急性腎障害とは、腎機能が急激に低下する状態の総称です。急性腎障害は多くの場合ICUなどに入院している患者さんにみられますが、高齢の方の場合は気づかないうちに発症している可能性もあります。血圧が突然低くなったり脱水状態になった場合には注意が必要で、毎日の血圧と体重測定が急性腎障害の早期発見と予防に役立ちます。急性腎障害のガイドライン作成にも携わっている、名古屋大学腎臓内科教授の丸山彰一先生にお話しいただきます。
急性腎障害とは、急激に腎機能が低下した状態を指します。かつて、腎機能が特に著しく低下した状態は「急性腎不全(ARF)」と呼ばれていましたが、現在ではこの状態に加え、腎不全に至らないより早期・軽度の腎機能低下を含めた概念を「急性腎障害」として定義しています。
かつて、腎不全は急性腎不全、慢性腎不全の2種類に分類されていました。しかし最近になり、急性腎不全としての基準を満たさない微細な腎機能低下が、患者さんの生命予後を大きく低下させることがわかってきました。腎機能低下の早期段階で患者さんに治療介入するために、急性腎不全からより軽度の腎障害までを幅広く含めた概念が必要とされるようになったことから、急性腎障害という定義が創設されたのです。
なお、これは慢性腎臓病(CKD)の定義が誕生した経緯と類似しています。
※慢性腎臓病(CKD)は、かつては慢性腎不全と呼んでいた病態を含め、軽症の慢性腎機能低下全般を指した名称です。CKDも腎予後のみならず患者さんの生命予後を悪化させます。
急性腎障害の病態は、院内発症の急性腎障害と院外発症の急性腎障害に分けて考える必要があります。なぜなら、外来で診療する急性腎障害と入院中に起こる急性腎障害は病院での対応の仕方や注意すべき点が異なるためです。
意外に思われるかもしれませんが、急性腎障害はICUを中心とした病院内で多く発生します。ICUで起こる急性腎障害の場合、患者さんの死亡率が非常に高いのが特徴に挙げられます。一方、急性腎障害の外来患者さんの死亡率は、院内発症の急性腎障害による死亡率ほど高くありませんが、慢性腎障害につながる危険性があり注意が必要です。
ICUの患者さんは常に医師や看護師に管理されているので、たとえ急性腎障害が起こったときでも早い段階で軽度の異常に気づいて処置できます。ただし、ICUに入院されている患者さんはわずかな体調の変化も命に影響するので、軽症の腎障害が多くても死亡率が高まるのです。
これに対して院外で起こる急性腎障害の場合、患者さん自身が血液の数値であるクレアチニンの増加に早期に気づくことは困難です。そのため、病院を受診したときには重症の急性腎障害に陥っているケースが多くみられます。外来に来る患者さんの場合は、もともとお元気な方が多いため補液等の適切な処置によって比較的容易に回復し、死亡率は低くなっています。しかし、腎臓は完全にもとの状態には戻らず慢性の腎障害を残すことが少なくありません。
院外で起こる急性腎障害の場合、重要な徴候のひとつは「脱水」です。
また、高血圧で降圧薬を服用している方(特に高齢者)の場合、夏場の急激な血圧低下にも注意が必要です。
腎臓病の症状として「浮腫」をイメージする方は多いかもしれませんが、急性腎障害の場合、浮腫はあまり起きません。むしろ脱水状態になっていることの方が多いといえます。
脱水の程度は体重測定によって判断できます。体重はなるべく毎日測ることを推奨します。
たとえば体重が1日で2㎏以上減少していれば脱水の可能性があります。食欲が湧かず、脱水かもしれないと感じたときには注意が必要です。
原因についても、外来と入院に分けて考えることができます。
入院患者さんの場合、原因はがん、感染症、敗血症などの原疾患によることがほとんどで、これらの病気で入院している方が二次的に腎虚血になったり、全身の状態悪化に伴い腎機能が低下するケースが多数を占めます。また、心臓手術や造影剤の使用後に急性腎障害を発症する場合もあります。
外来でみられる急性腎障害の場合、まずは脱水の有無をチェックします。利尿薬や腎臓への血液量を落とす降圧薬が腎機能低下の原因になる場合も少なくありません。
一部の降圧薬や利尿薬には腎臓の負担を軽減する働きがあり、特に慢性腎障害のある患者さんに処方されることがありますが、過度の降圧や脱水は逆効果です。利尿薬や降圧薬は諸刃の剣です。そのため、夏季には利尿薬の中断や降圧薬の内服量の調整を指導することがあります。
また、稀にですが薬剤性の腎障害(間質性腎炎)が起こることがあります。我々は常にこうした医原性の腎障害の可能性を念頭に置いて診療を行っています。
また、一般的に急性腎障害は下記の3種類に分類されます。
腎後性は前立腺肥大などによって急性腎障害が起こるタイプで、原疾患を除去することで治る見込みがあるため、見逃してはならないと考えます。一方、腎性と腎前性は理論的には分類できるものの、臨床的にははっきりと区別されません。あくまで一般的な分類として認識しています。
慢性腎臓病とは腎機能低下が慢性化した状態で、階段状に病状が悪化するといわれています。
最近では、高齢者の慢性腎臓病の発症・進行には急性腎障害が関係していると考えられています。
つまり、腎臓の予備能力が低い高齢者の場合、心筋梗塞や夏場の脱水など何らかのトリガーによって軽度の急性腎障害を繰り返しており、これが原因でやがて慢性腎臓病(CKD)が進行していくのではないかということです。
急性腎障害の検査としては、血液検査(クレアチニンの値が診断には重要です)およびエコー、あるいはCTが行われます。クレアチニンの値から腎臓の働き具合がわかります。エコーやCTで水腎症(腎臓に水がたまる)がみられれば、腎後性腎障害と診断できます。腎臓が小さくなっている場合は慢性腎障害の存在が、腎臓の大きさが保たれている場合は急性腎障害の存在が示唆されます。
急性腎障害の分類には2016年現在でRIFILE分類、AKIN分類、KDIGO分類の3種類があります。KDIGO分類は急性腎障害のなかで最も新しい診断基準であり、日本腎臓学会では標準的な診断としてKDIGO分類を用いた生命予後予測の提案を推奨しています。
1. ΔsCre ≧ 0.3mg/dl (48h 以内)
2. sCre の基礎値から 1.5 倍上昇 (7 日以内)
3. 尿量 0.5ml/kg/h 以下が 6h 以上持続
定義
1. Δ血清クレアチニン濃度≧ 0.3mg/dl (48h 以内)
2. 血清クレアチニン濃度の基礎値から 1.5 倍上昇 (7 日以内)
3. 尿量 0.5ml/kg/h 以下が 6h 以上持続
血清クレアチニン濃度(sCre)基準
尿量基準
Stage1
ΔsCre>0.3mg/dl or sCre 1.5-1.9 倍上昇
0.5 ml/kg/h 未満 6h 以上
Stage2
sCre 2.0-3.0倍上昇
0.5 ml/kg/h 未満 12h 以上
Stage3
sCre 3.0 倍上昇
or sCre>4.0mg/dl までの上昇
or 腎代替療法開始
0.3 ml/kg/h 未満 24h 以上
or 12h 以上の無尿
注)定義 1~3 の一つを満たせば AKI と診断する。sCreと尿量による重症度分類では重症度の高いほうを採用する。
このように、KDIGO分類には血清クレアチニンによる分類と尿量による分類の2つがあります。診断には尿量の測定が重要ですが、外来患者はもちろん、入院患者さんにおいても尿量測定はあまり実施されていません。急性腎障害を疑った場合は、尿量測定の実施を念頭におく必要があります。
現在、日本腎臓学会が主体となり、日本集中治療医学会と日本小児腎臓病学会と共同して、急性腎障害のガイドラインを作成している最中です。私もこのガイドライン作成に携わっています。
残念ながら急性腎障害そのものを治療する特効薬はまだありません。原因に対する治療が行われます。原因が特定できれば治療方法が定まるため、患者さんの病態を総合的に判断してしっかりと診断をつけることが重要です。
特に高齢の方では、夏場に脱水を起こしたり、過度に血圧が下がったりすることがあります。これが急性腎障害の原因になります。脱水を防ぐためにはこまめに水分補給を行うことが有効です。体重測定をすると早めに脱水に気づくことができます。降圧薬を内服されている方では、毎日血圧を測定することをおすすめしています。通常の血圧と比較して極端に低くなっている場合、あるいは最高血圧が100以下に下がっているときなどは、降圧薬の服用を一旦中断して主治医に相談してください。
名古屋大学腎臓内科 教授
丸山 彰一 先生の所属医療機関
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