動かし始めることをおすすめします。たとえば、「足で字をかく」などの動作を、痛みを感じない範囲で行ってみるのもよいでしょう。
松葉づえなどを処方されている比較的重い捻挫の患者さんは、いつ頃から歩き始めるのがよいか、整形外科の先生と相談しましょう。
サポーターも受傷直後から痛みや腫脹がおさまるまで(4~21日間)は必要ですが、必要以上に長期間使ってしまうと、筋肉の萎縮や靭帯の弱化につながることがあります。
医師から動いてもよいといわれたときには、不安に思いすぎず、少しずつ安静度を解除していくことが重要です。
参考文献
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