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インタビュー

人口構造の変化に伴う医療政策の方向性-超高齢・人口減少社会に向けて

人口構造の変化に伴う医療政策の方向性-超高齢・人口減少社会に向けて
島崎 謙治 さん

政策研究大学院大学 教授

島崎 謙治 さん

今後、日本は未曾有の超高齢・人口減少社会を迎えます。人口構造は一朝一夕に変えることはできないだけでなく、社会経済全般に大きな影響を及ぼします。医療も例外ではなく今後厳しさを増していきますが、そうしたなかで起こりうる問題を解決するために医療政策があります。

政策とは、制約条件下での将来に向けた選択であり「未来から逆算して今取り組むべき課題を措定することが必要」と語るのは、政策研究大学院大学の島崎謙治教授です。今回は、日本の人口構造の変容と医療政策の方向性についてお話をお伺いしました。

近未来の日本の人口構造は表のように大きく変容すると見込まれています。この表を見ると、総人口が減少するだけでなく、人口構成が大きく変わることがわかります。たとえば、年少人口(15歳未満の人口)や生産年齢人口(生産活動に従事しうる15〜64歳の人口)は減少が加速していくのに対し、老年人口(65歳以上の人口)はしばらく増加を続け、ピークを迎えた後も減少の幅が小さいことがわかります。

総人口

人口3区分

高齢化率

老年人口の生産年齢

人口の対する比率

年少人口[15歳以上]

生産年齢人口[15〜64歳]

老年人口[65歳以上]

(参考)再掲[75歳以上]

2010

12,806

 (100)

1,684   (100)

8,173

(100)

2,948

(100)

1,419

(100)

23.0%

2.8人で1人を支える

2035

11,212(88)

1,129(67)

6,343(78)

3,741(127)

2,245(158)

33.4%

1.7人で1人を支える

2060

8,674(68)

791(47)

4,418(54)

3,464(117)

2,336(165)

39.9%

1.3人で1人を支える

表:将来人口の基本指標 (単位:万人)

(注)括弧書は2010年を100とした場合の割合です。

(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」[出生中位・死亡中位]を基に作成)

このような人口構造の変容について特に押さえておくべきポイントが4点あります。

・総人口の減少

・高齢化の進展

・生産年齢人口と年少人口の激減

・老年人口の生産年齢人口に対する比率の急騰

今後半世紀の間に、日本の総人口は約3分の2まで減少します。特に高齢化に伴う死亡者数の増加と出生数の減少の2つの要因により、2035年以降の減少幅は非常に大きくなると見込まれます。具体的には、2035年から2060年にかけて、平均して毎年100万人もの人口減少が続くと予想されています。

総人口の減少と並ぶ大きな課題は高齢化の急速な進行です。65歳以上の老年人口は2042年頃まで増加し、その後は減少傾向に転じます。しかし、総人口の減少幅が大きいため、2060年には10人に4人が高齢者という時代がやってきます。さらに老年人口の中でも75歳以上の後期高齢者の増加が顕著です。これは、1947年から1949年のベビーブームの時代に生まれた「団塊の世代」が2025年にはすべて後期高齢者になることが主な要因です。象徴的なのは100歳以上の人口です。100歳以上の高齢者は、1963年には153人しかいませんでしたが、2015年には6.2万人となり、2035年には34万人、2051年には70万人を超すと見込まれています。そうしたなかで、たとえば105歳の母親を75歳の娘や息子が介護する例が多数起こりえます。その精神的・肉体的・経済的負担は並大抵ではなく、地域全体で医療や介護に取り組むことで少しでも負担を軽くすることが重要な課題になると思います。

老々介護のイメージ画像

一方、生産年齢人口(生産活動に従事しうる15~64歳の人口)と年少人口(15歳未満の人口)は急激に減少していきます。生産年齢人口は、今後半世紀の間にほぼ半減すると予想されています。生産年齢人口が減少するということは、労働力人口が減ることを意味しており日本の経済成長にとって大きな痛手となります。また、年少人口の急減は出生率が多少上がっても食い止められません。というのは、1970年代の半ば以降長期にわたり出生率が減少し続けた結果、出産年齢人口(子どもを産む親の人口)がやせ細ってしまっているからです。

老年人口の生産年齢人口に対する比率をみると、高齢者1人を生産年齢人口何人で支えるかを表す指標を得ることができます。その推移をみると、2010年は現役2.8人で1人の高齢者を支えていたのが、2035年には現役1.7人で高齢者1人を、2060年には1.3人で1人を支える社会になると見込まれます。

このような人口構造の変化が医療・介護に及ぼす影響には、大きく分けて、医療や介護の費用に対するものと人的資源に対するものの2つがあります。

2013年度から2025年度にかけて総人口は減少しますが、高齢化の影響により医療費は増加します。また、医療費については、医療技術(新薬の開発を含む)の進歩も高齢化に匹敵する増加要因です。たとえば、免疫の働きを利用する抗がん剤のオプジーボが保険適用されるようになりましたが、その費用は1人あたり年間約3,500万円にものぼります。このため、現在こうした薬価(保険で支払われる薬の値段)の見直しが大きな問題になっていますが、高齢化および医療の進歩の2つの要素を考えると、医療費・介護費は今後1人あたり年平均3%程度増加していくと見込まれます。

次に、医療・介護を支える日本の経済成長を考えてみると、超高齢化・人口減少社会は、基本的に経済成長にマイナスの影響を及ぼします。実際、日本の経済成長率はゼロ%台まで低下しており、医療費・介護費の伸び(支出)とのギャップは大きくなっています。さらに、景気の低迷により税収も伸び悩んでいるため、多額の特例公債(赤字国債)の発行を余儀なくされ、国の借金は増加の一途をたどっています。これらの要因により、日本の医療・介護における財政制約は非常に厳しいものとなると考えられます。

人口構造の変化は、いまお話したような財政面の問題だけでなく、医療供給面にも影響を与えます。端的にいえば、医療や介護の担い手が不足するということです。実際、すでに介護の人材不足が深刻になってきています。その解決策として、外国から労働力を受け入れるという声が今後ますます高まると予想されますが、私は賛成できません。その本質的な理由は、東南アジアの合計特殊出生率が下がっているからです。たとえば、タイの出生率は1.4、ベトナムにおいては1.7程度まで低下しています。外国人労働力は日本の都合に合わせて来てくれるわけではありません。また、高齢者を海外に移すということも現実的ではありません。日本において日本人の医療・介護従事者をいかに確保するかという問題は財政の問題以上に深刻になると思います。

人口構造の変容に伴い医療は大きな影響を受けますが、その問題を解決するために医療政策があります。政策とは、「あるべき方向を目指し、現状の問題点を解決するための手法」と私は定義しています。まず医療・介護の財源確保のために検討しなければならない政策課題からお話しします。

公平な天秤

高齢化に伴い世代間の負担の公平を図ることが何よりも必要です。たとえば2025年には総人口の2割弱の後期高齢者(75歳以上の高齢者)が医療費の半分近くを消費すると見込まれていますが、この費用を負担しているのは高齢者だけではありません。現状では、後期高齢者の保険給付費の約9割は現役世代からの支援金や税金で賄われています。今後、現役世代の人数が減る一方で高齢者が急増していくことを考えると、現役世代からの支援金や税金だけでは足りず負担のルールのあり方を見直す必要があります。具体的には、たとえば高齢者の自己負担率を原則1割から現役世代と同様の3割に引き上げることを検討すべきだと私は考えています。これは政治的には簡単なことではありませんが、今後高齢者の有権者比率が高まるにつれ、高齢者に負担を求める改正は一層行いにくくなることに留意すべきです。

また、社会保障の持続可能性を確保するためには安定した財源の確保が不可欠です。そのためには所得税や法人税等の見直しも必要ですが、それ以上に重要なのは消費税率の引上げです。消費税は、税率1%あたり約2.8兆円(2015年度ベース)の税収効果が期待できるとともに、所得税などと比べ景気の変化に左右されないという特徴があります。また、消費税は個人が物やサービスを購入する都度負担するものであるため、世代間の公平性が保たれるというメリットがあります。さらに国内消費に対してのみ課税されるというルールがあるため輸出にマイナスの影響を与えることもありません。これらの理由から消費税率の引き上げによる財源の確保が有効であると私は考えています。

遠隔診療

今後は医療・介護分野における労働生産性の向上がより一層必要となります。高齢化の進展とともに医療・介護分野への労働力の投入の拡大は不可避となりますが、それだけにその労働生産性を引き上げることが重要になります。これ

は医師や看護師に過酷な労働を強いるということではありません。医療機能の分化や連携の推進、遠隔診療等を含むICT(情報通信技術)の活用、AI(人工知能)や医療・介護ロボットの活用等を進めることが重要です。また、それぞれの職能範囲を見直し、たとえば医師でなくてもできる仕事は他の職種に委ねるという対策も医療・介護の効率化のためには有効です。さらに、高齢者の就業率を高め労働参加率の引き上げることも大切ですが、その前提になるのは健康であり、疾病予防や介護予防に力を入れることも大切になります。

医療機能の分化・連携を進めるために現在厚生労働省が進めているのが地域医療構想です。地域医療構想とは、一定の医療圏域ごとに2025年に各病床機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4区分)において必要となる病床数を推計し、過剰病床の削減や病院の再編を図るものです。住民や医療・介護の関係者が地域医療の将来像や課題について共通認識をもつことは大切であり、私は地域医療構想を策定することに賛成です。

ただし、地域医療構想は単なる病床の機能分化にとどまるべきではありません。本来、地域医療構想は地域の「総合生活構想」として捉えるべきものです。というのは、超高齢社会では医療や医療政策の本質が変化していくからです。若い方の場合は病気の原因をつきとめて除去すれば治るという場合も多いかもしれません。しかし、高齢者の場合は、複数疾患を抱えていることも多く老化が原因で完治が難しいという実態があります。そのため、医療政策の守備範囲は「疾病を治す」ことだけではなく「生活を支える」ことにまで広がってしまうのです。したがって、医療政策を遂行するうえで保健・介護・福祉・住宅などとの連携が不可欠になります。ちなみに、高齢者の生活を地域で支える地域包括ケアが強調されていますが、地域医療構想も地域包括ケアも人々の「生活を支える」という意味では表裏一体の関係にあると捉える視点が大切だと思います。

高齢者の介護

また、医療では地域の実態をよく踏まえ政策を展開する必要があります。たとえば、過疎地を抱える自治体ほど人口減少のスピードが速い傾向がみられます。また、都市部と農村部では病院や医師・看護師の充足状況など医療資源の分布なども大きく異なります。したがって、国で一元管理をするのではなく、各都道府県が中心となり市町村と協議しながら地域医療構想実現のために取り組む必要があります。そのためには、人材の育成を欠かすことはできません。地域医療構想や地域包括ケアを実現するためには、高度な分析力、企画力、調整力を持った人材が必要となります。国は研修等に一層力を入れる必要がありますが、自治体も医療・介護の人材育成にもっと投資すべきです。

島崎教授

近未来の人口構造の変容は過去の結婚や出生行動の影響によるものであり、相当程度「所与」のものとして受け止めざるをえません。たとえば、これまでお話ししてきた将来人口に関する数字は国立社会保障・人口問題研究所の2012年1月の推計によるものであり、おそらく来年早々には2015年の国勢調査を踏まえた新しい推計が出されるはずですが、大きな傾向はさほど変わらないはずです。けれども、それは「未来は変えられない」ということではありません。厳しい社会が待ち構えているからこそ、そこで生じ得る問題を予測し今からその解決策を練り備えることが大切です。それこそが政策なのです。そしてそのためには、「今のままで何とかなる」、「誰かが考えてくれる」という姿勢ではなく、一人ひとりが当事者意識をもち、知恵を絞るとともに実践を重ねていくことが必要だと思います。

島崎 謙治先生の著作